オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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02.わたくし、参内いたします

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「中宮さまが女楽の管絃かんげんを催すようよ。ぜひ、あなたも参内しなさいと使いが来ましたけれど……」

 母様に呼ばれて母屋に参ると、そんな嬉しい知らせがあって、わたくしはとびあがりそうになるほど嬉しくなってしまった。

 管絃というのは、楽器の演奏会のことで、たびたび宮中や公家のやしきで催されて、楽器の得意な方が呼び出されたりもする。

「参内してもよろしいのですか?」

「ええ、ここにはそう書いてありますよ」

 母様は、わたくしに中宮さまのおふみを見せて下さる。たしかに、『管絃を催すから、参内するように』という旨の言葉が書いてある。

 中宮さまは、わたくしにとっては、叔母上さまに当たる方。当今様(今の帝)のご寵愛を一身に受けて、『中宮』という重い立場に冊立された美しく聡明な女人。

 わたくしたち藤原氏(二条関白家)にとっては、なくてはならない方で、二条関白家の隅々まで気を配っている素晴らしい方でもある。

 おそらく、今、わたくしをお召し下さったのは、一月後に、帝と中宮様の四男である実敦さねあつ親王と、わたくしが結ばれるのを考慮して下さってのことなのだと思う。

 実敦親王は、親王というお立場なので、宮中にお住まいとして、襲芳舎しゅうほうしゃ雷鳴壺かんなりのつぼ)を賜って居ると言うから、皇太子殿下と同じように、将来は、朝廷の為にご尽力される立場になるのだろうと思う。

 そんな実敦親王をお支えするには、わたくし自身も、宮中の人間関係などをよく知っておく必要がある。それで、宮中へ呼んで下さったのだ。

 実敦親王は、折々、お和歌うたを贈って下さったり、お文を下さったり……宮中に参内した時なども、お話しに来て下さったり(勿論、御簾越しにだけど)する優しい方なので、わたくしも、すっかり打ち解けて、一月後に、むすばれるのが本当に嬉しい。

 顔も知らない、ひととなりもしらない方に嫁がされた、姫達の話など、いくらでも耳にしている。そういう意味で、わたくしは、気心しった方と結ばれるなんて、幸福なことだと胸を熱くしていたのだけれど。

 ……最近、実敦親王は、お忙しいのか、お文も下さらない。だから、わたくしは、寂しいような、心細いような、物足りないような気持ちになっていた。

 ならば、わたくしの方から、宮中に参内するついでに、お訪ねしたら、ヘンかしら。はしたないと言って、怒られてしまうかしら……。

 わたくしは、少しの好奇心と、冒険心の混じった―――イタズラ心のような気持ちを抱きつつ、母様に訪ねていた。

「参内したら、実敦親王とも、お会いできるかしら?」

「訪ねてきて下さったら、逢えるでしょうし……きっと、あなたが参内したことを知ったら、会いに来て下さるでしょう。あの方は、とても、気を遣って下さる方だから」

 母様の言う通りだ。

 気を遣って下さる。……でも、それじゃ、すこしだけ、物足りない、ような心地で。一月後には、結ばれる方だとは解っているのに、どうしても、お会いしたい気持ちが先に立ってしまう。

 仲の良い、他家の姫君とお話ししていると、お和歌うたのやりとりをした殿御と、御簾のしたで手を握ったり、こっそり抜け出して、よりそって過ごしたり、牛車の中で……その、親密になったり……したことがあるというのに、実敦親王は、そういうことは、なさらない。

 多分、わたくしが、お願いしても……分別のないことをなさらない方。

 勿論、あの方に嫌われたくないから、そんなことは申し上げないけれど―――季節の折々につけて、贈って下さる、優しいけれど素っ気ないようなお和歌うたじゃなくて、もっと、私を、好きだと言って欲しい。

 気遣って―――では、物足りないわ。

 わたくしを、求めて欲しいのですもの。

「では、管絃は三日後ですから、折角お誘い下さった中宮さまの顔に泥を塗るようなことにならないよう、いまから、しっかり楽器を練習しましょうね」

 母様に言われて、少し、憂鬱な気分になったけれど(わたくしはすこし、楽器が苦手なの)、管絃に参加するのだったら、必要なことだから……と、わたくしは、気持ちを切り替えて、そうの練習をすることにした。






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