オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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27.わたくし、生唾を呑み込みましたわよ

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 口移しでお水を飲ませろだなんて、この方らしい物言いだけれど。

「では、おみずなど召し上がらなければ宜しいのでは? ほんとうは、お水なんて、飲みたくのでしょう?」

 わたくしは、冷たくあしらうことに致しました。ただ、慣れない女房仕事で疲れ果ててしまったので、これ幸いと、円座に座って、一休みすることにはしましたけれど。

 円座に座ったわたくしに、香散見かざみさんは、ごろごろと床を転がりながら近づいてきて、腰に抱きついてくる。

 正直、鬱陶しい。

「香散見さん、離れて下さいませ」

「いやあよぉ~っ! アタシ、絶対離れないわよ?」

 頑として離れない香散見さんに、わたくしの正直な口唇は、深々とした溜息を漏らす。

「なによ、アンタ、溜息なんか吐いちゃって! 折角来たんだから、アタシにお水……」

 わたくしは、ことさら冷たい目で、香散見さんを一瞥しました。ええ、今はただでさえ宴の真っ最中。だというのに、一人で(仕事もせずに)酔いつぶれて、その上、水を飲ませろだなんて、わたくしをあまりにも馬鹿にしている。

「なによぉ、酷いじゃない。そんなに睨まなくったって……」

「わたくしだって、あなたが、そんなことばかり仰有らなければ、こんな、怖い顔をしなくて済むのです。ですから、どうぞ、わたくしへの態度をお改めになって……」

 香散見さんが、わたくしの腕を引く。床に転がる香散見さんに抱き留められて、慌てて身を起こそうとしたけれど、香散見さんの腕の中に引き寄せられてしまって、身動きが取れない。

「香散見さんっ!」

 抗議の声を上げると、香散見さんは、わたくしの耳許に唇を寄せた。吐息が、耳朶に掛かる。

「暴れないで」

 いつものふざけた声音ではなくて、低い声音で、香散見さんがわたくしに囁く。

「……そろそろ、刺客が動くわ」

 忘れてた。

「本当ですの?」

「ええ……。ここには、女房は、アタシとアンタの二人だけ。他に人は居ない……そのうえ、女房達が東宮そっちのけでいる。アタシなら、今狙うわ」

 思わずわたくしも、ごくり、と生唾を呑み込みましたわよ。




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