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18.わたくし、へとへとですわ
しおりを挟む香散見さんに、べったり紅を付けられてしまったので、仕方がなくわたくしはお化粧をし直すことにしました。ええ。
ところが、お化粧をし直している側から、香散見さんが邪魔してきて、もう、本当に厄介だ。
「東宮殿下(偽)と、書簡の整理でもしていてくださいまし!」
一応、病気で外へ出ないとしている東宮殿下だけれど、書類は結構運ばれてくる。東宮殿下でなければ裁可出来ないものがあるらしい。仕方がないので、それは、東宮殿下(偽)の病床(仮)で、香散見さんが書いている。
それならば、とりあえず、仕上がった書類は、東宮殿下の書いたものになるので、なんにも問題にならない。
問題は―――。
この部屋に、人を近づけては行けないと言うことで、わたくしが、半蔀の所まで行って書簡を受け取り、簀子を通り、廂を抜けて、それから御簾を撥ねのけてやっと部屋に入る……というのを、積まれた文書分やったものだから、とても疲れた。
わたくしたち貴族の姫というのは、あまり、歩き回ることはなかったから(だから、装束が重くても平気だったのだけれど)、こんなに動き回っていると、この装束の厄介なほどに重たいこと! 五衣に袿、表着、唐衣……と来た時。そう、唐衣が、一番豪華な織物だから、ものすごく、重い! いままで、この、肩にずっしり来る重量を、特に気にしなかったのだから、わたくしは、如何に動かなかったのかが解るというものだわ。
汗をかくなんて、始めてのことだったので、顔が異常に熱くなって、そのうちに汗が(その時は、塩辛いお湯だと思ったのだけど)出て来たときには、身体がおかしくなったか、香散見さんが呪われたのが、私に来たのかと思って、泣き出してしまったのは、もはや、良い思い出だわ。
「あー、高陽が居ると、すっごい楽!」
香散見さんは、のびのびしながら、心底嬉しそうに仰有る。わたくし、お役に立てて光栄ですわ! とでも言えば宜しいのかしら。
「高陽ぁ、アンタも疲れたでしょ」
これも、素直にこたえてよいのやら。
「本当に、アタシは感謝してるのよ~? だから、日頃のアレコレに感謝ということで! アンタの肩を揉んで上げるわ」
肩を揉む……というのが、わたくしは、よく解らない。
「なぜ、肩を揉むのですか?」
「アラ、アンタ知らないの? ……肩が凝って痛くなると、血の巡りが悪くなるの。だから、もみほぐしてやった方が良いのよ?」
血の巡りが悪くなるのは困るけど、そんなこと、みんななさっているのかしら。
「アンタ、信じてないわね? あとで、『黄帝内経』一緒に見ましょうか。大陸から伝わってきた、マッサージの方法が載ってるわよ?」
「い、いえ……結構ですわ……あらっ?」
香散見さんが、わたくしの肩を掴んでゆっくりともみほぐして下さる。あら、なんだか、心地が良いわ。
「アンタ、すっごい肩張っていたのねぇ。こんなに張っていたら可哀想だわ。毎日して上げるわ」
「畏れ多いので、結構です。もし、本当に、必要でしたら、マッサージの方にお教えして頂きますから」
そうそう。なんだか、危険かも知れないし。
「んふふふふ、遠慮しなくて良いのよー。ちゃんとやるから、横になって頂戴!」
香散見さんは、うきうきと弾んだ声で言う。たしかに、肩は気持ちが良い……けどね。
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