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55.わたくし、張り込みの真っ最中
しおりを挟む四人乗りの牛車に二人で居るので、広々としているはずだと思って居たわたくしが愚かでした。
結局、四人乗りの牛車って、ぎゅうぎゅう詰めなのですわよ。
それが、二人になったところで、閉塞感は、代わりません。
というわけで、わたくしは、香散見さんに後ろから抱きかかえられて、あちこち触られたり、耳や首筋に口づけを落とされたりしながら、張り込みの真っ最中ですけれども。
こんなことをなさっていたら、目立つんじゃ……とわたくしが申し上げたら、香散見さんは、ここ一番の良い笑顔で、こう宣いました。
「あらー、大丈夫よー。ここで、乳繰り合ってた方が、いざって時に、不審がられないわよ。なんだか、人気のない道で、若い者達が盛り上がっちゃって、道の端で、おっぱじめちゃったーって言う方が」
ふざけないで頂きたいわ!
とは思いましたけれど、勿論、抗議するのも、ばかばかしいので、はい、やめましたわよ。
「けど……なんだか、妙ですわよ」
「なにがぁ?」
「だって……なんだか、邸の中が騒がしそうですもの」
「んー、少し、盗み聞きできたら最高だったんだけど……」
香散見さんは、思案して「ちょっと、アンタ、盗み聞きしてきなさい」と牛飼童を偵察に出してしまった。
「大丈夫かしら……あの牛飼いの子」
「あー、大丈夫よ! 牛飼いってのは、いろんなところに出入りが効くのよ。なにせ、牛でしょ? いきなり道に座り込んだり、道草たべたりするんだから。それに、餌をわけて貰うこともあんのよ?」
「そうだったんですか?」
「ええ、そうなのよ。だから、探って貰うには丁度良いわ」
わたくしは、しばらく、牛飼童を案じておりましたけれど、わたくしの心配など、素知らぬ様子で、牛飼童が戻って参りました。
なんと言ってお邸に潜入していたのか、気になりますけれど。
「あらー、アンタお疲れ様。それで、なにか、聞こえてきた?」
牛飼童は、真っ青な顔をして居た。
「あ、あの……いまから……こちらのお邸には、お客人がみえるそうです」
「あっそう。それで、なんで、そんなに青ざめてるのよ」
「それが……右大臣家の方が見えるそうで……、こんな時期に、東宮殿下が、近辺の寺に滞在されるのは、おかしいことだと……。それならば、いっそ、ここで、東宮殿下の在所を……襲撃しようかと……」
なんですって!
わたくしは、香散見さんを見遣った。
「すぐに動かない方が良いわ」
香散見さんは、冷静だった。
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