運極さんが通る

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裏フィールドボス

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掲示板の情報によると、ボスは現在帝国から南の方向にいるようだ。ボス戦に挑みに行く前に装備確認をする。
私は○黒龍の軍服一式に、満月。
ジンは○紫九尾シコン一式に、水精霊の双剣。
ウォッカは○蒼九尾ソウコン一式に、ブラッディローズ。
バレンシアは○風の鎧一式に、シェイクツウィンズ。
テキーラは○風の鎧一式に、チョークセットとハンマー。
ラムは○劣竜一式に、大剣。
ベルモットは、なし。装備すると窮屈なんだそうだ。
黒いカードを使い、帝国門前に移動する。突然現れた私達に周囲の人が驚いている。

「皆、ボスの所まで駆け足で行こう」
「なんでですか?」

テキーラが物凄い嫌そうな顔をした。
この子、水が苦手なんじゃなくて、ただ動きたくないだけなんじゃ…。いや、あのテキーラがそんなこと思うわけないだろ?だって、褒めると自虐する女の子だよ?もしそうだったら、当分は人間不信になりそうだわ。

「身体を温めるため、かな?テキーラ、そんな嫌な顔をしないの。身体を動かしておかないと、いざという時に動けないよ?」
「そうじゃぞ。妾と共に一緒に走ろうではないか!」
「そうよ?私達と一緒にいい汗流しましょ?うふっ♡」

バレンシアとラムに手を引かれ、テキーラは渋々走り出した。その後をジンとウォッカが続く。ベルモットは、私の背中でお眠り中である。これが重いのなんの。いつの間にこんなに重くなったのやら。

「ベルモットぉ。私の背中で寝るんじゃなくて、飛べば?最近ちょっと重いよ?…太った?」
「きゅ…すぴぴー」

バシッと尻尾で背中を叩かれ、早く走れと催促される。私以外にこんな事をしないからちょっと嬉しい気持ちもある反面、自分で飛べやというグツグツした気持ちが腹の中でグルグル回る。
まぁ、可愛いからいいんだけどね!






かれこれ走ること小一時間。
とうとう奴らが姿を現した。「デュラハン」を守るように、「リビングアーマー」が四方を警戒している。こちらから戦闘を仕掛けなければ奴らも動くことはないらしいため、少し距離を開けて作戦の最終確認をとる。

「さて、ボス戦に挑む前に最終確認ね。リビングアーマー担当は、君たち6人にやって貰う。基本1人1体だけど、バレンシアとテキーラは2人で1体ね」
「「「了解」」」
「きゅ」
「…分かりました」
「うししししっ!テキーラ、お前さんは妾が守ってやる故、肩の力を抜くのじゃ!!」
「るしー。るしだけさーボスってズルいよー」
「そうだ!俺だって戦いてぇよ!」

そんな事言われても…ねぇ。初見だし、ここは王である私が一騎打ちしないとね。これが終われば周回するつもりだから今回は譲って欲しい。

「ジン、ウォッカ。これ終わったら代わるから我慢してね」
「うー分かったよー。るしー無茶は駄目だよー」

プクッと頬を膨らませるジン。その頬をぷにっと押すと、プスッと音を立てて頬をふくらませていた空気が抜けていく。

「それはこっちのセリフだね。ほら、皆。自分たちの武器スキル、水纏、氷纏を発動させて」

ジンの頭をわしゃわしゃし、各自戦闘体勢に入るよう促す。
テキーラは、ベリトから教えてもらったらしい魔法陣をチョークで地面に描く。いや、地面というか、空気と言った方がいいだろうか、とにかく、地面より1センチほど高い場所に描いた。どういう原理で描けているのかは想像もつかないが、チョークは柔らかい地面…それこそ沼地などのような場所では描くことがままならない。よって、運営の配慮でチョークは地面スレスレで描けるようになっているのだろう。まぁ、これは私の推測だから本当のところ、どうだか分かんないんだけども。

魔法陣からゴーレム召喚される。その数、5体。
…それにしても、ベリトが誰かに何かを教えることは珍しい。もしかして、私がいない間は皆に優しいのかも。今度ギムレットに監視カメラでも作ってもらおうかな。ベリトの弱点さえゲット出来れば馬鹿にされずにすむ…おっと、今は目の前のことに集中しないといけないね。私はどうでもいいことを考えるのが得意だから注意しないと。
頭を振り、私は前方に見える「デュラハン」並びに「リビングアーマー」を【鑑定】する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 種族  リビングアーマー  ☆4
 Lv  17
 HP   2000/2000    MP   500/500
 パッシブスキル
 ・ポイズンフィールド(自身を中心に毒エリアを展開する。自身のLvに応じて範囲が広がる)
 アクティブスキル
 ・剣術
 ・身体強化
 ・再生
 ・闇魔法

