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17.わたくし、この方には敵いませんわ
しおりを挟む東宮殿下って、大変なのね。華やかな所だけれど、宮中という所は、危険な場所だとも勿論聞いていたから、なんとなく想像はしていたのだけど……。
東宮殿下を弓矢で襲うなんて……どういうことなのかしらね。
「それで、高陽。アタシたちで囮になって、なんとか、犯人のしっぽを掴みたいのよ」
「囮……って、一応、わたくし、二条関白家の姫なのに」
「仕方がないでしょ? アンタはアタシの秘密を知っちゃったんだし、アンタくらいの美少女も、そうそう居ないから、安心して、アンタのことを囮に使えるわよ」
美少女。って、わたくしのことよね。ちょっと、恥ずかしくなって顔を伏せてしまった。
「どーしたのよ? あっ! さては、美少女って言われて、恥ずかしがってるんでしょ? もー、アンタ可愛いわねぇ」
うふふっと、不気味に笑いながら、香散見さんは、私をぎゅっと抱きしめてくる。この光景、外から見たら、どんな風なんだろうかと、ちょっとわたくしは不安だ。
東宮殿下の所の女房は、昼間から、女同士で抱き合っていた………なんて噂が立ったら、わたくしは、もう、恥ずかしくって外を歩けませんわ!
「んー、可愛いっ! ……アンタ、一々、アタシの好みなのよ」
首筋に口づけするのは止めて下さいませ! とわたくしは、蹴り飛ばしてやりたくなりましたけれど。とりあえず、すんでの所で止めました。多分、この方には敵わないだろうし。
「それで、香散見さん……どうやって、おびき出すんですか? その、『敵』とやらを」
「……良く聞いてくれたわね、アンタはやっぱり、好きだわー。……と、それは置いといて。えーとね。敵は、確実に、仕留められる機会を狙うと思うのよ」
「そうですね」
それに関しては、わたくしも、全面的に同意いたしますわ。
「それでね。アタシは考えたわけ」
「はい?」
「アンタ、父親に頼んで、宮中で月見の宴を開けって奏上するように言いなさい!」
わたくしの父親は、太閤(元関白)。今でも、しっかり出仕して、あれこれ口を出す、割合厄介な方だ。いまの主上の片腕とも言って差し支えのない父様だから、奏上すれば、すぐに、裁可されるとは思うけど。
この方ったら、ご自分で父帝に申し上げるのが嫌だったから、わたくしに頼んだに違いない。
「解りましたけれど、その月見の宴で、犯人に狙わせるんですか?」
「そう。偽東宮と、アンタしか居ないようなタイミングを作るから。その時に、襲わせれば大丈夫」
ああ、清々しいくらい、この方って、わたくしの身の安全なんか考えてないわ。
本当に、こんな方、東宮殿下でもなったら、本当に関わり合いになりたくなかったわ。
わたくしは、「解りましたわ。では、父に文を書きます」と、文机に向かった。真面目に文を書こうとしているというのに、香散見さんは、後ろからわたくしに抱きついて、
「きゃーっ有り難うっ! やっぱり、高陽がいて助かるわー! んーっ!」
と、わたくしの頬に、口づけをしていく。
あーあ、お化粧、し直さないと。
香散見さん! あなたのお化粧ったら、濃すぎるんですからねっ!
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