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45.わたくし、昼間・・・
しおりを挟む夜になると、針仕事もおしまい。
明かりをつけたところで、手元がぼんやり明るくなるくらいで、大して明るくはならないし、こんなにも大量の布を扱っているところで燭台が倒れたりしたら……と考えるだけで怖ろしい。
なので、わたくしは、日没と共に、この針仕事から解放される。流石に、毎日根を詰めて針仕事をするわたくしに、香散見さんは、こう仰有った。
『ねぇ、高紀子~。ちょっと大変そうだから、アタシ、人手探してくる?』
人手を探してきてくれるのはありがたいと思ったので、わたくしは、『ええ、お願い致しますわ』と答えそうになって、ハタと気がついた。
(ぜったい、この男は、今居るお妃様をわたくしのところに来させるつもりよ!)
という確信が、わたくしには在りました。この男に、人手など集められるはずがないのだ。
『一体、どんな方です』
わたくしは、警戒しながら聞きました。
『ん~? アタシの、ほかの妃たちよ』
この、悪びれもなく言えるところは、ある意味で、才能と言ってよろしいでしょう。わたくしは、開いた口がふさがらないと思いながらも、『結構ですわ。わたくし一人で間に合いますし』と突き放したように冷たく言いましたわよ。
『やっだー、高紀子。アンタ、嫉妬でしょ。それとも、なんとしてでも、アタシの装束を作りたい? むしろ、アタシがほかの女が作った衣装を着ていたら、嫌?』
駄目だこの方。
『はいはい。そういうことにしておいて下さいませ』
と言うやりとりがあって、一人で針仕事。
そして、香散見さんは、日が暮れる前にふらっと帰ってきて、『今日も疲れたわ~』なんて言いながら、脚を投げ出して寛いでいる。
なんだか、引っ掛かるのよね。
多分、わたくしには言いたくない―――或いは言えないようなことをなさっているのだと思うのだけれども。
一体、何をしているのか、わたくしには、絶対に言わない。
膳の仕度をして、夕餉をおえ、身支度を調えている最中も、何にも言わない。
香散見さんとわたくしは、一応『女房』同士ということで、同じ局で休んで居る。近くには、東宮殿下(偽)がお休みする御帳台も在るけれど、基本、二人きり。
「たーかーきこっ!」
わたくしは、なんだか、毎晩この方の腕に抱きしめられて眠るという日々を過ごしていて、入内前なのに、何をしているのかしらと思いつつ、どうせ、入内するのだからと最近では諦め気味だった。
ただ―――この腕の中は、とても居心地が良くて、余計な事を忘れてしまうのが難点で。
わたくしは、昼間人の気配がしたような気がするのを、香散見さんに言おうと思って居たのに、「香散見さん、わたくし、昼間……」と言った側から、言葉を口唇に吸い取れられてしまって、そして、忘れてしまった。
結局、全部、この方の掌の中だ―――と思いながら。
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