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25.わたくし、働いてますわ
しおりを挟むかくて、月見の宴の夜と相成った。
わたくしと、香散見さんは、相変わらず。
香散見さんは、はなっから覚える気が無いので、紙の場所も覚えなければ、食事の仕度もなさらない。そしてこの方はこう仰有るのだ。
『愛なんて、何が良いの?』
だから、わたくしとは、考え方が根本的に合わないのです。この方は、不幸にはならないだろうけれど、わたくしは、この方と一緒になったら、きっと不幸になるわね。
今まで、愛を信じてこなかった方に、愛を信じさせるなんて、絶対にむりだもの。
わたくしの人生は、できることならば、愛と和歌に溢れた、素晴らしいものにしたかったのだけれど。
なんだか、そんなことにはなりそうもない。
大体、この方、和歌詠めるのかしら……。少なくとも、わたくしだって、後朝の和歌くらいは頂く権利があると思うけど、それが代作だったらちょっと興ざめだわ……。
それとも、もしかしたら、東宮殿下とは後朝の和歌なんて、交わさないのかしら?
じゃあ、わたくしは、一生、この方から和歌を貰えない? ―――あんまりだわ。実敦親王だったら、毎日、沢山の和歌を下さるでしょうに。
「高陽~っ? どうしたの? 折角の宴なんだから、ちゃんと愉しまないと~っ」
香散見さんは、本当に自由に、東宮殿下(偽)の御簾近くで、酒を飲んでいる。この方、命を狙われてる自覚あるのかしら。
「わたくしは、あちこち狩り出されて忙しいんです!」
じつは、東宮付唯一の女房として、(みんな香散見さんのことは『見なかった』ことにしているらしい)やれ、禄の手配だとか、酒器の仕度だとか、膳を運ぶだとか、もの凄い仕事があるのよ。
その上、女房装束は、唐衣(下までないけれど、とにかく唐衣が重い。肩にずしりとくる)に裳(ずるずる引きずるので鬱陶しい)まで付けた完璧なものだったので―――重い。
想像して頂きたいのよね、香散見さんには。
わたくしみたいなも年端もいかない女が。女房装束を纏って、膳を運んだり、酌をして回ったりする、この惨状を!
本当に、わたくし……いままで、こんな風に立ち働いたことなんてなかったから、すべてが大変なのよ。わたくし、本当に、筆や箸より重いものなんて持ったことはなかったもの。
わたくしは、半分くらい、走ってましたわ。
月が綺麗ね……なんて、女房には、優雅なことをやっている場合はなかったのよ。月見の宴で公達と、良い雰囲気になって、あれやこれや駆け引き出来るのは、身分の高い女だけだと、わたくしは、本当に痛感していたのです。
わたくしだって、ほんとうなら、そちら側だけれど―――いままで、こんなに自分の女房たちが大変だとは思わなかったから。あとで、労って上げなきゃ駄目ね。
わたくし、汗だくになりながら、宴の席を走り回っていた。
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