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12.わたくし、朝からセクハラですか?
しおりを挟むザッ、ザッ……と音がするおとで、わたくしは、眠りから覚めてしまった。全身が、とても温かくて、幸せな感じ。もっと眠っていたかったのに……。
まだ、寝覚めがしっくりきていないので、ぼんやりしているけれど、まだ、音は聞こえている。
なにかしら。
「ん? どうしたのよ」
声がしたので、わたくしは、「へんな音が……」と呟く。
「ああ、あれは、掃部よ。……掃除して回っているの。毎朝、夜明け前から、大変な仕事よ」
「ああ、そうだったのですか……」
と呟いた時、わたくしは、急に目が覚めた。
「と、と、東宮殿下っ!」
わたくしの口を、東宮殿下が塞ぐ。しっかり、ごつごつした、オトコの方の手だ。
「はーい、オハヨ! 高紀子! ……って、騒ぎすぎよ、アンタ! ……いいこと? 今日からアタシのことは、ちゃんと、香散見って呼ぶのよ?」
「はい、わかりました……」
とお返事申し上げたけど、良く見たら、わたくし、東宮殿下の腕に抱きしめられたまま、眠ってしまったのね!
普段は、女性の姿をしていらっしゃるのに、身体は、逞しい。厚い胸板に顔を押しつけられて、わたくしは、息苦しくなってしまった。それに、密着しすぎです!
東宮殿下の足は、わたくしの脚に絡んでいるし。逃げようにも絶対に逃げられない体勢になって居る。
「高紀子は、いつも、こんなに朝が早いの?」
東宮殿下はわたくしの耳許で聞く。低くて、まろやかなお声だった。……それは良いのだけれど、吐息や、やわらかな口唇が耳朶に当たるのが、困る。
「いいえ……? もっと、遅いです。今日は、掃部の方の掃除の音で、目が覚めてしまって」
「ああ、慣れないものね」
東宮殿下は、納得して、わたくしをさらに、ぎゅっとご自身の身体に引き寄せた。
「東宮殿下、苦しいですっ!」
「そう? ……アタシは、もっと、密着しても良いんだけど……ね」
東宮殿下が、脚を、わたくしに押しつけるように動かした。わたくし、ぼっと、顔から火が出るのではないかと思うほど、恥ずかしくなった。東宮殿下の……脚の付け根……のあたり。女性には、絶対にない、熱くて固い感触がした。
「や、……止めて下さい……恥ずかしいです」
「そう? ……これは、恥ずかしいことも、怖いこともないのよ?」
東宮殿下は、わたくしの手をとって、そこへわたくしの手を、持って行った。熱くて……脈打つ、棒状の器官。わたくしの手よりも、大きいように思えた。
「これはね。とっても素直な場所だから、……アタシの身体は、アンタがほしくて、こんな風に、脈売ってるって言うわけ」
ほしくて、というあけすけな言葉に、気が遠くなりそうだった。わたくしの、身体に……、これが?
おそらく、世の女の方は、みんな入っているのだから、ちゃんと入るのだろうけれど……、それでも、本当に入るのかどうか、疑わしくなる。どうなのかしら。
でも、それより……わたくしは、まだ、気持ちの整理が付かないのに!
実敦親王を裏切って、この方に入内するのは、仕方がないわ。でも、入内もまだなのに!
「アンタの手が小さすぎるの。……アタシのは、至って、普通の大きさよ。……大分昔、女帝だった頃にね、僧と逢い引きしていた女帝が居たらしいわよ」
「え? そうなんですか?」
急に、なぜ、昔の女帝の話になったのか解らずに戸惑っていると、東宮殿下は、にんまりとお笑いになった。
「そ。その僧が凄い巨根の持ち主でね……『道鏡は座ると膝が三つ出来』なんて言われてたわよ?」
最初、わたくしも意味がわからなかったのだけれど、「これよ。これ」とわたくしの手を上から包み込んで、ぎゅっと『それ』を握らせたので、意味がわかった。
もう、どうして、朝から、こんなお話しをしなければならないのだろう。
わたくしは、すこし、絶望的な気分になっていた。
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