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顔合わせ
しおりを挟む祝100話!
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新しい仲間が増えたので、今日は顔合わせをしようと思う。親睦を深めるためにも、こういう日があってもいいだろう。
アルザスはストーリークエストを進めに帝国へ。
他のみんなはソロで何処かへ。
現在ユニオンハウスにいるプレイヤーは私1人である。
最近はアルザス以外の仲間と会っていないから、皆がどうしているか少し心配だ。
「るし、お菓子の用意が出来たぜ!」
「お、じゃあ、そろそろ顔合わせを始めようか」
新しく家族になったラムを部屋から連れ出し、リビングに案内する。
「Ga…」
昨日は帰ってから直ぐに部屋に案内したため、ラムとここにいる皆は初対面だ。そのせいでか、ラムは私の後ろに隠れてプルプル震えている。人見知りだろうか。やっぱり女の子は可愛い反応だなぁ。
「るしーその子がー新しい家族ー?」
「うん。この子はラム。人見知りみたいだから優しくしてあげてね?」
元ゴブリンのジン、ウォッカ、テキーラは何か感じるところがあるのか、紹介した瞬間にラムの周りにわっと集まった。
「僕はージンていうんだー宜しくねー?」
「俺はウォッカだ!なにか困ったことがあったらドンドン相談してくれ!」
「えと、私はテキーラです。醜い私と喋るのは嫌いですか?…あの、出来れば、その、仲良くしていただけたらなと思っています」
「Ga…」
そう言えば、ラムはスキル【言語理解】を持っているのに何故人語で喋らないのだろう。
そんな私の心を見たのか、ヴィネが口を開いた。
「あの童、ラムはゴブリンだろう?であれば答えは簡単だ。ゴブリンには人語を喋る器官がないのだ。だから、貴重な言語理解があったとしても喋ることは出来ない。まぁ、上位個体であれば、器官がなくとも喋ることは可能になるのだがな」
「なるほど」
「ゴブリン」は下位の下位。【言語理解】という大それたスキルを持っていたとしても上手く扱うことが叶わない。
「おい家畜。彼奴、氷魔法などというものを持っているが、何故だ?」
「分からない」
「貴様が拾ってきたのにか?」
「いやだって、買った時にはもう覚えてたんだもん」
ベリトはラムに近づき、ジッと見つめた。
真紅の瞳に足がすくんだのか、崩れ落ちるラム。
それを見て、ジンが二人の間に立ちはだかった。
言葉はないが、バチバチと火花が散っているのが見える。
「ふんっ!ゴブリン風情が我の前に立つでないわ!」
「うるさい!この、禿げーーーーーーー!!!」
「なぬっ!?家畜も同じことを言っておったのだが、禿げとは何だ!禿げとは!!」
ごめん、ベリト。ジンは私の真似をしてるだけだから気にしないでね。君は禿げてはいないんだけど、禿げろという意味を込めてそう呼んでいるだけだから、気に病むことはないよ。
ベリトは忌々しげにジンを睨んだ後、私の横にやって来た。むんずと私の頭を鷲掴みにし、ピンポイントで威圧を掛けてきた。
「家畜、後で話がある」
「え、い」
「嫌だなんて言える立場だと思っておるのか?あ?」
「はい、喜んで!」
死を予感させるほどの殺気を浴びた私は、背中から冷や汗が流れ落ちるのを感じた。
ベリトを怒らせたら命がいくつあっても足りないということを改めて確認しました。
ベリトは鼻を鳴らし、近くにあったソファーに手を当て、自分好みのものに変換した後、そこに座りながらテーブルに広げてあったお菓子を食べ始めた。
「るし様、あの悪魔には近づかないように!私(わたくし)が退治致しますので」
「え、退治するの?」
「羽虫、貴様が我に勝てるとでも思っておるのか?冗談は程々にせよ。屍、そこのワインを注げ」
「妾は屍ではないのじゃ!ぐぬぬ!テキーラ!助けるのじゃぁ」
バレンシアはテキーラに助けを求めた。
「…私のような穢きものがベリト様に触ることなどできません。すみません、バレンシア様。ご愁傷さまです」
バレンシアに200のダメージ。
涙目なは大人、子供に助けてもらえずにベリトの側でわなわなと震えながらお酌をしている。
まるで家臣と従者のようだ。
「るしーお菓子食べよー?」
「きゅ!」
ベルモットは既にお菓子を食べ始めており、お腹を膨らませていた。
「きゅ…けぷっ」
食べすぎたのか、眠そうに目をこすっている。そんなベルモットを抱き上げ、膝の上に乗せて頭を撫でる。大きな欠伸をし、小さく丸くなったベルモットを抱えて立ち上がる。
「るしどこに行くのじゃ?」
「ベルモットを部屋まで運んでくる」
この部屋にいてもうるさいだろうから静かに眠れる部屋に連れていこうとリビングを出た。服越しにだが、ベルモットの温もりが伝わってきて、ここがリアルの世界だと錯覚してしまう。こんなにも同じだと、少し怖い。
階段を登りきり、黒い扉を目指す。
確か、ベルモットとバレンシアは同じ部屋で寝ているのだとか。元竜と竜は気が合うらしい。
ガチャりとドアノブを回し、部屋に入る。
この部屋に入るのは初めてなのでドキドキする。
「失礼しまーす…」
内装は見事に二つに分かれており、黒とオレンジが線を引いたように対立している。
