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43.わたくし、気がついたら・・・
しおりを挟むわたくしは、なぜ、ひとりぼっちで居るのかしら。
入内に向けて、小袖を縫いながら、わたくしは、ぼんやりと考える。
香散見さんは、わたくしには秘密にして、何かをなさっているご様子だし……。わたくしは、こうして、仕事の合間、昼間にしか出来ないから、針を動かしているけれど、なんだか、理不尽な気分になる。
なぜ、香散見さんは、わたくしを、のけ者になさるの……?
きっと、聞いても教えて下さらないから、余計わたくしは、腹立たしくなる。
「もどったわよ~、あら、高陽。アンタ、小袖作ってたのね?」
小袖は、わたくしたちの、下着のことね。下着だから、数も必要だし。殿方と一晩すごしたら、その明け方に、互いの小袖を交換する。所謂、後朝の衣のことだけれど。
やっぱり、初夜を迎えるのならば、まっさらな小袖がいいわ。
「ええ。……だって、わたくし、どなたか様に、嫁ぐことになって居るのですもの。その仕度に、小袖を作るのは当然ですわ」
「だからって、アンタ、何枚作るのよ」
あきれ顔の香散見さんに言われて、私は、ちょっと、恥ずかしくなる。もう、五枚も作ってしまったのよ。婚礼の装束が出来上がるまでの間、もう少し時間が掛かるから、きっと、その間に、また、小袖の枚数は増えると思う。
「あ、いいこと思いついたわ!」
香散見さんの声が弾む。わたくしは、なんだか嫌な予感がした。
「アタシにも小袖作ってよ。アタシも、まっさらな小袖で、アンタとの初夜を愉しみたいし」
ふふんっと香散見さんが笑う。
わたくしとの、初夜……と言う言葉が、もう、恥ずかしくてたまらなくて、わたくしは、香散見さんから顔を背ける。
「いやですっ! 結ばれる前から、小袖を用意することなんて出来ませんわ! 香散見さんが、自分でお作り下さいませ!」
「アタシに縫えるはずがないでしょ?」
それは、なんとなくわかる。第一、裁縫というのは、おんなの仕事だから、男の方で出来なくても、別に問題はないはずだった。だから、わたくしがつくっても良かったのだけれど………そうなると、後朝の小袖は、わたくしが作った小袖と、わたくしが作った小袖を交換すると言うことになる。それは、なんだか、あまり、面白くない。
「嫌ですわ、香散見さんが作って下さいませ」
「ちょっとぉ。そんなに無茶ぶりしてると、アタシ、他の妃に作らせるわよ? 実際、今は、あの子が作った小袖を着ているわけだし」
お妃さまが作った小袖と。わたくしが作った小袖。それを交換していると思ったら、とても微妙な気分になったのだ。
「わかりましたわ! つくります!」
気がついたときには、宣言していた。
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