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60.わたくし、調査開始ですわ!
しおりを挟むさて、かくして、わたくしと香散見さんの、無謀な、五の宮さまのお部屋を探る計画が開始いたしました。
香散見さんは、相変わらずの貫禄というか、威厳というか、滲み出た高貴さだったのか……とにかく、そこに居て、しずしずと歩くだけで、人を寄せ付けないような雰囲気になる。
はっきり言って、わたくしより、『二条関白家の姫君』というのが、説得力がある。
わたくしも、香散見さんの顔を隠して廊下を行きながら、近寄りがたい雰囲気を感じてしまうもの。
とりあえず、先ほど、家令の人が来て、
『ぜひ、宴の席においで下さい』
と、五の宮さまからの伝言を持ってきてくれたのだった。
そして、わたくし達は、東宮殿下が書いたという文を胸に、宴席の行われている母屋へと向かっている。
わたくし達を先導しているのは、家令なので、ここで、迂闊なことを言うわけには行かないし、そもそも、お声の低さでバレてしまうと思うから、香散見さんには、一言も会話をさせてはならないという制約付き。まあ、貴族の『お姫様』は、顔を晒してはならないし、声も聞かせてはならないという『決まり』があるから、大丈夫だとは思うけれど。
母屋に近づくにつれ、管絃の音が大きくなっていく。そうとう、楽器の名手が揃っているのか、素晴らしい演奏だった。
わたくしも、楽器の演奏には慣れ親しんでおりますからよく解りますけれど。
龍笛に琵琶、篳篥に笙。どれも、素晴らしいものだった。
うっかり聞き惚れて居たわたくしが我に返ったのは、家令に語りかけられたからだった。
「お姫様方、どうぞ、こちらが母屋でございます。……本来ならば、廂まで入って頂くのですが、本日は、気むずかしいお客人がおいでですので、どうぞ勘弁してくださいませ」
まあっ! 女性を簀子に通して対面するなんて酷いわねとは思ったけれど、わたくしも、ボロが出ては困るので、「かしこまりました」と受けておいた。
わたくしたちの来訪に、管絃の手が止まる。
御簾越しに、五の宮さまや、ほかの方々が居る。実は、今は、中のほうが明るいから、御簾越しでもかなり内部の様子が把握できた。
御簾の先には、五の宮さまと、直衣の男が居た。この直衣の男は、初老くらい。顔立ちまでは解らなかったけれど、件の右大臣のようだ。
「こちらは、二条関白家の一の姫君でございます。主に代わりまして、一夜の宿をお借りできましたことを、お礼申し上げます」
わたくしは、手慣れた侍女を装いつつ、朗々と申し上げた。
さあ、いまから、なんとか、五の宮さまを探るのよ。
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