運極さんが通る

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包帯男と魔法の鎧

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~???Side~
ベッドの上で死んだように眠る男は、体中を包帯でぐるぐる巻にされ、ミイラのようになっていた。
言わずもがな、るしが犯人である。
回復魔法を使えないるしは、男にハイポーションを振り掛けたのだが、一向に傷は治ることはなかった。
よって、大通りに包帯を買いに行き、丁寧に丁寧にぐるぐる巻にしたわけだ。
手はクロスに、足はピッチリくっつけて巻いたため、ミイラになってしまったのは仕方のないだろう。
そんなミイラになってしまった男は、三時間たった後に起きた。
自身の体が動かない事への焦りと危機感によって起きたとも言っていい。
男は長い睫毛をゆるゆると開け、自身がいる場所を確認する。
本来ならば路地裏から見える曇った空。
だがしかし、今こうして見えるのは、木の天井。
寝ているのは苔の生えた埃まみれの地面ではなく、ふかふかなベッド。綺麗なシーツ。
男は動揺しつつもさらに観察を進める。
窓の外から見えるのは華やかで、煉瓦により塗装された道。
その道を行き交うのは身なりの整った者達。
ここは…貴族街か。
男は瞬時に自分のいる場所を理解した。
と同時に、何故、と疑問が湧いてくる。
何故、自分はここにいるのか。
何故、自分はここに縛られているのか。
何故、何故、何故。
溢れ出す疑問の答えを何一つ持ち合わせていない男は、盛大な溜息をついた。

「どうなっているんだ」

体が痛い。
骨は数本やられているだろう。
血も足りないな。
とうに悲鳴をあげている体は軋み、既にボロボロ。

「俺は死ぬのか」

自嘲しながら、シーツを握りしめる。

「あいつは無事逃げられただろうか」

そんなわけがない。言葉に出すだけで虚しい。
目の前で血の花を咲かせていたではないか。彼女は男を守ろうとしてその命を投げ出したではないか。

「また1人か…ゴプッ」

吐血。
チカチカと眩む視界。
男は目を閉じようとしたその時、バタバタと誰かが自分がいる部屋に向かっている音を拾った。
痛む体に鞭打ち何とか首を扉に向ける。
ガチャリと金のドアノブが回され、ゆっくりと扉が開いた。木の擦れる音が鳴り、靴が床を叩く音が聞こえる。

「あ、起きたんですか?おはようございます…って、吐血!?どうしよう…!!顔を覆う包帯なんてもう無いよ!?」

男は入ってきた者の姿を見て、目を見開いた。
服装こそ違えど、アメジストスカイブルーのオッドアイ。
長い銀髪。
頭から伸びる禍々しい角。
その姿はここ帝国に来る前、そして仲間とともに大通りを進んでいた時に見た者。
ー堕天使だ。

「お前は、何故俺をたす、けた?」
「は?ちょっ、ドントスピーク!血がぁぁ!!」

どこからかハイポーションを取り出し、俺に掛ける堕天使。

「…俺にそれは効かない」
「ですよね!こういう時にバレンシアとかベルモットとかギムレットとかヴィネとかがいれば!!…ん?ヴィネ呼べるじゃん!!」

男は堕天使の言葉にどこか引っかかるものを感じた。
「ヴィネ」?
人違いかもしれないが、聞いたことのある名前だった。
堕天使はまたどこからが魔術書を取り出した。
膨大な魔力を秘めた魔術書。
時おりその魔術書から、美しい金や銀の閃光が円をかきながら飛び散っているのが見える。
男の口角が小さく上がった。
魔術書は、そう易易とはお目にかかることが出来ない代物だ。
しかも、本に込められている魔力が外に溢れ出ようとしているものなど、世界を探しても二つとないだろう。
何故、このようなものを持っているのか、興味が湧いた男は堕天使に問おうしたが、口が出るのは赤黒い、見慣れた血。
堕天使は男が効かないといったポーションを、男の口に差し込む。

