101 / 106
101.わたくし、秘書じゃ在りませんわよ
しおりを挟むどうやら、火事で焼けた御所は超特急で改修されたとのことで、秋が来る頃には、作り直した御所への引っ越しがあるとのことだった。
これで心底ホッとしているのは、わたくしの二条関白家。
なぜならば、主上のご滞在中、主上の御身に何かあれば、間違いなく、二条関白家は失脚する。そうなったら、おそらく、わたくしが香散見さんへ嫁ぐのは、立ち消えになるということ。
正直、香散見さんは「あ、そーなんだ!」で終わりにしそうだけれど、わたくしは、そうはいかないわよ。
一応、現在、そういうことは、したわけですしね。ちゃんと、責任は取って頂かないと! という所ですわよ。
とにかく、無事に御所に戻ることにはなるので、一安心だ。
わたくしも、きっと、主上のお側仕えから解放されるはず!
別に気むずかしい方ではないけれど、やっぱり、主上ともなったら気を遣うし、主上命! の父様が、始終顔を出してくるのも鬱陶しいところだったから丁度良い。
主上は、二条関白家に居るときは『非常時』ということで、気軽なお召し物でいることが多い。主上ならば常の御衣装は、引き直衣のようなものが普通だけれど、ここでは、
『仕度も面倒だろうから』
という理由で(理由になっているのか、なっていないのか)直衣をお召しだったりする。(しかも、父様の使っていたものの、お古。父様は歓喜乱舞して、階から落下。全治二ヶ月の重症になった)
「御所は完成したと関白が言っていたよ」
主上は、書類に目を落としながら、不意に仰せになる。わたくしと蔵人(秘書のような側近)の小槻家の某が顔を上げた。
主上が書類を御覧になるときには、裁可を行ったり、資料をお出しする都合もあって、わたくしと蔵人は必ずお供にいる。その他、関白や大臣が混じることもあるけれど、山と積まれた書類は、一日に百件を超えているので、主上は多忙だった。
失礼を承知で申し上げるけれど、わたくし、どう考えても、香散見さんが、こんなことを出来るとは思えない。
主上のお仕事ぶりを近くに拝見するにつけ、その思いが濃くなっていくのだから、これはわたくしが悪いのではなく、香散見さんが悪いのだと思っている。
だって、あの方、わたくしのお部屋で寝転がって、小説読んでるだけですからね!
本当に、涙が出そうです。
「主上……次はこちら書類でございます。播磨守からの陳述書で……」
「陳述書?」
主上が、眉を吊り上げた。書類を出す前に、ざっと内容を確認しなければならないというのもあるので、本当に、一瞬も気が抜けないのよっ!
「はい……昨年の大嵐で、刈り入れ前の米がやられたのだとか。そのことで救済を賜りたいとのことです」
「ふむ……では、これは姫、そなたに任せる」
また、大事なことを……と私は思いましたけれど、口には出せませんわよ。でも、わたくし、こんな重大なことは裁可したくありませんわっ!
致し方なく、書類は『検討中』の箱の中に入れておく。
と、その時、こほこほ、という小さな咳の音が聞こえた。主上は、どうも、空咳が続いておいでのようだった。
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる