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67.わたくしは、ちょっとだけ、嫌な予感がした。
しおりを挟む馬は、二人分の体重を掛けているから、すぐに疲れる。
「ねえ。高紀子、ちょっと、アタシ、状況が見えないんだけど?」
わたくしの背後から、香散見さんが聞いてくる。
たしかに、寝起きをいきなり連れてきたのだもの……とはいえ、わたくしも、良くは解らないのよ。
「……御所が燃えているという話です。しかも、もともと、五の宮さまは、御所に火を付ける計画があったようです。でも、今回は身に覚えがないらしく、大慌てで出仕なさったんです」
「なんで出仕?」
「ここで、主上の心配をして駆けつけなかったら、一体、どうなりますか! ……香散見さんも、ここで、急いで御所に駆けつけないと、きっとあらぬ疑いを掛けられてしまうはずです」
たとえば、主上を心配しなかった―――ということで、死罪、ということも、十分に考えられるのです。
「ちょっ……っ」
香散見さんが焦るのが解る。
「高紀子、急いでっ!」
「急いでますっ! でも、この子、これが限界なんです。それに、五の宮さまのお邸から、馬二頭もお借りできないし……」
わたくしは、馬の首を撫でながら言う。
「ああんっ! 歯がゆいわっ!」
「おそらく、御所へ行っても、皆様避難なさった後だと思います。これだけの火の手が上がっていると言うことは、きっと、小火ではないと思いますので」
まだ、前方―――御所の方角では、ちろちろと舌を伸ばしてうごめき回る焔が、夜の空を舐めているのが見える。
おそらく、主上は一旦、三種の神器と供に逃げているはず。
「そうすると、仮の御所となるのは、おそらく、わたくしの実家です」
「二条関白家か。アンタの実家ならば、広いし、御所からも近い。うってつけの場所といったら、そうよね」
「ええ………十中八九、わたくしの実家です。そうしたら、すぐに、男装束にお着替え下さいませ。東宮殿下の御料ではありませんけれど、わたくしの実家にも、それなりの身分のものが着る束帯一式くらい在りますわ。
関白から借りたと仰せになって、すぐさま、主上の御前に参内して下さいませ。わたくしは、万一、五の宮さまに遭遇すると厄介ですので、引っ込んでおりますけれど」
香散見さんが、女装していることを、人に知られてはならない。この方は、女装で身を守っているのだ。だから、なんとしてでも、秘密は死守。
「だけど、ちよっと心許ないのよね……」
香散見さんは呟く。
たしかに、万一のことを考えると、香散見さんにお付きの女房ひとり居ないとサマにならないし、万一、直接香散見さんの命が狙われた場合、香散見さんの身を守る人が、誰も居ない。
わたくしは、ちょっとだけ、嫌な予感がした。
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