オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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103,そしてわたくし、寝耳に水ですわよ!

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 正直、香散見さんが単純で助かった。

 東宮である香散見さんが、無事に梅壺に戻ったときは、主上から、直々にお誉めのお言葉を賜ったのだから、香散見さんも、日頃の行いとか、色々は、反省して頂きたいものだった。

 香散見さんには、他にも妃はいるものだから、わたくしは、正室と言うわけではないけれど、まあ、それは、世間一般から見たって普通のことだから、特には気にしないことにした。

 そう。

 香散見さんからの寵愛だけがたよりで、それだけが、わたくしの生きる道だと思い詰めていたら、きっと、気が滅入ってしまうもの。

 いつまでも香散見さんの気持ちが、わたくしにあれば良いけど、まあ、なんというか、自由な方だから、それはわからない。

 ずっと、わたくしだけ見ていて下さいませ……とねだるのは簡単なことだけれど、香散見さんは、そういうところは、変に律儀だから、寝所でも、嘘は言わないだろうし。

 ともかく、わたくしとしては、香散見さんをおささえ出来るところは全力でおささえするけど(実家の総力を結集してでも!)それ以外は、あまり、差し出がましいことはしないように。それだけは、注意することにしよう。

 香散見さんも、妃たちがいがみ合っているのは面倒に思うでしょう…………いやあの方、絶対面白がる。


『これ、誰が勝つかしらね~。楽しみ~』

 とか、絶対にやる。間違いない。

 わたくしは、心に決めましたわ。その楽しみだけは、奪って、和気藹々な後宮にしてみせる! と。

 ともかく、香散見さんは無事に引っ越しして下さったし、あとは、わたくしが正式に入宮するだけよね。

 なんだか、順番がおかしなことになったけど、とりあえず、あとは成り行きにまかせればいいわ……と、気楽に構えていたわたくしは、なぜか、主上に呼ばれたので、大急ぎで清涼殿へ向かうと、なぜか、わたくしの父上と、主上の中宮さまがおいでだった。

 わたくし、てっきり、入宮の打ち合わせかと思ったけれど、だとすると、肝心の夫不在になるので、多分、違うのだと思う。

「お召しにより、参上いたしました」

 と、ご挨拶申し上げてから、主上のお言葉を待つ。お言葉があるまで、顔もあげられないのです。

「おもてをあげなさい」

 そう仰せになってから、主上は、こほこほと咳をなさった。最近、主上は、お咳が多いような気がするのだけれど。

「そなたを、呼んだのは、このことなのだ」

 主上の声は掠れておいでだった。

「このこと?」

 わたくしには、なんのことやら、さっぱりわからない。

「主上は、このところ、お体が不調でおいでだ。それゆえ、ご譲位をとの思し召しである」

 父上……は、関白だから。

 主上にかわって、そう、仰せになったのだろうけど。

 わたくしは、本当に寝耳に水だわ。

「東宮には、高御座に上がって貰うことになる。その折は、そなたが、東宮を支え、後宮を取り仕切るように」

 そして、主上は、また、こほこほと咳をなさった。
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