恐らくは黒がベルモットでオレンジがバレンシアなのだろう。自己主張の激しい部屋だ。きっと竜にはテリトリーみたいなものがあるんだね。
黒いベッドの上にベルモットを寝かせ、黒い布団をかける。ベルモットの色も黒なので、完全に同化している。
「おやすみ。いい夢を」
「ごめん、待たせた?…っ!?」
ほのぼのとしていたリビングは、一転して血溜まりと化していた。さながらの殺人現場に踏み入れた第一人者のようだ。ここで疑われるのは私だ。一旦身を隠さないと。
「…なにっ?え!?」
キッチンの方から足音がリビングに近づいてきた。急いでソファーの陰に隠れて犯人と思われる人物を顔を見る。
…心臓が止まりそうになった。
何故なら、キッチンから包丁を持ってやってきたのはギムレットだったからだ。しかも、刃からは赤い血が滴り落ちている。
な、なんで?ギムレットがそんなことするはずないよね?動機は…あるな。少なくとも、ベリトに対してはあるはずだ。
「全く、こんなに汚くして…」
美しい顔を歪めて包丁を持ったままヴィネを揺さぶる。
「起きなさい。ヴィネ、起きなさい!」
「…ん?ギムレットか」
ヴィネが起きたのを境に次々と倒れていた者達が起き出す。
「あー頭が痛いー」
「痛いのじゃ!」
「くそっ!ベリト!」
あ、殺人ではなかったようだ。ホッ、良かった。皆気絶していたみたいだ。ウォッカはベリトが犯人だと言っているが、それはどういう事なのだろうか。
「ベリト、私が上に行ってた間、何があったの?」
「…等価交換の量を少しばかり、な?」
「つまりミスったということですか。ふっ、悪魔には量をはかることすらできないんですね」
「言わせておけばっ!羽虫風情が!!我が間違えることなど有り得ぬ。間違えたのは世界だ。なぁ、家畜」
「28柱、見苦しいぞ。クククッ」
「45柱っ!」
等価交換の量を間違えた?あのベリトが?そんなこと、有り得るのか?意外と計算が苦手なのかな。これは思わぬ発見だ。
「ジン、何があったか詳しく教えて」
「あのねーベリトがーチーズケーキをー錬金術でーいちごケーキにするって言ってー手をかざしたのー。そしたらねーケーキが物凄い爆発を起こしてーその衝撃で気絶したのー」
「おい!貴様何を言うか!!」
「わーベリトが怒ったー」
ガッシャンガッシャンと皿が飛び回る。
気づくと、ラムとテキーラ、バレンシア、ギムレットは柱の裏に撤退していた。私も撤退しようと後ろを向いた瞬間、視界が白くなった。
「「「あ」」」
顔についたものを拭うと、黒い手袋に白い生クリームが付いている。…おもむろにテーブルに置いてある皿をとる。
…宜しい、戦争だ。
「る、るし?」
あとは簡単。投げるだけだ。
野球選手のようなポーズをとる。
皆からすれば変なポーズだと思われるだろうが、今はそれを気にしない。
大きく振りかぶり、ちょうど近くにいたヴィネに向かって皿を投げる。
君も大悪魔なのだから同罪だ!
べチョッ
ヴィネの顔は生クリームによって埋められた。
「くっ…ハハハハハッ!45柱、貴様何て顔をしておるのだ!ふ…ハハハハハ!!」
笑うベリトの顔に、ヴィネの投げた皿が当たる。
ベリトも生クリームに塗れた。
臙脂色のオーラがヴィネから、赤色のオーラがベリトから漏れだした。
あ、これはまずい。下手すればユニオンハウスが壊れる。
「「戦争だ」」
フワリとお菓子やケーキが二人の周りを舞う。
刹那、ジンが落としたフォークの音をきっかけに、お菓子戦争が勃発した。クッキー同士がぶつかり合い、その身を粉々に割っていく。
…勿体ない。そして、ここから動けない。
現在、私はテーブルの下で丸まっています。隣にはジン、ウォッカが丸まっています。我ら3人は戦場に出る勇気がないので、ここで観戦をしている次第です。時々テーブルの上に置いてあるお菓子を手に取り、それを食べながら観戦をしています。
参戦しないのかって?うん、命がいくつあっても足りないね。まぁ、参戦するのも面白いんだろうけど、包丁とかフォークとかが飛び回ってるわけだし、刺さったら痛いじゃん?だから、ここは大人しくテーブルの下で丸まっていよう。
あ、ジンが吹き荒れるお菓子に捕まって戦場に駆り出されたや。
ご愁傷さまです。
テーブルの外には手を出さないようにしましょう。
「あやつらは何をやっておるのじゃ?子供じゃあるまいし」
「バレンシア様、危ないです」
テキーラの忠告虚しく、
「ん?何がじ」
べチョッ
バレンシアの顔も生クリームに埋もれた。
「っ!望むところじゃぁ!!」
バレンシアも参戦し、戦争は更に悪化した。
それを見て、ギムレットは小さくため息をつく。
どうせなら、るし様を連れ出して2人だけで居たいのに。
ですが、るし様は戦場の真っ只中にいらっしゃいます。
どうやってここまでお連れすれば…
「あ、ギムレット様!危ないです!」
「え?」
意識を花畑に向けていたギムレットの顔に生クリームが飛ぶ。
「ギムレット様?」
「…悪魔には鉄槌を」
こうして戦争は更に拡大し、最終的には全員が参加したという。
その日、ユニオンハウスがお菓子の家へと変貌した。
減ることなくお菓子がテーブルの上に現れ続けたのは、ギムレットが創造したからである。
間接的に被害を広めたのはこの家の管理人、ギムレットであった。
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