「ごぼっ!?」
「えと、喋ると吐血します。なので、少しの間お静かにお願いします!」

男の口に差し込まれた試験管ポーションが空気泡により、ぽこぽこ音を立てる。
口を開こうとすると、中に入っていた液体が顎をつたり、包帯を湿らす。
男は器用に口を曲げ、堕天使を睨むが、その堕天使は何処吹く風で視線をスルーし、魔術書を開いて、ページの上に手をかざした。

「出でよ。我が手足、我が従者よ。今、その姿を我が前に顕せ。捧げるは我が魔力。顕現せよ、45柱!!」

収束する魔力の奔流に男は目を見張る。
ポカンと空いた口からは試験管ポーションが転げ落ち、包帯を濡らして床に落ちた。








~主人公Side~

ポーションが床に転がる音が聞こえたと同時に、現れた臙脂色の魔方陣から見慣れた褐色の男が現れた。
うん、どうやら今回はヴィネだけを呼ぶことに成功したみたいだ。
…毎回ヴィネとベリトがセットで来てもらっても困るんだけどね。

「45柱、呼ばれて参上した。るし、我に何か用か?」

艶やかな黒髪を耳にかけ、ヴィネは包帯男を一瞥した。

「うん。実はこのミイラ……包帯グルグルの人にポーション掛けても傷が治らないんだよね。このままじゃ血が足りなくて、その、死んでしまうかもしれないから、知恵を貸してほしいんだ」
「ほぅ…」

面白いものを見つけた、という感じで目をギラリと光らせ、ヴィネは包帯男さんに近寄った。
何かわかるといいんだけど…。
私もヴィネに連れ添って、ベッドの端に座る。
包帯男さんは口をパクパクさせてヴィネを凝視していた。
これこれ、あまりにイケメンだからって惚れたらあかんよ?
私の目が黒いうちは、隠れてBLは許しません。
許可を取ってからにしてください。

「何を考えておるのだおまえは」
「イエ、ケッシテワルイコトデハ」

ヴィネさん、人の心読まんといてくれ。
立ち入り禁止よ!
ヴィネはニヤリと笑いながら、包帯男を視た。

「ふむ。我が思うに、此奴の体からは魔力が溢れだしておる。人の子は皆、魔力を内に秘めておるのが当たり前なのだが、時に見に余った魔力が体という器から漏れ出てしまう者もいる。此奴の場合はそれだ。その魔力が、障壁となって此奴を包んでおるのだ」

…どういうことだってばよ?
魔力が障壁?
むむむむむ。

「魔法の鎧、だと考えてくれてもいい」
「なるほど!」
「故に、此奴には魔法が効くことはないし、おまえの持つ回復の類のものも、効くことはないのであろう」

あくまで我の見解だがな、と付け加え、ヴィネは腕を組んだ。
そうだったのか。
それで、どうすればこの人は助かるんだろうか。
魔力が出続けているなら、その魔力をどうこうしなければいけないと思うんだけど。

「そうだな。であれば、話は簡単だ。元来、魔力が1番集中しているのは目だ。要はそこを潰すか、それとも、おまえが魔力を抑える道具を持っているのなら、それを使えばいい」

目を潰すのかいっ!?
それは残酷すぎるよ。いくらポーションで部位欠損が治るとしても、目を潰すのはトラウマものだ。
だとすれば、後は私が魔力を抑える道具を持っているかどうかなんだけども。
…持ってたっけ?
アイテムボックスを開き、下に下にスクロールする。










結果、ありました。
デュラハン戦の時に宝箱から出てきたやつです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

種類  布  
名前  封魔の白布
QUA  S
…暴れる魔力を鎮める為に使われる純白の布。☆7

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

包帯男さんの魔力が暴れる魔力かは分からないけど、これが効くことを祈るしかない。
もし効かなければ、ヴィネの必殺目潰し攻撃が炸裂するだろう。
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