運極さんが通る

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勇者の運

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リアルが多忙になら、また新しいジャンルにも挑戦したいため、ここで一旦休載します。
申し訳ありません。ペコリ((。´・ω・)。´_ _))


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


話は風呂の後だ、と言い、マサキたちは各々にあてがわれた部屋に行った。
まさか一人部屋が当たるとは思っていなかった。
掲示板によると、この宿の風呂は汚く、入らない方が身のためだと書かれていた。お湯は綺麗なのだが、他全てが汚いらしい。
怖いもの見たさで風呂場を覗く。
一見そんなに汚くは見えな……いということは無かった。
【聖眼】が風呂場の真実を映したのだ。


「うわぁ…」


教会の汚さに酷似する汚れ。
高級宿屋がこれでいいのか?そう思いながらも、【生活魔法クリーン】を使い、洗浄していく。
はっ、待てよ?まさかクーの所も汚いんじゃ…!?
そう思い立ったが吉、私はすぐさまの隣の部屋のドアを叩いた。
カチッと鍵が開いた音が聞こえた。
どうやら入っていいと言っているようだ。


「失礼します」


ガチャリと扉を開け中に入ろうとすると、壁にぶつかった。否、壁ではなくクーフーリンである。
何をやっているんだ、と呆れた顔をされたが、君がそこにいるのが悪い。


「何か用か?」
「クー、お風呂入ったりした感じ?」
「…まだだが」
「よ、よかったぁ…」



だが安心するのはまだ早い。
クーを退けて風呂場までダッシュし、【生活魔法クリーン】をかける。
うぅっ…この部屋のも汚い!!


「…何してんだ?」
「ん?綺麗にしてる」
「…あ?」
「あぁ、この宿のお風呂、幻術で綺麗に見えるようになってるんだ。汚さは教会レベル」
「嘘だろ…」


項垂れるようにクーフーリンは地面に手をついた。
どうやら手遅れだったらしい。
一応【生活魔法クリーン】を使って上げると、少し嬉しそうな顔をしていた。だが、お風呂場を見ると、顔を顰めた。
これはきっとトラウマだな。


「…ありがとな」
「うん!どういたしまして!」
「…やっぱ変わんねぇな」


ボソッと呟き、クーフーリンはベッドに倒れ込んだ。すぐに緩やかな寝息が聞こえてくる。
…お風呂はいらんのかい!!
ツッコミを入れようにも寝ているため、心の中で入れておく。


「いい夢を」


ピクリとも反応しないクーフーリン。随分と深い夢の中にいるようだ。
私はジッと彼を見つめる。
やはりどこかであったと思うのだ。それも何度も。
どこだったかなぁ、と思案しながら自室に戻った。







お湯は綺麗なお風呂から上がり、体を拭く。籠から黒いパンツを取り出す。これはギムレットが作ってくれたものだ。
なぜ私のスリーサイズを知っているのかは分からないが、ギムレットの作ってくれる服は着心地がいい。
続いてまたもや黒いブラを取り出し、装着する。
胸なんてないから必要ない?
はん!ブラは女の必須アイテムなのだよ。例え胸が無くともつけるのが私。
全く、分かってないなぁ。
タオルで髪についている水滴をとっていると、ノックもなしに扉が空いた。入ってくるのは勇者マサキ


「るし、風呂上がったか?……あ」


パンツとブラだけの私。
入ってきた勇者。
この状況は、勇者だからこそ起こせた奇跡の展開だと言ってもいいだろう。


「流石だ勇者。勇者スキルであるテンプレのラッキースケベを、ここで発動させるとは、な。覚悟はいいか?」
「ち、違う!!まさか、そのごめん!」
「…問答無用」


アイテムボックスから ○アイルビーバックを取り出す。


「いやいや待て待て!!その、なんだ?お前、女だったんだな。えっと…胸がないからてっきり男かと思ってた。ハハハハハ」


乾いた笑い声をあげるマサキのすぐ側をヒュンッと音を立ててアイルビーバックが通り過ぎていき、壁に刺さった。
ヒッと掠れた叫び声を上たマサキの額から大粒の汗が噴き出す。
もういっちょ、とアイルビーバックを投げようとしたその時、


『アイムバック』


ダンディさを織り交ぜた機械音が鳴り、私の手元に、壁に刺さったはずのアイルビーバックが戻ってきた。
このダンディっぽい声、アルザスだ。元々の声より低くなっているが、間違いようのない。
自分の声を武器に入れるとか、はぁ。


「るしさーん。今ので毒気が抜かれたりとかは」
「うん、抜かれたわ」
「その、ごめんな」
「いいよ。私こそいきなり攻撃してごめん。だけど、人の部屋に入る時はノックしてよね」
「はい」


扉を開けたまま突っ立ってるマサキを部屋に入れ、椅子に座らせる。
私はベッドの上に座り、マサキの話を聞くことにした。
だけど、一向に話し始めないマサキ。
お腹でも痛くなったのかな。


「マサキ、何で喋らないのさ」
「いや、その、だってさ」


顔を赤らめるマサキ。
もしかして風邪でも引いたのかな?だったら大変だ。
ベッドから立ち上がり、まさきの額に手を当てる。


「ばっ!!近づくんじゃねぇ」
「へ?」
「おまっ!!服着ろ!!服!」


マサキに指を差され、下を見下ろすと、服がない。あるのはパンツとブラ。
それに気づいた瞬間、一気に顔の温度が上昇した。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!マサキの馬鹿っ!!」
「な、なんで俺なんだよ!?」


ベッドについている枕を投げ、急いで服を装備する。黒いTシャツに黒短パン。
先程投げた枕を拾い、顔に押し当てる。


「…変態」
「いや、お前の方が変態だろ!?おれに罪をなすりつけんなっつの」


うぅっ恥ずかしい。お嫁さんに行けないよ。
しばしの沈黙が降りる。
イジイジとシーツに円を描く。
無言でいるのが辛いのか、マサキから沈黙を破った。


「うん、俺は何も見なかった。そうだよな、るし」
「うん、何も見なかった。君は、何も見なかった」
「よし。ということで、そろそろ話を始めたいんだけど、いいかな?」


マサキの纏う雰囲気が変わり、同時に部屋の中にも緊張感が広がる。
私もそれに少しあてられ、ピシッと背筋を伸ばす。


「俺達がこの帝国で何を成したいか。それは、女帝「オーロラ」生け捕りだ」
「生け捕り…?抹殺とかじゃなくて?」
「あ、あぁ。王様が生け捕りにして来いとおっしゃったんだ」


王様が女帝を生け捕りにしろって?そんなこともあるんだなぁ。てっきり、今すぐ殺してこいっ!!とか言うと思ってたんだけど、意外だ。


「そっか。…その王様のことは信用出来るの?」
「出来る。いい人だからな。それに用心深いし、それに俺ら勇者は逃げられないしな」
「逃げられない?」
「あぁ」


マサキは視線を落とし、暗い影を顔に落とした。
これ以上聞かないでくれと言っているみたいだ。だけど、私は知りたい。たとえ彼を傷つけることになったとしても、秘密を共有し支えてみせる。


「どうして?」
「…っ!!…はぁ。お前はそういう人種か。まぁ、二人で抱えるには少し重い話だからな。少し昔話でもしてやるよ。俺達が、まだここに来たばっかしの時の話だ」




マサキの口から語られるのは、一年前の話。
勇者として生きることを強要された時の話である。
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