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22.わたくし、気を取り直しますわ
しおりを挟むしばらく欄干にもたれ掛かっていたら、わたくしは、やっと冷静になることが出来た。
こんなところにいても、状況は変わらないし、どなたかからの助けを待っているようでは、ただの子供だわ。助けなど来ないだろうし、たとえ来たとしても、それで、わたくしはどうするの?
そう。わたくしは、二条関白家の姫として、やるべき事を果たす義務があるのだから。
かんたんに自分の命を振りかざしたのも恥ずかしい。わたくしは、そんな安い命の持ち主だったかしらね。
そうじゃないはずよ。
わたくしは気を取り直して、―――仕方がないけれど、梅壺に戻ろうとした廊下に、香散見さんが居た。
「はぁい? 高陽。ちょっとおいで」
香散見さんは、わたくしの手を引いて無理やり引っ張っていく。
「か、香散見さん、わたくし、こんなに早く歩けませんわっ!」
苦情を言うと、香散見さんは、わたくしの身体を抱きかかえてしまった。
「か、香散見さんっ!」
恥ずかしくて、わたくしは、声を上げる。この方の、こういう所が苦手なのに。
香散見さんは、わたくしの抗議などさらさら聞き入れるつもりはないようなので、諦めるしかないけれど。抵抗を止めて大人しくしていると、連れ込まれたのは、梅壺ではなかった。
どこだか解らないけれど、人気がないから今は空いている殿舎なのかもしれない。
部屋の奥。なんの調度も置かれていないただの板敷きの、だだ広い場所に、香散見さんはどっかと座って、わたくしを膝の上にのせた。向かい合わせに乗せられたので、凄く恥ずかしい。
「ごめんね、高紀子」
香散見さんが、わたくしを優しく抱きしめて、謝る。
「アタシ、アンタが、そんなにアタシを嫌っているだなんて、思わなかったの。ゴメンね、高紀子………。ねぇ、アンタは、どこまでだったら良いのよ。アタシは……こう見えても、割と健全なオトコだから……可愛いアンタを見てたら、当然、食べたくなるの。
ねぇ、アンタって、すっごく美味しそうなのよ? だから、誰にも触れさせないで、アタシだけがアンタのことを味わい尽くしたいの。入内するまで、食べ尽くすはしないけど……。
アタシ、アンタと婚約が勅命で決まってるのよ? ねえ、抱きしめるのは駄目? こんな風に、向かいあわせでも駄目?」
切ない表情で、香散見さんは言う。けれど、ここで、わたくしも引くわけには行きませんわ!
「わたくし……そういうことを言っているのではありませんもの!」
当世貴族らしく、文のやりとりをしたり。そういうこと!
だけど、口惜しいから教えて差し上げない。
「香散見さんは、素敵な女性に見えますけれど……。女心は解らないのですものね」
わたくし、ちょっとだけ意趣返し。この方、女装に自信が有るみたいだから。
だけど、本当に。強引で、セクハラばかりで。女心なんか、香散見さんは、ちっとも解っていないんだから!
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