オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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91.わたくし、前途多難ですわ

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「だったら、とっとと、二の宮なんか、寺に出しちゃえば良いじゃないっ!」
 
 香散見かざみさんの言うことは、まあ、もっともだとは思うけれど。

「馬鹿者」

 主上が、ぴしゃりと仰せになった。

「えーっ? なによ、可愛い息子に向かって、馬鹿者は、ないじゃない!」

「可愛い息子が、こんな格好をして現れたら、普通は卒倒するだろう。千年位経ったらお前のような性癖も、なんとか理解されるかも知れないが、解るか、千年後だ。月から姫君がやってくるようなものだぞ」

 主上は、容赦ない。

「解ってて泳がせてた親に言われたくないわよっ!」

 香散見さんの主張はもっともだったけれど、主上は、「解っているなら良い」と静かに告げて、香散見さんを見遣る。

「くだんの、二家の主張の件が、心底面倒なことになったのだ。惟任これむね家とはた家で、どちらが正しいかで揉めている」

「それはさっき聞いたわよ」

「それだけならばよかったが……怖ろしい事態になった」

「なによ」

惟任これむね家も、はたも、空席の陰陽頭おんみょうかしらの後任は自分だと主張して引かなくなったのだ。二の宮としても、出家迄の時間が長引けばそれだけだから、放ったままで居るし。正直、関わり合いになりたくない公家達は、見ない振りだ。
 今は、このままでも良いが、このまま行けば、事態はこじれて、陰陽寮の人事刷新だとか、面倒なことになるだろうが」

「えーっ? どーせ、陰陽師なんて、特殊職業なんだから、世襲で良いじゃない。惟任と秦は外して、阿倍とか賀茂とか、その辺で世襲っ! それで決まりで良いわよ」

 考えようによっては乱暴なこの意見に、「なるほど」と主上は、至極簡単に納得してしまったらしい。

「よし、それでは、東宮。その旨、奏上せよ。そなたの進言により、世襲固定とした方が、角は立たない」

「ちょっと! それ、アタシの角はビシバシ立つわよっ! なあに言ってるのよ! 恨まれるじゃない! 恨まれたら、陰陽師なんだから、呪いなんかお手の物よっ!」

「そうなったら、東宮呪殺未遂の罪で処罰するから安心しなさい」

 ちっとも安心出来ないことを、にっこり笑って主上は仰せになった。

 あーあ、なんだか、前途多難。




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