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 種族  デュラハン  ☆5
 Lv  20
 HP  12350/12350  MP  1000/1000
 パッシブスキル
 ・不浄  ・聖耐性
 アクティブスキル
 ・剣術
 ・身体強化
 ・再生
 ・飛斬
 ・水耐性(水属性攻撃に対する防御力が上がる)
 ・闇魔法

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

…は?
桁が間違ってるのかな?「リビングアーマー」はまだしも、「デュラハン」バグってないですか?体力の桁がおかしい事になってますよ?1万超とか流石にキツイですわ。ここに来てボスのスペックが上がるとか聞いてないんですけど!!フィールド1のボス見てみ?ここと比べ物にならんほど弱いわ!!理不尽だぁぁぁ!!

「おい、るし?ダラダラ汗流してどうしたんだ?顔色も悪いし…」
「あ、いやぁ…あはは」
「お前さん。ファイトじゃ。気をしっかりと持つのじゃ」

明らかに不信な私を見て、ゴーレムの上に乗ったテキーラがピースサインを送ってくる。
どうやらテキーラはテキーラなりに励ましてくれているようだ。ぐるりと皆の顔を見る。心臓がバクバク鳴り、今にも口から出てきそうだ。正直「デュラハン」があんなにキチガイな体力を持っていて、焦った。けど、それを皆に悟られないよう、なるべく声が震えないよう腹に力を入れた。

「さぁ、征こうか。殲滅だ」
「「「「「おぉ(きゅ)!」」」」」

それを合図に、四方を固める「リビングアーマー」に一斉に皆が襲い掛かる。テキーラのゴーレム達が「リビングアーマー」を袋叩きにしているのを視界に収めながらもその間を走り抜け、「デュラハン」の元に辿り着く。
「デュラハン」は、私に気づいたのかおもむろに立ち上がった。すると、足元から暗い影が広がっていく。
きっとこれが「デュラハン」流の【不浄】の演出の仕方なのだろう。
ジワジワと範囲を広げ、不安を掻き立てる暗い影は、私と「デュラハン」の間で突如止まった。
私の【神域拡張】と相殺しているようだ。
視線を「デュラハン」に向ける。漆黒の鎧に、頭部がないモンスター。頭部があるはずの場所には翡翠色の炎が踊っている。裏ボス「デュラハン」は、背負っていた禍々しい大剣を抜き、構えた。

「良くぞここまで来た、挑戦者よ。私は嬉しく思う。今日は存分に楽しんでいかれよ。私の名はペーター・ギルテン。現在いま、貴方を粛清する者だ。貴方は私の好敵手となれるか?」

そう言って、ペーターは優雅に礼をする。
彼が名乗ったならば、私も名乗らなければ。

「私はるし。現在いま、貴方を殲滅すくう者だ。憶えておいてくれると助かる」

軍帽をとり、ペーターに習って礼をする。そして、満月を構えた。ペーターは、くつくつと笑い、お互いに睨み合う。
 あ、目はあってないんだけどね。だって、ペーターは顔無いし。

「いざ、尋常に」
「推して参る!!」

大剣と大太刀がぶつかり、火花が散り、空気がビリビリと震動する。
今まで相手をしてきたどんな人よりも強くて重い。言うなれば、格が違う。
流石はフィールド3の裏ボスだ。
ペーターは、私の攻撃を受け流し、御座なりになっている足を掛けてきた。
ぐらりと視界が揺れ、身体が落ちる。そこに大剣が命を狩らんと降ってくるが、寸でのところで避け、地面を転がながら体勢を整えようとする。が、それを許してくれる甘いヤツではないようで、大剣の雨を降らせる。
重い筈なのに、まるでプラスチックの剣を操っているかのように見える。
このままでは埒が明かない。

「タイムストップ!!」

たかが一秒、されど一秒。
この一瞬で高いステータスを上手く使い、相手との距離をとる。
刹那に大剣が私のいた場所に深く刺さった。

「ん?珍妙な魔法を使ったな?」
「はは。じゃないと、立てずに殺されていたからね」

距離をとったはいいものの、私の手には満月(みちづき)がない。地面を転がる途中に落としてきた。
さて、ここでゲイ・ボルグ君を出してもいいのだが、もし満月をペーターに拾われでもしたら厄介だ。

「アポート!!」

このスキルは【時空魔法】の派生スキル、【アポート】。【アポート】は、遠くにある物体を引き寄せることが出来る、すごく便利なスキルだ。
満月の柄が手に収まった瞬間に、目の前に大剣が迫った。
それをひらりと避けるが、地面を抉った瞬間に有り得ないような早さで大剣が追いかけてきた。
この大剣、重力無視してますわっ。だって、大剣なのにこんなに早く振れるわけがないもん。

