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11.わたくし、抱き枕じゃありませんっ!
しおりを挟む東宮殿下に抱きしめられたわたくしは、そのまま、ひょいっと抱え上げられてしまう。
「アンタ、軽いわねぇ。もうちょっと肉つけた方が良いわよ? ……というか、アタシの好みね。折角女に生まれたんだもの、出るところがしっかり出てなかったら淋しいし……腰にも全然肉が乗ってないわ。こんなんじゃ、アンタ、子供産めないわよ?」
東宮殿下は、わたくしの身体を抱き上げながら、本当に余計な事ばかりを仰有る。わたくしは、東宮殿下の素肌に近い感触を身体一杯に感じてしまって、恥かしくてたまらないというのに、東宮殿下は、当たり前のことだけれど、余裕でおいでで、わたくしは口惜しくなる。
わたくしだって、……自分の貧相な身体には、ちょっと呆れていたのです。けれど、構いませんわ。いまから、ちゃんと成長しますもの。
わたくしが膨れていると、「うふふ」と東宮殿下がお笑いになった。
「なんですの?」
東宮殿下は、すぐには答えて下さらなかった。わたくしを褥に横たえて、ご自分も、隣に横になる。そのまま、わたくしを腕の中に引き寄せるものだから、わたくしは、ごろん、と殿下に抱かれる格好になった。
「うふふ、アンタは、本当に、何から何まで初で可愛いわねぇ。もう、このまま、食べちゃいたくなるわ。冗談だけど」
笑えない冗談は止めて頂きたいわ!
「ね、高紀子。大丈夫よ、アンタまだ幼いんだし」
東宮殿下の、熱い掌が、わたくしの腰を撫でる。ゆっくりと。じわじわ、そこから、身体の奥に封じ込められた何かを、溶かし出すように。なんだか、むずむずするような感じで、わたくしは身をよじった。
「高紀子、オンナの肌はね。男にしか磨けないの。だから、アタシに愛されて、アンタは綺麗になるわよ?」
ふふ、と東宮殿下の口唇が、わたくしの耳に触れた。温かくて、柔らかい、変な感じ。そのまま、ぱくっと耳朶を甘く噛まれて、わたくしの腰が魚のように跳ねた。
「で、殿下っ?」
「大丈夫よ、アタシに任せてなさい」
悪いようにはしないし、最後まではしないから。
――――と仰有るけれど、もう、最後までするとか、そういうことじゃなくて……。
「東宮殿下……っ」
わたくしが涙声で名前を呼ぶと、東宮殿下は、ふっとお笑いになった。
「こういうときに、その名前は、ちょっと色気がないわねぇ……でぇも、アタシの本名は、もう少し、アンタと仲良くなってからじゃないと、教えて上げないわ」
東宮殿下は、わたくしの頬に口づけをする。
丁度その時、御簾の外で、何か動いたような気がした。
わたくしの耳朶に、再び口唇が寄せられる。
「高紀子。良く聞きなさい」
耳許で東宮殿下が話すものだから、耳のところで口唇が動いて、柔らかくて、くすぐったい。
「……アタシは命を狙われてるの。今は、やっと人払いできた所よ。まさか、オンナがオンナを襲っている所なんて、見物したくないでしょうから」
わたくしは、嫌な予感がした。
もしかして、わたくしが、実敦親王との婚約を破棄され、挙げ句、東宮殿下に入内することになる……というのの原因は、そこにあるのかしら?
つまり―――。
「アンタがアタシの正体に気がついたから……アタシは、アンタを手元から離せなくなったのよ。アンタにバラされても困るし、アタシも、なんとしてでも保証がほしいの」
ああ、やはり。
わたくしが、あの時、東宮殿下に気付かなければ!
わたくしは、予定通り、実敦親王と結ばれていたかも知れないのに。
そして、こうして、わたくしを褥の中で抱きしめて、耳許に直接ささやきかけているのも、どこで聞き耳を立てているか解らない『敵』に聞かれない為。
ああ、この方……十二単女装なさっているけど、ちょっと、ただ者じゃないわ。
勿論、東宮殿下という尊い立場というのはあるのだろうけれど……。それだけじゃない、この方が、どこか、常人ではないのだ。
「んー……っ、高紀子、アンタ、良い匂いねぇ。朝露に濡れた牧場の仔馬のようだわ」
嬉しくないたとえられ方だし、なんだか、わたくしは、けなされているようにも思えたけれど。
東宮殿下は、わたくしに抱きついたままで、なにやら、わたくしの耳許、何か仰せだったような気もするけれど、わたくしは、覚えていない。
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