オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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94.わたくし、そんなにヒドいかしら?

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 主上は、香散見かざみさんが短気を起こすのを待っていた。ただ、それだけだ。

 いままで、見たこともないような、にやーっとした笑みを浮かべた主上は、こう仰せになった。

「面倒だから。片付けてこい」

「源家を? 嫌よ、めんどくさい」

 香散見さんは、ひらひらと手を振っているが、主上の眼差しは、氷のように冷ややかなものである。

「いや、丁度良い機会だ。東宮。……お前は、どのみち、私の後を継ぐ者だ」

「まあ……アタシが、跡継ぎなのは認めるけどさ」

「であろう? ならば、そなた自身が、示すが良い。そなたが紛うことなき東宮ならば、これしきの事を、自ら片付けられるはずだ」

「なんで、いきなり試験を与えてくるわけ? 今まで放置だったくせに!」

 顔を真っ赤にして怒る香散見さんに対して、主上は平静そのものだった。

「無論、そなたなど泳がせていただけだ」

 どこまで真実か解らないけれど、主上は、キッパリと言い切ったので、それが正しくなる。

「なによかっこつけちゃって! ただの丸投げじゃないっ!」

 言われてみればそうだった。



 さて、ただの丸投げはともかくとして。

 主上がこう仰せになったのだから、わたくしたちは、この事態―――つまり、五の宮さまと二の宮さまのアレコレなどを解決して、無事、香散見さんと結婚しなければならないと言うことだ―――をなんとかしなければならない。

「そりゃあ、解るわよ。アタシだって、このまま、ずるずる、高紀子アンタの事を、囲っておくことも出来ないもの。それこそ、アンタの父親に怒られるわよ」

 ヘタをうつと、別の嫁ぎ先を用意されそうだものね。

 と、脳裏を過ぎったのは、実敦さねあつ親王だった。元々の、わたくしの嫁ぎ先。何の因果か、わたくしは、香散見さんに嫁ぐことになってしまったけれど……。

(実敦親王の為にも……わたくしは、絶対に香散見さんと幸せにならなければならないんだわ)

 でなければ、あの優しい方を、ただ、裏切っただけになってしまう。

「香散見さんには、なにか策はありまして?」

「あーるわけないでしょ!」

「では、どうすれば、あちら側は、コチラを攻撃してくるでしょうか」

「攻撃?」

 香散見さんは、首を捻る。

「はい。攻撃です。……どう出るか解らないなら……、向こうが攻撃を仕掛けてくるのを、迎え撃つしかありませんわ」

 コチラから仕掛けるのが難しいのならば。

 わたくしの言葉を聞いた香散見さんが、にやーっと人の悪い笑みを浮かべた。

「アンタも、中々、ヒドいわね!」

 一応、褒め言葉として受け取っておくことにする。


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