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96.わたくしは、要らない
しおりを挟むさて、わたくしの事なんか全く気にも掛けて下さらない鈍感な方はさておくことにして。
わたくしは、事の次第を、主上にお話ししなければならないという大役を押しつけられておりました。
『ごっめーん、高紀子、アタシのくちから、譲位の噂を流すとか、本当に、ひどいじゃない? だから高紀子から、主上にお願いしてみてよ! ほら、大丈夫、アンタは、絶対主上のお気に入りだからっ!』
はい。何の根拠もないことを仰せになって、わたくしは、主上の御前に向かわなければならなかったのですわよ。
まあ、どうせ? わたくしったら、このお邸の中では、主上のお側にお仕えして身の回りのお世話なんかしてたりしますけど? それとこれとは、話が別よっ!
と言ったところで、どうしようもないので、仕方がなく、わたくしは、主上がお休みになる直前……つまり、わたくしが、御前をお暇する直前に、少々、お時間を頂くことにした。
「主上、東宮殿下から、お言付けが」
と申し上げると主上は「そうか」と仰せになってから、わたくしに近くにくるようお命じになる。
「それでは……」
とわたくしは、主上に近づく。主上は、この二条関白家では、通常お召しのお引き直衣などではなく、普通の直衣でお過ごしだった。その衣の端に触れるほど近くにきたので、私は、流石に、緊張する。
「東宮は、何を言っていたのかな?」
にこやかに、主上が仰せになるので、わたくしは、ゆっくりと申し上げた。
「……かの者たちをあぶり出す為に、洛中に噂話などを流したいとのことでございます」
「噂話……?」
問い返されたので、わたくしは、香散見さんを精一杯恨みながら、扇の影から申し上げた。
「主上のご譲位の噂話でございます。……その噂がたったのち、わたくしが殿下に嫁ぐことになれば……」
いっそう、香散見さんに帝位が近づく。なので、それを阻止したい方達は、間違いなく、二条関白家の姫君―――つまりわたくしが、香散見さんに嫁ぐのを阻止するはず。
「また、……あれは、自分だけラクをしようとしているんだね」
くっくっと、主上は身を屈めてお笑いになった。
わたくしは、その意味を、計りかねたけれども、『ご自分だけラクを』という主上の仰せには、全力で首肯致しましたわよ。
「まあ、良い。思う良いにやって御覧……ただし、東宮も、少し場自分で動くことを覚えなさいと伝えるように」
「畏まりました」
まさか、承諾が得られるとは思って居なかったので、私は驚いたけれど。
「―――高御座はね。高紀子」
主上は謳うように仰せになった。
「これまで、数多の血を吸い上げてきたのだよ? この、血に塗れた玉座に座るには、美しい手のままでいられると思うのかな?」
わたくしは、寒気がした。そんな玉座なら、わたくしは、要らない。
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