オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

文字の大きさ
上 下
34 / 106

34.わたくし、看病いたしますわ

しおりを挟む



 東宮殿下(偽)のことは心配だし、香散見かざみさんのことも心配。

 毒は……ちゃんと、中和されたのかしらとか……、いろいろと考えてしまう。

 実敦さねあつ親王が、ここにおいでになったのも、わたくしは驚いたし……。実敦親王が、まだ、わたくしに心を向けて下さっていると知ってしまうと、どうしても恨み言が募るのよ。だったら、いっそ、早いうちに、東宮殿下に入宮してしまうと言うのも、一つの手段だったのに、香散見さんは、わたくしを女房として使うだけ。

 香散見さんは、一体どういうおつもりなんだろう。

 深夜まで続いた宴を終えて梅壺に戻ると、香散見さんが褥の上に倒れていた。明かりをつけて、様子を見ると、眠っているようで……けれど、魘されていて、寝苦しい様子だった。

 額に脂汗をかいていて、化粧が落ちかかっている。

 お薬は飲ませたけれど、まだ、駄目なのかしら。

 典薬を呼んできた方が良いかしら。けれど、どこに行けば呼べるのか解らない。

 また、お水を飲ませる?

 解らなくなったので、わたくしは、水を用意して、脂汗で滲んだ額を拭いて差し上げた。幾分、表情が柔らかくなった気がしたので、「香散見さん?」と呼びかけてみる。

 ほんの少し目を開いて、また、閉ざされてしまったようだった。

「世話は良いわよ、高紀子」

 不機嫌そうな声音で、香散見さんは仰有る。

「看病するのは、同僚女房として当然です。かえって、このまま、苦しんでいる同僚を見捨てる方が妙ですわ」

 わたくしの言葉を聞いた香散見さんは「勝手にしたら」と言って、苦しげに一度大きく喘いだ。

 何をどうすればよいか解らなかったので「香散見さん、何かして欲しいことは? やっぱり、典薬に来て貰った方が良いですか」と聞く。

 香散見さんは、ちらりとわたくしの方を見遣ってから「馬鹿なことを言わないで。典薬が頼りになるなら……とっくに、頼ってたわよ」と仰有る。

 つまり、香散見さんは、かつて典薬を信用できないような事態になったことがあるんだろう。

 それは気の毒だな……と思ったけれど、そうでもなかったら、この方が、身を守る為に、女房装束なんかお召しになることはなかっただろう。

 そういえば、梅壺は、東宮殿下の直廬じきろ(宮中に賜ったお部屋)だけれど、あまりにも人が少なすぎる。中宮さまだって、ご自分の実家から連れてきた女房達を局に住まわせているはずで、ざっと三十人は女房や端女を使っていると思う。

 なのに、ここには、わたくしと、東宮殿下(偽)と香散見さんの三人だけ。

 たまに来てくれる女房さんは、元々東宮殿下が使っていた女房の中でも信用できる人か、もしくは、東宮妃として香散見さんにお仕えする女人の女房か、どちらかだろう。

 そうだ。この方には、妃が居るのだから……その方に、来て貰った方が良いかしら。わたくしの腰が浮いたのを、香散見さんはめざとく見ていたらしい。

「高紀子、どこに行くの?」

「はい、東宮様のお妃様の所へ行こうかと……」

 言ってから、場所が解らないという事実に気がついたけれども、それはさておき。

「あれも、信用できないわ……だから、とにかく水を飲ませてよ……」

 水を……飲ませる。

 多少躊躇いながら、わたくしは、「わかりましたわ」と香散見さんの所へ向かった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...