運極さんが通る

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地下研究所②

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土人形が開けた黒い扉をスレスレで通り抜ける。

「嫌だ!イヤダイヤダイヤダ!!捨てないで!!」

扉の先には大きな空間が広がっていた。
ポッカリと床に空いた穴からは死臭が漂って来る。
担いでいた人(?)を土人形がその穴に落とそうとする身振りを見せたため、慌てて止めに入る。

「Dareda?」
「んー。正義の味方かも?」

人(?)を土人形からカッ攫い、背中に回し蹴りを入れる。
回し蹴りに必要なのは、腰の捻りと軸になる左足を右足が伸びる瞬間にキュッと外側に捻ることだ。
…友達からの受け売りなんだけどね。

体勢を崩し、そのまま土人形は穴に落ちていった。
底には茨のようなものが敷き詰められ、落ちた土人形に反応して絡みついていく。
魔力を吸い取られたのか、土人形は金色の粉に変わっていった。
この人が落とされていたら身体中の魔力を吸い取られ、干からびていただろう。

「アノ…貴方は?」
「私は、えーと、通り過がりの正義の味方です!」
「みかた…味方…。僕は…トム。助けてくれでありがどぉ」

トムと名乗った少年は、弱々しく微笑んだ。
私はアイテムボックスからポーションを取り出し、トムの口に近付ける。

「大丈ブ…。それは僕じゃない誰かに、使ってあげテ。…僕はもう生命がもたない、助からないカラ」
「え!?ちょっ!?助からないってどういう…」

助けたと思ったのに、何故トムはそんなことを言うのだろう。
トムはスッと自分と「モスキーバエト」の継ぎ目を指した。
継ぎ目は腐り、所々が千切れかけている。

「僕だち、は、帝国に戦争でまげで…奴隷にされたんだ。…で、奴隷は帝国の実験道具モルモットにされ、て、失敗作は、廃棄処分…なんだ。…どの道、こんな体でいぎれるのは…持って1日なん、ダ」
「そんな!!待って、今ポーションをかけるから!!」
「い、い。僕の身体のことは僕がわがってるがら。それ、よりも貴方に頼みたい事が、あるんだ」
「頼みたいこと?」
「ああ…。こごにいる、仲間たちタスケテ欲しいんだ。みんな、皆は奴隷部屋にいる…。種族は…みんなバラバラで、出身も…違うゲぉ、それでも、たすげでホシインだ。これ、が、僕の一生のお願いなん、ダ」
「…まだ会って数分も経ってない私を信じるの?」
「あぁ、信じヴ」

 ピロリん。
『シークレットクエスト「茨の城からの救出」が受注可能です。受けますか?Yes/NO.』

その真っ直ぐなライトグリーンの目が、トムの心をそのまま映していた。
ここでこのクエストを蹴ってしまったら、彼はどういう顔をするだろうか。
憎悪の篭った目を向けてくるのだろうか。
将又、諦めた底なし沼のような目を向けてくるのだろうか。

…まぁ、トムの願いを蹴るなんて真似は絶対しないけどね。
だって、カッコ悪いじゃんか。
ここまで聞いておいて何もやらないなんて、私の第一信条に反するもんね。
Yesを押す。


『茨の城に囚われた人々を無事に救出しよう。
 ・奴隷部屋に辿りつこう  0/1』


「分かった。その願い、聞き受けた。安心してくれ」
「アア、ありがとう。あれ?……何だか眠くなってきたや…あはは、何でかな。あはは、安心しちゃったからかな……。死にたくは、ないなぁ…」

トムの目が落ちそうになる。
それを必死に開いているが、眠気には勝てないでいるようだ。

「おやすみ。後で迎えに来るからね」
「ウン、アリガトう。これなら、…安心して寝れるね」

ゆっくりと重い瞼を閉じたトムにアイテムボックスから取り出した向日葵の花びらをかける。

「クリーン」

トムの身体を蝕んでいた蛆虫を排除する。
「モスキーバエト」のものであるその下半身は、徐々に光の粒に変わり、消えていった。
残ったのは上半身のみだったが、彼を苦しめていた元がなくなり、顔には安らかな笑みを浮かべていた。

