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地下研究所①
しおりを挟む窓の外に雨粒が見えない。
流石に1日経てば雨もあがるというもの。
有難い。
この様子ならもうここを出られるだろう。
ーぁ……や…
「ふぁおっ!」
変な声が出てしまった!!
だって仕方ないじゃん?
何か声が聞こえるんだもん。
怖いよぉ。
シーツにくるまって誰かが来てくれるのを待つ。
ーい……だ…たず……て
うぉぉぉ。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!
勝手に部屋に入ってすみませんでしたぁぁ!!
ぷるぷるとベッドの上で震える。
シーツから顔を出す勇気はありません。
目の前にいたらどうするんですか!!
心做しか部屋の温度も下がってきた気がする。
ピシピシッてラップ音も聞こえる。
ここにいては危ない!!
シーツを深く被ってベッドから降り、足元に目を落として扉に向かう。
ガチャ
目の前には白衣。
ま…まままさかっ!!
恐る恐る顔を上げると痩せこけた青白い顔が!
「「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!」」
「るしさん!大丈夫げすか!?スリープアロー!!」
アルザスの弓が「ゾンビ」の足に刺さり、呻き声を上げ倒れた。
「ゾンビ」の頭をZZZという文字が回る。
「うわぁぁアルザスぅぁ…こわかったよぉ」
「るしさん、大丈夫でげすよ?この人は人間でげす。ゾンビじゃないでやすよ?」
そうだったんだ…。
でも、こんなに痩せこけて青白い顔してたら誰だって見間違えるよ。
…あれ?
この人、さっき私と一緒に叫んでなかった?
ということは、この部屋はこの人の?
…何か申し訳ないことしたな。
「るしー大丈夫ー?」
「大丈…」
ジンがズルズルと痩せこけた人を引き摺って来た。
「死んでないよね?」
「うんー。気を失ってるだけー」
この人も白衣を着ている。
ここは何かの研究所なのだろうか。
「うっ」ジンの白衣の人が目を覚ました。
「いったぁ…って!!お前らっ!!誰かっ!たすけ…」
ゴスッ
見事にジンの拳が鳩尾に入った。
ジンさんや、容赦ないですね。
「るしさん、まだ他にも人がいるみたいですぜ?白衣着てるってことは何かの実験してるってことでげすかね」
多分してるね。
白衣から薬品の匂いがプンプンする。
病院みたいな匂いだ。
「お、何だ。皆起きてたのかよ」
「じゃのぅ。妾達と同じく白い者達を捕まえておるぞ?」
「きゅ!」
ウォッカとバレンシアも白衣の人を数人引き摺って来たのが見えた。
人共、引き摺るのは可哀想だよ。
せめて、その口に詰めてあるものくらいは外してあげないかい?
「皆揃ったみたいだね。早速ここを出発したい所なんだけど、何かここ怪しくない?」
「じゃのぅ。調べて見るのが良さそうじゃ。じゃが妾、アンデッドには遭遇したくないのう」
「調べて見るのも面白そうでげすね。じゃあ、気絶させた白衣は一つの部屋に閉じ込めやしょう。ちゃんと猿轡もはめておきやしょうね。大声を出されて人を呼ばれるのは避けたいでげすから。万が一には、埋めることも出来やすぜ?」
アルザス、何さらっとおっかないこと言ってるの。
そんな恐いことしないから。
埋めないからね?
ヤクザじゃないんだし。
「あ、セメントでかため…」
「ないから。基本的には、捕まえたら猿轡をはめて決めた場所に転がしておく。これでいい?」
「いいよー」
「分かりやした」
「よし。これより、「古城捜査」を始める。2人1組になってこの城を探索だ。何かあったらメールで知らせて。ジンとウォッカは、私の大きな声が聞こえたら走ってきてね。準備はいいかな?」
「「「「おー!」」」」
ペアはジンとウォッカ、アルザスとバレンシア、私とベルモットとなった。
因みに、アルザスのペアは実質3人組だ。
ミニスライムのシュウがいるからね。
白衣さんを3人ほど気絶させては決めた部屋に運ぶこと三往復。
その間に壁にかかっているタペストリーの裏とかを調べたりしているが、なんの手がかりもない。
…ここって地下室とかありそうだよね。
いや、あるに決まっているだろう。
だって古城だよ?
拷問部屋とかあるに決まってるよ!
