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82.わたくし、成り行きで・・・
しおりを挟む御所が出来上がる間。
その間、二条関白邸におわすのは香散見さんだけではなくて、主上や、その女官様たちもおいでになる。
お妃様たちは、皆、実家に下がっているから良いようなものの、そうなると、いろいろと人手不足。
二条関白邸の女房だけでは、立ち居振る舞いに粗相があるかも知れないと言うことで、わたくしは、日中、主上のお側にお仕えすることとなった。
「……大姫は、東宮に取られてしまったが……、そなたを、朕の側に仕えさせるのも良いかも知れないね。……東宮は、可愛げがないのだ」
主上はご機嫌らしく、くすくすと笑いながら言う。
わたくしは、ちょっと意外だった。
香散見さんと言ったら、ああいう性格の方だから、あまり、『可愛げがない』というのは当てはまらないような気がするけれど。わたくしは……香散見さんのことは、ちょっと、可愛いと思ってしまう。
だから、主上のお言葉が、少し不思議だった。
「おたわむれは、ほどほどになさいませ」
冷ややかな声が飛ぶ。声の主は、中宮さま。つまり、わたくしの叔母上さま。
勿論、主上も、冗談なのだろう。だって、わたくしを、仮にお召しになったとしたら……中宮さまと、わたくしと。二人が、同じ主上の妃に並び立つと言うことですもの。
「戯れとは、存外嫌なことを言うのだね、中宮」
「ふざけておいでの方ですもの、戯れていると言ってなにが悪いのです」
中宮さまは、つん、と拗ねたようにつっけんどんにしている。
こんな高貴な方でも、嫉妬をなさって可愛らしい……などと考えられる、気楽な立場ならば、良いけれど……。すくなくとも、平素、ご自身の思いなど、その高貴なお立場から全く口にすることの出来ない方だ。
なにか、わたくしの知らないことがある?
わたくしは、不安になったけれど、主上のお側にお仕えしていれば、すくなくとも、なにか解るはず。
「……あなたを差し置いて、高陽(忘れていたけれど、わたくしの出仕名)に手を出すわけはない。朕も、関白が怖いからね」
ふ、と笑うお顔に翳りが過ぎったような気がして、わたくしは、不安になる。
こういうときは、香散見さんに逢いたくなる。
……そういえば、香散見さんたら、日中、何してるのかしら?
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