「ふざけろっ!!」

【残月】を使って大剣を弾く。そして、【欠月】を使い、自分の幻影を3人出す。

「ほぅ、幻術か。懐かしい」

そう言って、ペーターは大剣を空にかざした。
刃に埋められている赤い宝石が爛々と光り、私が出した幻影きょうだい達がゆらゆらと消えた。

「あぁっ!マイブラザー!!」
「がらあきだ」

あっ、やべっ!と思った瞬間には、身体が空を舞っていました。
翼を出して空中で一旦体勢を立て直す。このまま落ちていたら大剣の餌食になっていただろう。

「君は空を飛べるのか?なかなかどうして面白い」

ボッと翡翠色の炎が更に燃えた。

「私と1:1で戦ってまだ生きているとは、いやはや。これだから世界は面白い!!」

翼を仕舞い、そっと地面に降り立つ。未だに自分の攻撃がペーターに当たりすらしていないこの状況に焦躁りを感じる。
アイテムボックスからゲイ・ボルグ取り出す。

((主?こいつやばくね?))

だよね。まぁ、最後に勝つのは私だけど!

((ちょっ!そんなこと言うて、まだ傷一つ付けておらんやないか!))

右手に満月。
左手にゲイ・ボルグ。
共に重さを感じさせない武器だから、二刀流いけるんじゃね?と思いつき、本番で実践をすることにした。
リーチが長い武器同士だが、上手く使えば最強の型がとれるはずだ。

「奇妙な。だが、それが面白い」
「少しは手加減してほしいんだけど…」

ゲイ・ボルグ君に【猛毒付与】、【水纏】、【氷纏】を発動させ、ペーターを迎え撃つ。水平に振られる大剣をイナバウアーで避けつつ、身体を捻って満月(みちづき)をペーターに叩き込んだ。

「…っ!」

刃が当たった鎧の部分が、若干凍っているのが見えた。HPバーも少し減っている。回復はしていない。ということは、氷属性が効くという事だ。

「ふ、ふはははははっ!君、いいねぇ。私に傷を入れるなんて、凄いじゃないか。気に入ったよ。…その首、私が貰おう」
「へ?」

く、首?
項にゾワリと寒気が走った。

((主、アイツ…相当ヤバイで。ガチで首をとりに来ようとしとる))

ゲイ・ボルグ君に言われなくても分かってるよ。明らかにペーターの雰囲気が変わった。

「首が欲しいんだ。あぁ、欲しい!欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい」

ゆらり、ゆらりと歩幅を進め、ペーターが首を狙って襲い掛かってきた。

「ふぬぅ…!!」

重い攻撃に手が痺れる。ゲイ・ボルグ君をペーターに刺そうとするが、避けられ、叩き落とされてしまう。

「ゲイ・ボルグ君!」

((主、ワイは大丈夫や!!今は主だけの心配をせい!!))

空いた左手をキュッと握りしめる。

「首を!首を!!私に首を!!わが好敵手よ!!首を差し出せ」

ねっとりとした声にゾワゾワする。いつぞやのセスを感じるよ。
尚も大剣は首を狙って振り上げられる。その度に重い衝撃が右手に走る。ギリギリと刃を合わせる。そこで【残月】を使い、満月(みちづき)から放出された斬撃が大剣と共にペーターを吹っ飛ばす。

「んなっ!」

吹っ飛ばされ、空を舞うペーターが体勢を立て直す前にゲイ・ボルグ君を拾って全力投球する。30本の銛となったゲイ・ボルグ君からにげることは出来ない。それに、体勢を崩している今ならなおのこと。

「かハッ!」

10本以上の銛がペーターを貫く。だが、HPバーはまだまだ残っている。氷によって地面に縫い付けられたペーターに、先程から貯めていた光を当てる。

「衝撃光」

紡いだ言葉に反応して光はペーターを侵食し、眩く世界が真っ白に見えるほどまで光った。

手を当てた胸の部分にはポッカリと穴が空いていた。…HPバーはまだ8割残っている。
どれだけ防御力が高いんだ。
地面に縫い付けられ、胸にポッカリと穴が空いているペーターは、鎧を震わせた。

「首。首。首。首首首首首首…」

もしペーターに顔があれば、狂気に歪んだ顔が見えるだろう。【鎮魂歌レクイエム】を歌おうと、口を開いた瞬間、

「私に残された最後の望みは、自分の首が切り落とされ、血飛沫を噴き出す音をこの耳で聴くことだ。だが、私の首はもうない。首をくれ、好敵手るし。君の首が欲しい。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい」

地を震えさせるような低い声だった。漆黒の鎧がカタカタと揺れる。私はここまで執着する彼を恐ろしく感じた。
私は閉じかけた口を開き、【鎮魂歌レクイエム】を歌い始めた。

「Where is your head? Your soul has come true to your heart.……
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