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16.わたくし、学習しましたわ!
しおりを挟む「アタシに何が起きたか、ねぇ……知りたい? 高紀子」
うふふ、と笑いながら、香散見さんは言う。
「高紀子ではなく、高陽とお呼び下さいませ! ……勿論、気になります。だってわたくし、婚約破棄までさせられたのです。気にならないはずがないと思いますけれど?」
「あー、そうだったわねぇ……じゃ、仕方がないわ、教えて上げる」
「はい」
わたくしは、小袖を縫う手を止めないままに、香散見さんの話を聞くことにした。とにかく、早く小袖の一枚二枚、縫って差し上げなければ!
「最初は、アタシの持ち物がなくなる程度だったの」
「はい?」
「でも、呪詛されてるってことが解ってね……呪詛自体はたいしたことはなかったんだけど、問題はそのあとで……。アタシのことを庇った、蔵人が、一人死んだのよ」
「えっ……?」
「……主上の名代で、鴛鴦帝の墓参りよ。その時、刀を持った士達に囲まれて、その上、屋根の上から矢を射られてね。アタシを庇って、そのまま死んだわ。矢には、ご丁寧に毒が塗ってあったの」
苦々しい表情で言う香散見さんに、わたくしは、なんて言って良いのか、全く解らなかった。
変な同情はいらないだろうし、失礼だろう。
「それで、アタシは考えた。アタシが狙われなければ、アタシを庇って誰かが死ぬことはなくなる。だったら、アタシは東宮殿下だなんて解らない格好で居れば良い」
「それよりも、御殿の奥においでになった方がよろしいのでは?」
私の提案を聞いた香散見さんが、「バカッ!」と大音声で叫んだ。耳の奥が、キンキン響く。
「アンタ、アタシが邸の奥にいたら、いつまで経っても、犯人が捕まえられないじゃない!」
「まあ、そうですわよね……って、香散見さまっ! 犯人を見つけるとか捕まえるとか、そういう危険なことはおやめ下さいませ! 東宮殿下の御身に何かありましたら……」
一族郎党処刑! なんてことだってあるわよ。だって、そういう所ですもの。宮中は。
「そうよぉ? 二条関白家なんて、もろともにブッ潰してやるわよ!」
「とばっちりでございます! ……私……だって。酷うございますわ! もしかして、わたくし、犯人捜しを手伝わされるわけではないでしょうね?」
わたくしには、そんなことは、絶対に無理だわ!
大体、宮中は広すぎて歩いているだけで迷子になりそうだし。考えれば考えるほど、無理だと思う。
「大丈夫よ、高陽。アンタの性格で、犯人捜しは無理。だから、アンタは、囮よ。大丈夫。アタシが付いてるから」
にっこり。
ハイ、わたくし、たった今、遺書を書く準備をしようと思いましたわ。
この方が囮と言ったら、絶対に囮なのは間違いないだろうし、そして何より。
アタシが付いてる―――は、絶対に当てにならない。
ええ、わたくし、学習しましたわ!
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