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32.わたくし、心配しましたのに!
しおりを挟む床に倒れた香散見さんを見て、わたくしは、頭の中が、真っ白になる。
毒……? 毒って仰有いました? この方……。
毒を飲んだときは、どうすれば良いの? 典薬の方に来て頂く? でも、わたくしは、典薬がどこだか解らない。
「香散見さんっ、香散見さんっ!」
「高紀子……アタシの、懐に薬入れあるから……解毒、入ってるの。……飲ませて……」
ぱったりと、香散見さんは倒れて、動かなくなる。顔色が、ドンドン悪くなる。
なんとかしなきゃ!
わたくしは、無我夢中で、香散見さんの懐を探る。………うっ、不謹慎だけど、本当に、わたくしより、胸があるかも……。
そうではなくて! 薬入れというのは、小さな蓋つきの小箱のような物だった。螺鈿細工が施された、凝った品物なので、優美で美しい。その中に、丸薬が入っていた。なんだか、鼠の糞のような刑場のそれは、鼻が曲がりそうな匂いをしている。
これを香散見さん口に放り込んで……とおもったけれど、ぐったりしている香散見さんに飲み込めるとは思えない。
あ、つまり、わたくし、口移しで香散見さんに飲ませて差し上げなくてはならないというわけ?
仕方がない。やるしかないわ……。
私は意を決して、丸薬を口に放り込んで水を含む。そして、香散見さんに口づけして、口移しに、丸薬を飲み込ませた。
凄い味が口いっぱいに広がっていく。泥の中に、灰を突っ込んで、薬草といっしょに五年くらい熟成させたら、こんな感じかしらね。本当に、酷い。
何度か水を飲ませて差し上げると、すこし、顔に赤みが戻ってきた。
「あ……高紀子?」
ぼんやりした眼差しで、香散見さんは私を見上げる。
「少しお休み下さいませ。わたくし、付いていて差し上げますわ」
「ん……もうすこし、水を飲ませて?」
仕方がないけれど、毒を外へ出す為だったら、きっと、お水は沢山召し上がった方が良いのよね。わたくしは、何度か、水を含んで口うつしに飲ませて差し上げる。
三度ほど飲ませて唇を離すと、香散見さんは「もっと」とわたくしにいうので、もう一度水を含もうかと思ったら、腕を引かれた。
「きゃっ……」
香散見さんが、私を引き寄せて、口づけしてくる。宴が……御簾一枚のところで、続いているのにっ!
「暴れないで……アンタが可愛いことしてくれるもんだから、アタシも限界よ。少し、口づけくらいさせなさい」
香散見さんは無理やり、わたくしに口づける。いつの間にか、わたくしは背中に床を感じていた。組み敷かれてる……。
何度も何度も、繰り返し口づけを受けていると、それだけで、わたくしは、頭がぼうっとしてくるのを感じる。
駄目よ、これ以上口づけられたくないわ。わたくしは、香散見さんの胸を貸し返そうとするけれど、押し返せない。
「もう、そんな、泣きそうな顔しないでよ。……さすがに、アタシだって、これ以上しないから」
だけど香散見さんは、去り際に、私の頬にキスをした。
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