「助けられなくてごめんなさい…」








処理場を出て角を曲がるとちょうど白衣の人とバッタリあった。

「な!おまえ!?」

満月みちづきを抜き、刃を首に押し付ける。

「おい、奴隷部屋はどこだ」
「…っそんなこと誰が!!」
「ん?君の首に押し付けられているこの刃が見えないかな?」
「…」

間違えて斬ったら大惨事だ。
慎重に力の調節をしないと。チャキッと音を鳴らし、声を低くする。

「もう1度言う。奴隷部屋は何処だ?あぁ、嘘をついても分かるから、ちゃんと考えて言えよ?」
「くっ……ここをまっすぐ行って突き当たりで曲がり、赤い扉の先にいる」

ふよふよと、白衣の人の目が泳ぐ。汗が額から滴り落ち始めた。
嘘ですやん。
ここでハッタリかましてくるとか、度胸ありますね。

「今のは嘘だな。ん?死にたいのか?」
「…っ!!…右に曲がって緑の扉だ」
「そうか。感謝する」

 ドゴッ
鳩尾を殴り、気絶させる。
いやぁ、初めて恐喝したわ。
ハッタリも上手くかませたし、出来は良かったんじゃないかな?
心臓がまだバックバクしてるよ。
はい、深呼吸。
スーハースーハー。
さて、少し急ぎますか。
こんな所でゆっくりしてると、いつ誰かが来たっておかしくないからね。







まっすぐ走り突き当たりを右に曲がると、扉が並んでいた。
赤、青、黄、緑…
確か緑と言っていたな。
でも、本当に緑が奴隷部屋とは限らないからね。
慎重に行こう。
ゆっくりと緑色ドアノブを回す。

「くそっ!俺らをいっぱい殺してどうするんだよッ!!」
「今度は誰を連れてくのッ!?さっきピーターを連れていったばっかりじゃない!!」
「おかぁさん!怖いよぉぉ!!!」

恐怖の視線が檻の中から向けられる。
んー。
どう説明したらいいやら。
ここを開けっ放しにしておくのはアレだし、取り敢えず中に入ろう。

 ピロリん。
『・奴隷部屋にいる人々を城から救出しよう0/1』

「帝国めぇぇ!!」
「死ね!死ねぇぇ!!」
「助けてぇぇ!!」

酷い言いようですね。
こんなにうるさいと皆に声が届かないな。
装備を変えて【王の威圧】をonにする。
直後、部屋の中がしんと静まった。

「えー、コホン。私は通りすがりの正義の味方だ。トムに願いを託され、お前達を助けに来た。信じるか信じないかはお前達次第だが、今のこの状況から抜け出したいやつは無償で助けてやる」

再び、ザワザワと檻の中が揺れる。
まぁ、見ず知らずの怪しいヤツが助けてやると言っても信じる人は少ないだろうな。
そんな中、年が若い女性が手を挙げた。

「ん?何だ?」
「あの、貴方様は、軍服様でいらっしゃいますか?」
「そうだが」
「「「おぉっ!!」」」

え、何?
軍服知っている人がいる感じですか?
いやぁ、軍服の威光って、素晴らしいなぁ。

「おい、軍服って?」
「馬鹿、今のアドラーの中で一番強いお方だ!」 
「俺達は助かるのか!?」
「やったあぁあ!!!」

「盛り上がっているところすまないが、檻を斬るので後ろに下がっていてくれ」

指示に従って後ろに下がってくれる。
満月みちづきで、檻を水平に斬っていく。
奥の方に進むにつれ、腐敗臭が増す。

「軍服様、奥の檻にはもう生きている者はおりません…」
「そうかもしれないな。だが、万が一にも生きている者がいるがしれない。皆は此処で待っていてくれ」

制止を押し切り、奥へと進む。
確かに、檻に入れられている人達は腐敗し、骨が出ている。
中には白骨死体もあった。
それでも、奥へ奥へと進み続ける。
ここまで来ると、白骨ばかりである。
もう引き返そう、そう思った時…。

