104 / 127
道具屋さんに行こう
しおりを挟む未だに倒されていないフィールド裏ボス、「デュラハン」。私達はその「デュラハン」を倒すべく、Live台でプレイヤー達の勇姿を観ながら研究をしている。殆どのプレイヤーは、状態異常攻撃である【不浄】を食らい、撃沈している。そして、「デュラハン」に到達する前に、お供の「リビングアーマー」に殺されていくのがここ何時間かで行われたことである。正直、なんの参考にもならない。
だって、「デュラハン」は微動だにせず、だもん。時々飛んでくる矢を大剣で防いでいるが、それくらいだ。
「「「攻略組だ!!」」」
「お!今日こそは行けるだろ」
「いや、俺は行けないことに金貨3枚!」
「俺は行けることに金貨1枚!」
「デュラハンあんまし動かねぇからなぁ。攻略法が分からん!!」
「おい、あれ軍服じゃね?ってことは、軍服がデュラハン攻略しに行くってことなんじゃ…」
「…あれ見ろよ!あそこにいる6体全部テイムモンスターだぜ?しかも、あれは…限定の装備シコンソウコンじゃねぇか!!」
「いくら積んでんだよ…やっぱ、積めば報われんのかな」
攻略組が、一斉に攻撃を仕掛ける。今回はMAX10人パーティーのようだ。1人ずつが「リビングアーマー」の相手をし、残った5人で「デュラハン」に突っ込む作戦のようだ。だが、「リビングアーマー」は正規のフィールドボス。たかが1人で止められるものではない。が、そこは攻略組だと言うだけあって、足止めを目的に「リビングアーマー」の攻撃を避け続けている。「デュラハン」に到達した5人。それを見た「デュラハン」は、ゆっくりと重い腰を上げた。
『久しぶりの客人ダ。御手柔らかにタノム』
「デュラハン」喋れるの?どうやって喋ってるの?顔ないじゃん!!
「るし様、あのデュラハンと呼ばれた鎧、強そうですね。私なんて一捻りで潰れてしまいそうです」
「…テキーラ、私達アレと戦おうとしてるんだけど…」
「大丈夫じゃ。テキーラ、妾がお前さんを守るからの!」
「バレンシア様、私なんか守る価値すらないというのに。…私も皆様の役に立てるよう頑張ります」
テキーラ、私も君を守りたいところなんだけど、私達の場合も1人ずつが「リビングアーマー」と戦うっていう作戦だから自分の身は自分で守ろうね。でも、危なくなったら隙を見て助けるから。
「「「うぉぉぉぁぁ!!!」」」
どうやら攻略組が「デュラハン」に攻撃を当てたらしい。
『少しはやるよウダが、これは避けキレルかな?』
「デュラハン」は、大剣を十字にきり、その中心を大剣の剣先で勢いよく貫いた。すると、十字が風をきって真っ直ぐ突き進み、2人のプレイヤーを狩った。
「んなっ!?」
斬撃を飛ばすというのか?これは厄介な相手になりそうだ。
突如仲間が2人死に戻りをしたことに気づいた残りの3人は「デュラハン」との距離をとろうとするが、身体が動かないようだ。恐らくは【不浄】で麻痺にでもかかったのだろう。
動けぬ3人に、「デュラハン」は何をすることなく元いた位置に戻り、胡座をかいて座った。止めは刺さないのかと誰もが思った瞬間、3人の首が飛んだ。映ったのは「リビングアーマー」。足止めプレイヤー達は狩られてしまったのだろう。画面に映るのは無敗のフィールドボスだけになった。
「るしー。いつアレを倒しに行くのー?」
「明日のつもりなんだけど、いいかな?」
「いいよー。でも、何で今日じゃないのー?」
「今日はね、装飾品を買いに行くんだ」
私の【神域拡張】は半径12mの状態異常を無効化出来るんだけど、戦闘になると飛ばされたりして12m圏外に出ちゃうかもしれないから念のために、耐性装飾品を買っておく。ジンとウォッカは状態異常を無効化出来るけど、バレンシア達には出来ないからね。
装飾品ていくらするのだろうか。…高いかな?