…アンデッドもいそうだけど。
よし、まずは地下に続く扉を探そう。
「ベルモット、秘密の通路とかあったら教えて」
「きゅ!」
私達は現在階段を調査中である。
階段の裏に隠し扉があるのは定石だよね。
「スンスン、スンスン、これは隠し扉の匂いがしますね!ベルモット警部!」
「きゅ!きゅー!」
おや、階段の裏に何やら怪しいスイッチが。
押してと言わんばかりに飛び出てますね。
ビンゴだ。
ラッキー!!
…だが待て、罠だったらどうする?
こんなにわかりやすい場所にボタンがさらけ出されているんだよ?
怪しい。
怪しいのだが、ボタンについつい手が伸びてしまう。
「きゅ!!」
「痛っ!」
ベルモットに手を叩かれ、すぐに引っ込める。
「ごめんて」
誰がこんなに怪しいボタンを押すもんか。
ベルモットに止めなければ押していたかもね。
ゴゴゴゴッ
ひとりでに壁が動き、地下に降りるための階段が現れた。 おや?なんで開いたんだろうね。
全くわからない。
何でだろう。
ねぇ、ベルモット。
「きゅ…」
そんなジト目で私を見ないで。
早速、アルザスにメールを打ち、ジンとウォッカに知らせるために大きな声をだす。
「おーーい!!あったよー!!」
「あー!るしー早いー!」
「ホントだぜ、全く。」
2人とも来るのが早いですね。
呼んだ瞬間現れましたもん。
遅れてアルザスとバレンシアもやってきた。
「お前さんら早いのぅ」
「流石でげすね」
「よし、みんな揃ったことだし、先に進もう!」
地下に続く階段を恐る恐る降り始める。
ーだぁ……て
何か聞こえません?
もしかして地下には「ゾンビ」が大量に発生しているとか?
あはは、そんなことないない。
ないよね?
ないない。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ビクッ
なんで真後ろに「ゾンビ」が!?
接近に気づかなかった!!
大太刀を引き抜こうとしてジンに止められる。
チラリと後ろを振り向くと、ウォッカがニヤニヤ笑っていた。
…覚悟しとけよウォッカ。
降りきると、研究所の廊下と思われる場所に着いた。
光が漏れる部屋の窓を覗くと、白衣を着た人達がせかせかと何かを書いている。
「…ここ絶対何かありそうでげすな(ヒソヒソ)」
「だね、じゃあ、誰が一番凄いものを探せるか競走ね。よーい、どん!(ヒソヒソ)」
勢いよくスタートを切ったはいいものの、道に迷ってしまった。
先程から同じ道をグルグル回っている気がするのだ。
ーたす…てぁ
例の声が通り過ぎようとした部屋から聞こえてきた。
中を覗こうにも窓の位置が高すぎる。
あっと、あんな所に丁度いいダンボールが。
近くに置いてあるダンボールを台にして、高いところにある窓から部屋の中を覗く。
「たすけでぇぇあぁぁぁああ…」
大きなフラスコが2つ置いてあった。
そのうちの一つに人が入っていた。
「もう嫌だァ!助けてェ!!」
この声は…例の声だ。
だけど、この人は人間…?
下半身が「モスキーバエト」に変わっており、継ぎ目からは蛆がわいている。
あまりにも痛々しい姿に思わず目を塞ぐ。
白衣の人達はフラスコの中で泣き叫ぶ人(?)を見て侮蔑の笑みを浮かべ、手に持った紙にペンを走らせている。
人(?)の入っているフラスコの横にはもう1本フラスコが置いてあり、黒い布が被せられていた。
その布の隙間から、下半身が無くなった「モスキーバエト」がもぞもぞと動いているのが見えた。
「また失敗か。375番は廃棄だな」
「はぁ、女帝様もよくこんなことやるよな」
「まぁ、幸い奴隷はいっぱいいるからな。何回失敗しても怒られねぇよ」
「ここで結果を出さないと私達もこうなるのよ?」
「おい、お前は少しは休め。頬がコケているぞ?」
「さっき何人かが休みに行ったのだから私が休みに行くわけには行かないでしょ?交代制なのよ」
「ほら、次は25番だ」
「次で成功してほしいな。合体が上手く行けば、自由に生きれるのによぉ」
フラスコに入れられていた人(?)は、土の人形に部屋から運び出された。
「嫌だ!嫌だァ!シニタクナイヨォ!」
この実験部屋も気になるが、今はあの人がどこに連れていかれるのかが一番気になる。
あの人は白衣の人から廃棄と言われていた。
なら、向かう先は処分場だろうか。
何にせよ、私の目に留まったからにはあの人をみすみす殺させはしない。
絶対に。
土人形にバレないよう少し距離を開けながらあとをつけた。
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