31 / 106
31.わたくし、唐菓子を頂きますわ
しおりを挟むとりあえず、いまの女房さんには、お引き取り頂いて。
なんだか、意外なことになったけれど、わたくしたちの時代って、ようは、そういう方向には、おおらかなのよ。
「なんだか、良くわからなかったわねえ」
香散見さんは、ため息をつく。
「おじさまから思いを寄せられて、良かったじゃないですか。なにかあったら頼りになるかもしれませんよ?」
「なにかあったら、助けて貰う代わりに、カラダ差し出すようじゃない。冗談じゃないわよ。……アタシは、清いカラダでいたいの!」
わたくし、ちっとも、清いカラダじゃないと思いますわ。
だって、東宮殿下ったら、妻にあたる、女御さまは何人かおいでだし、御子様だっていらっしゃいますもの。
わたくしをおめしになったのだって、女装の趣味……もとい、女装の理由を知られる訳にはいかないというだけで。
わたくし、まったく、とばっちり。
婚約破棄までとっとと決められたんだから、涙もでないわよ!
「そうなると、今日は、東宮殿下を害する方なんて、来ないんじゃないですか?」
わたくしの言葉をきいて、香散見さんも、「そおねえ」と言いながら、唐菓子に手を伸ばした。
小麦粉などを練り上げて油であげた上に蜜をかけた、貴重な菓子だ。
「あら。唐菓子なんて、どちらからの贈り物かしら」
今日の宴の為に用意した品ではない。月見の宴には、やはり円いものが好まれるので、丸くつくった餅を出していた。
白餅で、甘葛の汁を絡めて食べる趣向だ。
「えっ? これ、アンタが用意したんじゃないの?」
「ええ。わたくし、それを食べると体がおもくなったような気がするのですもの。だから、美味しいのですけれど、控えておりますのよ」
「アラ、じゃあ、これ、たんまり食べなさいよ。アンタは、どう考えたって、いたっぱちみたいな貧相な体つきなんだから、少しくらい肥えたほうが、アタシ好みなのよ?」
別に、香散見さんの好みじゃなくても……とは思ったけど、良く考えたら、わたくしは、このかたのものになるのだから、このかたの好みに合わせた方がいいということよね。
わたくしも、豊かな胸には、憧れがあるし。
「そおよお? いまのまんまじゃ、アタシの方が乳、あるからね?」
カチンと来ましたわよ。どういうことよ。さすがに、わたくしだって、香散見さんに負けるとは、思わなかった! そんなはずはないわ、絶対!
引くわけにはいかない。
わたくしの方が、女性らしい体つきだと言うことを、証明するためにも、食べなくてはならないわ!
「頂きますわ、遠慮なく!」
巾着形に作られた唐菓子に手を伸ばしたわたくしの手を、香散見さんが物凄いいきおいで叩き落とした。
「なにをなさいますの?」
床に転がった唐菓子が、残念だった。折角の、御菓子なのに。
手で拾おうとしたら、それも制される。
「どうなさったんですか?」
香散見さんは、顔色が悪かった。なんだか、様子もおかしい。
「毒を盛られたわ……しくじった……」
なんですって!
わたくしの目の前で、香散見さんは、ばったりと床に倒れたのだった。
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。


夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~
麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。
夫「おブスは消えなさい。」
妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」
借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる