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44.わたくし、とにかく縫ってます!
しおりを挟むちくちくちくちく・・・・。
ちくちくちくちくちくちくちくちく・・・。
わたくしは、部屋一杯に積み重ねられた布の山を見て、ぞっとした。とにかく、縫っても縫っても縫っても縫っても、終わらないほどの装束地獄!
『だーからぁ』
と、香散見さんが宣ったのは、二日前。
『小袖だけじゃなくて、婚礼用の装束以外は、アタシ、高紀子の作った装束で新婚生活したぁい!』
その時の、わたくしのやり場のない怒り。
そう、わたくしは、なんで、まだ、お妃さまでもないこの男の装束を全部担当しなければならないのかと、怒りに震えていたわけで。だからと言って、いまのお妃さまの仕立てたモノで、わたくしと過ごすというのも、なんだか業腹。
というわけで、わたくしは、本当に致し方なく装束を作ることになって仕舞ったのだけれど……。
『小袖は~、いろいろと都合があるから、十枚くらい作って欲しいの』
『あの、都合ってなんですか?』
『えーっ? たまには、ほかの奥さんの所に行かないと、アタシも恨まれるって言うか。そしたら、自慢するのよ。新しい奥さんに、たんまり小袖作った貰ったからって!』
こ、の、男は~っ! わたくしは、なんだか叫び出したくなるのを必死に堪えましたわよ。
ほかのお妃さま方も、きっと、そうとう苦労されていることでしょう。
『いいじゃない。アタシ、奥さんは全員女御のままにするけど、アンタが正室よ。あとから来たアンタが正室なんだから、ほかの妃たちにも余裕のあるところを見せつけちゃってよ!』
わたくしの、やり場のない怒り!
これが、普通の殿方のように、通い婚だったら、絶対に三日は通わせないわよ!
『それと、一応、男装束と女装束欲しいのね。一応アタシって、東宮だから。束帯とか袴とか、あとは、女房装束も、お・ね・が・い・ね!』
そして、わたくしは、ええ。実家二条関白家の財力を活用して、ありったけの布地を手に入れましたわよ。
きっと、これで、趣味の悪い襲を開発したら、きっと、これ、わたくしが不名誉を蒙るってことよ。なんということ! 趣味の良い襲になるように布を選んで、ざっと印を付けて布用の小刀で裁つ。袖口には、糊を塗り込んで、くるくる巻いて仕上げる。それから、裁った布を縫っていく。
こんな作業を朝から晩まで、二日もやっているのに、終わらない。とにかく終わらない。
小袖十枚なんて、一日で終わったけれど、装束は無理、全然終わらない。
いったい、どこのどなたが、夫の装束は女が用意するなんという習慣を作ったんだろう。夫の装束は夫本人が作れば良いじゃない! 本当に、わたくしは、腹立たしくなってきた。
でも、とにかく日没までは手を動かす!
ひたすらに、ちくちくちくちくちくちくちくと手を動かしていた、わたくしは、ふと、視線を感じたような気がして、後ろを振り返る。誰も居なかった。
「そうよね……どなたも居るはずがないわ」
居るとしても、東宮殿下(偽)くらい。そのはずだ。
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