帝国の大通りを進むと、装飾品の店が多く並んだ通りに出た。どの店がいいのか分からないが、取り敢えず空いている店に行こう!
覗き覗き進むと、1件だけ異様に空いている店があった。空いているというか、お客様が誰もいない。
「お邪魔しまーす」
カランカランと明るいベルの音が鳴るが、店内は不気味な程に静まり返っていた。ふと、美しい宝石が目に入ったため、手にとろうとすると、バレンシアに止められた。
「るし、ここに置いてあるもの全て呪いがかかっとるみたいじゃ」
「え、ホントに?」
「無闇に触らん方がいいと思うんじゃ」
呪いなら反転出来るから別にいいんだけどね。しかも、【神域拡張】で呪いはゆっくりとだけど浄化されるはずだし。…でも、バレンシアを心配させたくないし、とりあえず店員さんを待とう。
待てど暮らせど店員さんはやって来ない。まず、人の気配もしない。オープンて書かれた看板が立っていたけど、もしかして買出しにでも行っているのかな。
「すみません。誰もいらっしゃらないですか?」
帰ってくる返事もない。もう少し待っていれば帰ってくるかもしれないから、そのうちに欲しいものでも決めておこう。今必要なのは、状態異常対策の装飾品。
麻痺、毒、混乱、呪い、ステータス低下、くらいだろうか。
【鑑定】を使い、店内を歩き回る。【鑑定】で、耐性がマイナスになっているものが本来のプラスだから、すごい低いヤツを探さないと。
「るし、あの奥においてあるやつの呪いが1番強そうじゃ」
どれどれ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
種類 懐中時計
名前 呪われし思い出
パッシブスキル
・全耐性-50
・ステータスの低下-20
QUA A
…呪われた懐中時計。元は中睦まじき夫婦が持っていたもの。触れたものには災いが起こる。☆5
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おー。バッチバチの呪いですなぁ。
【全耐性】と【ステータスの低下】が美味しい。是非ともこの時計を購入したいところだが、肝心の店員が帰ってこない。
「るしーこれ良くないー?」
「ジン!触るなと言うとるじゃろ!!」
「だってさー僕とウォッカの装備には状態異常無効化付いてるから大丈夫なのー」
「じゃからというて、もしもの事があったらどうするのじゃ?」
大人からすれば、目に入れたものを嬉嬉として触ろうとする子供を放っておけないのだろう。
ジンの指したものは真っ黒のネックレス。チェーンに指輪がついているやつだ。時に唸り声が聞こえるのは置いといて、バレンシアにバレないようそっと手に取る。キラリと妖しく光るその黒い指輪には文字が掘ってあったが、文字が掠れていて上手く読めなかった。
バンッ
勢いよく扉が開き、一人の男性が入ってきた。この店の名前が入ったエプロンをつけているから、店員さんだろう。その店員さんは私達を見て笑顔を浮かべた。
「お客様ですか。お待たせしてすみません」
ボロボロで、今にも倒れそうになる身体をカウンターで支えている。震える足は、とっくに限界がきているのだろう。
「あの、大丈夫ですか?」
「はい、少々転びましてね。私、ドジ何ですよ。あはは」
その傷は転んだ程度で付くはずがないだろうと言う言葉をグッと飲み込み、ベルモットに【回復魔法】を掛けるよう指示を出す。
「きゅ!」
傷は見る見るうちに回復し、顔に出来ていた痣も消えた。よく見ると、皮膚に鱗があるのに気付いた。帝国は人間主義のため、男性のような人ではない者にはキツく当たっているのだろう。
「あの、ありがとうございます。貴重な魔力を使っていただき、誠に光栄です」
「いえ、当然のことですよ」
「お金はいくら払えばよろしいでしょうか」
ん?何で話がそっちに転がっちゃうの?
