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24.わたくし、恋愛結婚がしたいのですわ!
しおりを挟む「香散見さん……あの、わたくし、失言でしたわ」
謝ると、香散見さんは「なんのこと?」ととぼけてみせる。なんとなく、厄介な予感がした。
「香散見さんの、気に障りましたわよね……? わたくし、言葉が過ぎましたわ」
実敦親王と、比べていたのは、わたくしのせい。それは、わたくしが、無神経だったからだわ。
「そんなに真剣な顔をしないでよ、高紀子」
香散見さんは笑いながら、わたくしの髪を撫でた。
「アタシもアンタも焦りすぎなのよ、すこし、ゆっくりやりましょ?」
こくん、とわたくしは頷く。
「アタシは……多分、アンタを中宮にはしないと思うの。女御のまんまだと思うわ。だけど、他の女に男の子が生まれても、絶対にアンタの子供を東宮にする。それは誓ってあげる」
キッパリと言い切るのは良いんだけれど。わたくしが欲しいのは、そんな確約ではないのよね。―――というのを、この方は、ご存じないのだわ。おそらく、この方の周りには、いままで、そういう方しか居なかったのだろうし。
「あの、香散見さん」
「なあに?」
「わたくし、そんなお約束は必要ありませんわ。そういうお話しは、実家としてくださいませ」
案の定、香散見さんは、きょとんとした顔になった。
「なんで? アンタを国母にするっていってンのよ?」
「国母でも、国母でなくとも構いません……ただ、少しのワガママを許して頂けるのでしたら、わたくしは、好き合った殿御と結ばれたいという願望があります」
「そんなの一瞬の夢かも知れないじゃない。―――たとえば、アタシが、今年アンタを溺愛したとしても、来年まで続くとは限らないのよ? そんな、不確かなものに、なんの価値があるって言うのよ」
香散見さんは、わたくしの言葉が信じられないらしい。
けれど―――人は、ずっと昔から、恋を歌にして、傍らに置いて、或いは他の方の気持ちに自分の気持ちを寄り添わせてきたわ。だから、恋は不確かだけど、価値があるのよ。古今東西、老若男女。そうして生きてきたのですもの。
「香散見さんは、解らなくても宜しいわ。大切なことは、わたくしは見失わないようにしたいの」
「大切なこと……、ねぇ」
「ええ。大切なことですわ」
わたくしは、キッパリと言い切る。そう。わたくしは、見失いたくないわ。
「アンタの大事なもの……アタシにも大事なものになれば良いんだけど」
そうなってくれれば、わたくしも、もう少し、意固地にならなくて済むような気がしますけれど。勿論、こんなことは、この方には言わない。
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