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58.わたくしには止められませんわ
しおりを挟む尻餅をついたわたくしに近づいて、香散見さんは、小声で言う。
「アンタ、中々、サマになってたじゃない」
「苦労しましたわよ。……だって、香散見さん、背が高すぎるのですもの! わたくしは、いつ、香散見さんの正体がばれやしないかと、ひやひやしていたのですよ!」
「大丈夫よ~。まさか、アタシが、東宮だなんて思いもしないだろうしね~」
相変わらず、楽観的なこの方が恨めしい。
「それで、香散見さん、このあと、如何なさいますの?」
「イヤねぇ! 勿論、調べるわよ! いいこと、アタシが欲しいのは、証拠なの。アイツら、アタシを殺そうとしている確かな証拠が欲しいのよ。牛飼童の証言なんかじゃなくて、もっと、確かな証拠が!」
香散見さんの仰有ることは良く理解できた。ただ、わたくしには、『証拠』というのが、一体どういうものなのか、想像が付かなかったのだけれど。
「アンタ、ちゃんと、解ってる?」
「ええ、証拠、ですわよね?」
「そうよ! ……たとえば、こういうときは……五の宮が、ほかと結託するような時には、お互いに裏切らないようにと……、連判状の様なものを書くのが定石よ。アタシは、それが欲しいわ。もし、それが手に入ったら、なんとでもなるもの!」
「もしかして、香散見さん……盗み出すおつもりですか?」
わたくしの問い掛けに、香散見さんは、にやーっと笑った。
ああ、なんと言うこと! 畏れ多くも『東宮殿下』が盗みを働くだなんて!
わたくしは、本当は、お止めしなければならないのでしょうけれど……香散見さんが、あまりにも意気揚々と出て行かれるものなので、つい、「畏まりました」と受けてしまった。
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