「お金は要らないです」
「そんなっ!申し訳ないです!!人間様には多大な迷惑をお掛けしました。ですから、お金を払わせて下さい!!」
頑としてお金を払おうとする男性。一体何が彼をそこまで追いやるのかはよく分からないが、一旦ここは落ち着いてもらおう。彼は私を人間だと勘違いしているみたいだし。
「えーと、私、人間じゃないですよ?」
「え?」
「うーん、なんて言えばいいかなぁ。私は、通りすがりの正義の味方です。貴方にそんな傷を負わせるような悪い人ではありません。だから、怯えないで下さい。私は、貴方の味方です」
ほら、と頭に生えている角を指すと、男性は目をパチパチと瞬かせ、呆けた表情になった。
まぁ、急に私は、貴方の味方ですと言われても信用ならんだろうから仕方ないけど。
男性がなにか言おうとしたその時、
バンッ
今度は扉が吹っ飛んだ。
外から侵入してきたのは茨の刺繍が入ったマントを着た男2名。厳つい顔に、額に傷が入っていて、より 恐い顔に仕上がっている。
「おい、亜人。我らが騎士団から逃げるなど、言語道断。よって、貴様の死刑が確定した。速やかに投降しろ」
「すみません!!堪忍して下さい!!この通りです」
男性は額を地面に擦りつけ、騎士団と名乗った2人組に綺麗に土下座した。これが、土下座の極み、などと場違いなことを考えていると、騎士団の人…分かりにくいからそいつを騎士1としようか、と目が合った。
「貴様は、こいつの仲間か?」
はて、どう応えようか。
→▲無論だ。
▲いえ、違うであります!!
▲家族です。
▲いや、初対面だ。
うん、この四択なら、これだ。
「いや、初対面だ」
その言葉を聞いて、男性は悲しげに目を伏せた。騎士団の2人は嫌な笑みを浮かべて、土下座をしていた男性を起き上がらせた。
「ふっ。命拾いをしたな。だが、賢明な判断だ」
そしてそのまま男性を引っ立てようと店を出ようとしたところで、騎士1の手を掴んだ。
「初対面だが、私は、彼の味方だ」
「何言って」
右拳を騎士1の腹に沈み込ませ、撃沈させる。
「き、貴様っ!!」
腰に掛かっていた剣を抜こうとした騎士2の頭にウォッカの容赦ない鉄拳が落ちた。まるで鈍器に殴られたかのような音がした。
…あれは痛そうだ。
「安心しろ。手加減はした」
いや、してないでしょ。素手であの音が出るのはどう考えても手加減してないよ。
パンパンと手を払い、伸びている騎士達をロープで巻いて外に吊るしておく。
そして、床に座り込んでいる男性に手を差し出した。
「えっと、装飾品を買いに来たんですが、麻痺、毒、混乱、呪い、ステータス低下を防止する装飾品で、幾つか買いたいんですが、どれがおすすめですか?」
「へ?」
道具屋さんで幾つか装飾品を購入し、【反転】をかける。
バレンシア達には、麻痺、毒、混乱、呪い、ステータス低下を防ぐための装飾品を渡しておく。
その他にも、気になったものを一つずつプレゼントして上げた。
右耳についているイヤリングを触り、思わずにやける。実はこれ、皆がお金を出しあってプレゼントしてくれたのだ。曰く、日頃の感謝の印だそうで。頬がゆるゆるな私は、家に帰るまでイヤリングから手を離さなかった。
陽の光に反射したアメジストは、軍服の耳元でより一層輝いた。
0
お気に入りに追加
1,319
あなたにおすすめの小説
最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO
無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。
名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。
小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。
特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。
姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。
ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。
スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。
そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
【完結】VRMMOでスライム100万匹倒して最強になった僕は経験値で殴るゲームやってます
鳥山正人
ファンタジー
検証が大好きな主人公、三上ハヤト。
このゲームではブロンズ称号、シルバー称号、ゴールド称号が確認されている。
それ以上の称号があるかもしれないと思い、スライムを100万匹倒したらプラチナ称号を手に入れた主人公。
その称号効果はスライム種族特効効果。
そこからは定番の経験値スライムを倒して最強への道かと思ったら・・・
このゲームは経験値を分け与える事が出来て、売買出来るゲーム。
主人公は経験値でモンスターを殴ります。
神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…
異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!
リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。
彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。
だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。
神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。
アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO!
これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。
異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。
そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる