運極さんが通る

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勇者一行

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メニューを開き、世界ガチャをタップすると、目の前に土管が現れた。
虹色に輝いているってことは、確定演出…?それとも、そういう仕様なのかな。
土管は風船のように膨らんでいき、ポンポンと子気味いい音で勢いよく黒い玉を排出した。
次々と1番台の画面が切り替わっていく。


『おー。意外と当たる人が多かったみたいですね。…もう少し倍率を下げてみてもよかったかも知れません』
『だな。正直これだけ当たるなんて思ってなかったぞ』


トントン拍子で変わっていく画面が、ある名前を移した瞬間、1番台の切り替わりが終わった。2番台以降はなおも切り替わっていくが、1番台は微動だにしない。


『お。運のイイヤツが1番台をかっさらったみたいだな。名前は…と。ん?るしって、あの1位の奴?』
『いや~、他にもるしって名前のプレイヤーがいるかと……え!?』
『は?おいおい、俺の目がおかしくなったのか?1番台の当てた武具がバグってるんだが』


ゴシゴシと目を擦る楠木と田中。長谷川は、魂が抜けたのか、白くなっている。運営の声に、1番台を見た人は固まった。


「チートだろ!?何だよアレ!!バグ?」


そうだそうだと声が上がる中、運営も有り得ないとわなわな震える。偽造は出来ないし、勿論、この世界のバグはない。ということは、正真正銘の運の力。


『待って…ウソ…』
『と、取り敢えず、今のところ5番内に入っている人で、人前に出てもいいぞという方、出てきて下さい』


人混みをかき分け、4人のプレイヤーが舞台に上がった。私はフードを被って上がったため、実質5人である。


『確認しましたが、やはりるしさんはいませんでしたね』
『だな。もしかすると、1位のるしだったかもしれなかったんだがな。俺は生で会ったことないから、会ってみたかった』
『お前、会った事ねぇの?ププー』
『あ?田中。運営室戻ったら覚悟しとけよ』


どうやら運営さん達も私の姿が見えなくなっているようだ。ということは、運営さんにもスキルが有効だということか。PK対策はしてあると思うけど、警備が緩すぎる気がする。
私と会いたかったと言ってくれた楠木さんには申し訳ないが、こんなに大勢の人がいる前で喋ったりでもしたら、絶対に噛む。場に慣れればどうってことないのだろうが、慣れるまでがキツイ。質問されても上手く返せないと思うし、下手に答えてしまうと、次のアップデートで色々と修正されそうだ。うん、逃げようか。
バサッと翼を広げ、飛ぼうとした時、楠木さんの凄く残念だという顔が目に入った。姿を現すことはしないが、【神域拡張】の色を白に変える。


『…っと、これは神域拡張?やっぱり、1番台のるしはあの世界ランキング1位のるしだったんだな。良かったな、楠木。この会場の何処かにいるるしがお前の叫びに答えて仕方なしに白くしてくれたようだ』
『るしー!!ありがとう!!』


私のいる場所と正反対に向かって楠木は叫んだ。
ホント、運営さんは面白い人でいっぱいだ。








Live広場から出て、噴水広場の方に移動する。
透明人間状態の私は、先程のガチャの結果を受けて上機嫌になり、柄にもなくスキップしながら噴水の方へと向かった。
噴水を型どる大理石の上にチョコンと座り、アイテムボックスから焼きとりを取り出す。
フードにタレがつくと嫌なので、フードを外し、かぶりつく。
塩コショウと未知のタレが絡み合って美味しい。
パクパクと無言で3本胃に収めた。
噴水の近くは涼しく、ブラック帝国にいるということをつい忘れてしまう程に和む。
なんとなくその場から離れると、ちょうど私が居た場所に人が飛ばされてきた。そしてそのまま噴水にバシャンと落ちた。


「だ、大丈夫?」
「……」


無言で一瞥され、手を貸すまもなく噴水から立ち上がる男。長い黒髪に白いメッシュが1本入っている。水が滴り落ち、髪の間から見える空色の目は温度の下がった空のように冷えきっていた。
どこかで会ったことがある、と私の記憶は囁く。


「あの、どこかでお会いしたことありませんか?」


初めて男と目が合った。一瞬形のいい眉が動いたが、反応はそれだけである。
ザワザワと人が揺れ、男が飛ばされてきた方向から4人組がやって来た。


「アハハハっ。アイツ、ずぶ濡れでやんの」
「ちょっ!!マサキ、笑い過ぎ」


黒髪黒目の少女が同じく黒髪黒目の少年、マサキを窘める。


「だってよ、茜、アイツがさ。くくっ…」
「マサキ、笑うのはダメにゃ」
「そうですよ、クーフーリンさんに謝ってください」


半笑いを浮かべる、獣人。茶髪に、猫耳が付いており、腰からは細い尻尾が生えている。
苦笑いを浮かべるエルフは銀髪で、エルフ特有の長い耳を触りながらマサキと呼ばれた少年を見た。
…ハーレムかよ、ぺっぺっ。
クーフーリンと呼ばれた男は、4人組の方を見ずに髪の毛を絞り、水を締め出している。


「無視すんなよ、クーフーリン」


マサキがクーフーリンの肩を掴もうと手を伸ばす。だが、その手はクーフーリンに届く事は無かった。何故なら、私がその手を掴んでいたから。
いやぁ、だってさ、イジメっぽかったし、この世界なら止められる気がしたし。


「お前、何すんだよ」
「えっと、困ってる人を助けた、かな」


 私の答えにマサキはプッと笑った。


「何だよお前、正義の味方でも気取ってんのかよ。まじ笑えるわ。あ~アニメでこういう奴いたわ。あのさ、コイツは俺のパーティーメンバーなわけ。だから部外者は引っ込んでおいてほしいんだけど。てか、お前誰?」
「ん?人の名を聞く前に自分の名を名乗ったらどうだ?」


途端に、獣人とエルフから殺気が溢れ出した。
なに、女の嫉妬的な?おお、恐ろしい。


「さっきから聞いてれば、お前、その口の聞き方は何にゃ?」
「いや、君の喋り方の方が気になるよ。てか、さっきからって、私と君たちと会ったのって今だよね?…人の名を聞く前に自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないの?」
「あなた、まさかとは言わないけど、マサキの事を知らないの?」
「知らん」


顔を真っ赤にするエルフ君。だって、知らんもんは知らないんだもん。
マサキ…?
初耳ですが、誰でしょう。こんな嫌な奴、一度見たら忘れないっつの。
チラリとマサキを見、続けてエルフ、獣人、茜と呼ばれた少女を見る。
…ハーレムだよな。
ここで出たキーワードは、マサキ、ハーレム、NPC、大きな態度だ。
この時、天才の私の頭に一つの解が浮かんだ。


「まさかの勇者的な?」
「的な感じだ。俺が勇者マサキだ。で、俺と同じ黒髪のこいつが茜。猫耳の獣人がミーシャで、その横のエルフが、リサーナだ。こっちは名乗ったぞ?お前は?」
「私はるし」


クワッと目を見開き、私の顔を穴が開くほど見つめるクーフーリン。
私の顔に何かついているのかな。


「るし、ね。じゃあ、るし。君の後ろにいるクーフーリンを返してくれないかな?あれでも一応俺らの仲間なんだ」
「うん、答えはノーだね。勇者なら、イジメはダメに決まってるだろ?」
「イジメ…?」
「にゃ!?お前、マサキをバカにするにゃ!!」


ミーシャが懐に閉まってあった短剣を取り出し、飛びかかろうとするのをマサキが止める。


「何するにゃ!?マサキ!!」
「ちょっと待て」


マサキは、じいっと私を見て、少し驚いたように目を見開いた。


「お前、堕天使なのか?名前以外全部バグってるんだけど。やばくね?茜」
「そうだね。貴方は何者?」


【鑑定】したのか。でも、【基本(ステータス)偽造】により名前以外は全部変わっているはずだ。種族は人間(ヒューマン)だし、体力もそれに沿うように変えてある。外見は青髪青眼にしてあり、これはバレていないようだ。
 だけど、種族はマサキに見破られてしまった。解せぬが、流石は勇者なだけはある。
基本ステータス偽造】と、【幻想イリュージョン】をoffにする。
後でバレると面倒だし、最初のうちにバラしといた方が、牽制攻撃にも繋がる。


「私は、ただの通りすがりの正義の味方ですが、何か?」


マサキ達の目は私の頭部に生える角と、右目にある聖眼に集まっていた。
一番最初に我に戻ったのはマサキ。


「あ、あの、俺達とパーティーを組まないか?この帝国にいる間だけでいい。勇者パーティーにお前も加えてやるのはこの期間限定だ。どうだ?いい話じゃないか?」


何を言い出すんだコイツ、と思ったその時、アナウンスが鳴った。


『ストーリークエスト「勇者の従者」を受けますか?Yes/NO.』


まじか。これがストーリークエストに繋がるの?
クーフーリンの事も気になるし、一応受けておこう。Yesをおそうとすると、注意が出てきた。曰く、このストーリークエストは、1人でしか受けられない。
つまり、テイムモンスター参戦不可という事だ。
何日で終わるかは分からないが、ジン達はギルドランク上げに勤しんでいるようだし、まぁ、大丈夫でしょ。
今度こそYesを押す。


「私が君の仲間に加わるのは、勇者一行に入りたいからじゃない。ここにいる間、クーフーリンを守るためだ」
「オーケイオーケイ。じゃ、宜しくな、るし」
「君とはあんまり宜しくしたくはないな。だって、いじめっ子だし」
「いじめっ子て。まぁ、ちょっとやりすぎた感はあるけどさ」
「…いじめっ子」


茜がこの時私を不審に思っていたのは、言うまでもない。
こうして、私の第2のストーリークエストが幕を開けた。
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