 ーぃ……ぁ…

微かにだが声が聞こえた。
迷わずに最奥にある檻を斬ると、やせ細った少女が鎖に繋がれていた。

「大丈夫!?」

虚ろな翡翠の目が空をきる。
紫色の唇はカサカサに乾燥し、髪は汚れきっている。

「ぁ、血…」

長い犬歯が口から覗く。
まさかこの子は吸血鬼とかっ!?
だったら、血が足りないということはすごく苦しいことなんじゃ!!

「えっと…私の血で良ければ飲む?」
「ぃぃ………の?」
「うん」

ボタンを外し、襟元を捲る。
少女の目がギラりと光り、物凄い速さで首筋に噛み付いた。

「いっ……ふ…」

皮膚を犬歯で突き破られるのは痛かった。
けど、血を吸われるのは痛くはない。
背中がゾワゾワくる感じがするだけだ。





「ぷはっ」

私の血をいっぱい吸ったおかげか、コケていた頬がぷっくらとした年相応のものとなり、頬に赤みがさした。

「クリーン」

ついでに少女に【生活魔法クリーン】を掛けておく。
汚れていた赤紫ワインレッドの髪の毛は軽くウェーブがかかり、艶を取り戻した。

ふぅ、流石に血を吸われすぎたかな。
頭がクラクラするや。

「其方が助けてくれたのですか?ありがとうございます。とても助かりました」
「いえいえ、君か助かって何よりだよ。あの、お願いがあるんだけどさ、君の肩を貸してくれないかな?血を吸われ過ぎてうまく立てないんだ」
「…!!それはすみませんでした。どうぞ、私の肩を借りてください」

少女に体重を掛けてしまうのは申し訳ないのだが、今は少しでも時間が惜しい。

「あの、其方の名前は?」
「るし、だよ」
「そうですか。るし様…」

少女は力持ちのようで、体重をかけてもまるで歩くスピードが落ちない。
流石、吸血鬼様。


「軍服様!?一体どうなされたのですか!」
「皆の者、軍服様が帰ってこられたぞ!」
「大丈夫ですか!?」

「大丈夫。皆、私についてきてくれるか?」
「「「「もちろんです」」」」

さっきまでの警戒が嘘のようだ。

「じゃあ、皆、近くにいる人と手を繋いで一つの輪っかを作って」

それぞれが首を傾げながらも隣の人と手を繋ぐ。
ギムレット達には言ってないけど、まぁ、何とかなるでしょ。
アイテムボックスから1枚の黒いカードを取り出し、念じた。
直後、奴隷部屋には人っ子一人居なくなった。
 






大人数で転移してきたため、リビングで寛いでいたヴィネが戦闘態勢に入っていた。

「ヴィネ、突然で悪いんだけど、私が帰ってくるまでこの人達にあの家を使わせてあげてくれないかな。彼らは奴隷で住む家が無いんだ」
「何事かと思えばおまえか。襲撃かと思ったぞ。我の建築した家に住まわせるのだな?いいぞ」
「え、そんなに簡単でいいの?」

少しは反対すると思ったんだけど…。
例えば、なぜ我が建てた崇高なる家にこんな下賎な者共を住まわせねばならぬのだとか。
あ、これはベリトか。

「あぁ、流石に無人だと作った我でも寂しくてな」

そっか。なら良かった。
突然の転移で動転している人達にはあらかた説明し、ここの指揮は一旦ヴィネに任せることにした。
私はまだ彼処でやらなければいけない事があるからね。

「るし、気を付けてな。おや、そ奴は…」
「うん!行ってくる!!」

黒いカードを使い、再び古城へ転移した。
傍らにいる赤紫ワインレッドの少女と共に。
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