オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ！

29.わたくし、配慮して欲しいのですわ

　わたくし、ちょっと考えたら、もの凄い状況だと言うことに気がついてしまいました。

　現在月見の宴の真っ最中。

　御簾一枚向こうでは、月見の宴が繰り広げられているというのに、わたくしったら、香散見かざみさんの腕に抱きしめられて、床に転がっているという状況。これは、かなり、マズイ、ですわよっ！

　ばれたら、本当に恥ずかしい。外を歩けなくなってしまう！

　けれど、香散見さんはお構いなしだ。そうよね、この方が、いままで、なにかわたくしに配慮して下さったことなんかないもの！

「香散見さん……わたくし、恥ずかしいので嫌です。こんなところで、不埒なことをしていたと、みんなに見つかったら、おかしなことになりますわ」

「えーっ？　なによ、それ」

「だって……こんなところを、誰かに見られたら……」

「なんともないでしょ？　それに、不埒って何よ、アタシ我慢してるのに。なんにもしてないじゃない」

　香散見さんが、むくれたように言う。我慢？　……我慢って、何のこと？　とわたくしがとぼけていると、香散見さんに口づけされた。

「このまま、装束乱されたら、もっと恥ずかしいことになるから、少し大人しくしてなさい」

　装束を乱される！　それは確かに、恥ずかしい。

　香散見さんの冷たい口唇が、わたくしの唇に重なる。大分、わたくしも、口づけにならされてしまった感じがするわ。嫌な感じではなくなってしまった。重ねるだけの所ならば……。

　そこから口づけが深くなっていくと、わたくしは、慣れることが出来なくて、舌を吸われたり、歯列を舌でなぞられたりするだけで、背筋が震えて身もだえてしまう。

「か、香散見さん……っ」

「あん。もう……なによ、高陽かや」

　口づけを繰り返し、その合間に、香散見さんは答えて下さるけれど、わたくしの方は、何かが限界だった。

「こんなことをしていて、……東宮殿下が狼藉者に襲われたりしたら……」

「ああ、そうね。そんなことになったら困るわ」

　香散見さんは、わたくしから引いた。香散見さんの口元から、わたくしの口唇まで、細い粘液の糸で繋がっているようだった。ああもうなんだか恥ずかしい……。

　香散見さんは、東宮殿下の席の前でごろんと横になった。

「また、そんなところに横になって……」

　わたくしは、香散見さんに文句を言う。丁度その時だった。

「東宮殿下のお取り次ぎの女房さまがた……火急の用事がございます」

　御簾の外から、女の声がした。御簾の下から見える顔は、当世風の、色白ぽっちゃりの美人だった。