オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ！

20.わたくし、気付いてしまいましたわ

　月見の宴は、三日後に行われることになった。

　これで、犯人が見つかってくれれば、わたくしとしては、結構なことだけれど、結局、わたくしは、実敦親王さねあつしんのうに嫁ぐことはなくなってしまったのよね。

　それを思ったら、わざわざ、香散見かざみさんに協力することもないのかしら、とわたくしは、ハタと気がついてしまったのでした。

　どちらにしろ、わたくしは、香散見さんの女御だか、更衣だか（わたくしの身分だったら更衣はないだろうけれど）になるのが決まっているのなら、わざわざ、危険を冒す必要はない。

　なんだか、騙されたような感じだわ。

「高陽かや～、なに、難しい顔してるの？」

　部屋で考え事をしていると、大抵、こうして香散見さんに邪魔される。

「考え事です！」

「考え事なんて、あとで出来るでしょ？　なんなら、一緒に考えて上げようか？　――一緒の褥しとねの中で」

　セクハラは、慣れた。

「はいはい……わたくし、褥に入ると、一呼吸で眠りに落ちる体質なんですの」

「えーっ！　それじゃ、寝てるアンタを抱くしかないじゃない！　そんなのイヤよ！」

「あのぅ、香散見さん……何かにつけて、そちらの方向へお話しを持って行くのは、どうしてなのですか？　わたくし、まだ、そういうお話しは得意ではないのですけれど」

　そうよ！　はっきり言って、わたくしたち、一回り以上年も離れているんですからね！

「だからよ！　このまま、連れ込んで、初夜でぴーぴー泣かれたら、アタシだって、勃つモン勃たないわよっ！」

　ああ、もう飽きてものが言えない。

　本当だったら、うっとりするような愛の言葉を囁いてくださったりして、胸を甘くときめかせながら、恥じらいをもって、殿方に身を捧げるべきではないの？

　ところがこの方ときたら、寝所に上がって、丸裸になって脚を広げろって言ってるのと大差無いわよ！

「わたくしっ……勅命とは雖も、あなたのような方の所に入内するなら、命を絶つわ！　もういや、我慢が出来ません。あなたは、勝手に、暗殺者でも探して下さいませ！　わたくしは、実家さとへ帰ります！」

　そうよ、いくらなんでも、酷すぎるわ。だから、わたくしは、ここを出て行こう。

　やおら立ち上がって、わたくしは、月見の宴に必要な品々を書きつけたものを、『引き継ぎ資料』とばかりに香散見さんに押しつけて、梅壺を出て行った。

「ちょっと！　高陽っ！　分かってるの？　これは勅命よ？」

「ええ、だったら、わたくし、命を絶ちますわ！　……もう、それで構いませんわね！」

「何よアンタ！　アタシと結婚するのが、そんなにイヤなの？」

「ええ、当たり前ですっ！　決まってますわよ！」

「そこまで嫌われていたとは知らなかったわ……」

　香散見さんは、茫然としてらした。わたくしは、そのまま、実家へ戻るべく、歩いて行った。