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49.わたくし、お墓参りですわ
しおりを挟むわたくしは、結婚する報告を死んだ乳母の墓前にしたいと言っただけなのに。
なんと、『東宮行啓』という、非常にものものしい事態になってしまって、溜息を吐く。これじゃあ、こっそり、五の宮さまのことを探ることも出来ないじゃない!
何でこんなことになって仕舞ったのかと言えば、すべて香散見さんのせいなのだけれど……。わたくしが、お詣りに行くと言い出したら、急に、こう宣った。
『ねえ、でもアンタ一人で行かせるのは、やっぱり不安よ。……今は、なにが起きるか解らない事態なんだし……』
『大丈夫ですわ。……さっと行って、ちゃんとお参りをして帰るだけですもの。なんの不安もありませんわよ』
『いいえ。……よりいっそう、注意を払った方が良いわ。そうね、アタシも一緒に行くわ。デートだと思えば良いじゃない!』
とは仰せになりますけれど、男女が連れ立って、どこかへ行く方がおかしいのですから……と思ったけれど、この方、全く、女装でしたわ。
『けれど! ……わたくしも、香散見さんも、お留守にしてしまったら、東宮殿下(偽)はどうするのです。万が一誰かに襲われてもなりませんし……なにかあったら、どうするのですか?』
『ん、もう! アンタったら、アタシの妃のなかで抜群に年が若いのに、アンタが一番口うるさいわよっ!』
その不名誉な言葉に、わたくしは、思わずカチンと来てしまったのよね。
『香散見さんは、わたくしの墓参には、関係ないでしょうっ!』
『関係あるわよっ! アンタ、アタシを連れていって、こんなに素敵な方と結ばれます! と報告しなさいよ!』
『なんで、そんなことをしなければならないんですっ! それより、東宮殿下(偽)のお話しですわよっ!』
『あーもー煩いっ! 良いわよ、じゃあ、東宮殿下(偽)がお出ましになるということにして、アタシたちは、お供の女房やれば良いじゃない』
『えっ……でも、それって……』
『そうよ? こうなったら、東宮行啓よ~っ!』
ということになったのだった。
わたくし、五の宮さまのことを調べたかったのに。帰り道に、五の宮さまのお邸の前を通るとか……そういうことが一切出来なくなったわよ。この方、わたくしが、なにか行動を起こすのを解っていて、東宮殿下(偽)も一緒に行くなんて、とんでもないことを仰せになったような気がする。
東宮行啓ともなると、陰陽師に暦を占わせて、出発の時にも反閇(独特の足運びで、魔除けを行う)を行ってからの出発だったし、随身は、三十人以上付く。
もの凄く、『お忍び』とはかけ離れた姿に、溜息を吐くしかない。
もっとも、一番、仕方がないと思っているのは、東宮殿下(偽)かも知れないけれど。
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