62 / 127
葛藤
しおりを挟むグロ注意です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「フラッシュ!!」
「影縛りっ!!」
現在、カマッキリー逆ハー達と絶賛戦闘中。
これに遭遇するのは今日でもう、3回目だ。
お腹いっぱいです。
【残月】を5振りすると、【確率死】が発動し夫達の生命を刈り取っていく。
「師匠!♀は僕がっ!!」
「分かった!無理はしないでね!」
セタンタが夫がいなくなって無防備になった妻に向かって槍を突き刺す。
「爆散ッ!!」
妻の身体が内側から身体が破裂した。
まさに爆散。
内蔵とかが辺り一面に飛び散ってるよ。
ピロリん。
『“ベルモット”のLvが上がりました』
『NPC“セタンタ”のLvが上がりました』
ベルモットのLvは6。
セタンタはLv9になった。
Lvが上がった影響か、ベルモットの身体が2回りほど大きくなり、成長の早さを感じさせた。
「ん~その竜ちゃんは何で私ばっかに攻撃するのかなぁ。ちゃんと蟷螂野郎にも攻撃して欲しいんだけどぉ」
そう、ベルモットは何故かちょこちょことセスに攻撃を当てている。
もしかすると、路地裏での件の事を私の代わりに怒ってくれてるのかもね。
でも、味方からも攻撃されるのは致命傷だ。
ベルモットだからと言っても許されることではない。
「ベルモット、セスに攻撃するのはメッ。いくら変態だからって、仲間を攻撃したら駄目だよ」
「きゅ…」
ベルモットはパタパタとセスの所まで飛び、ごめんね、とでも言うかのように頭を下げた。
「いい子だね。ベルモットおいでー」
頭をナデナデしてあげると、嬉しそうに鳴いて定位置に戻った。
「師匠っ!!森を抜けますっ!!」
ん?
セタンタは何を言っているんだ?
まだこの先もずっと森が続いているというのに。
一歩踏み出した瞬間、景色が変わった。
「はっ……?」
「馬鹿っ。るし隠れろ!」
言われるがままに向日葵の茂みに隠れる。
空は鉛のような重い曇天が太陽を遮り、光が地面に差さず、ムッとした血の匂いが辺を漂っていた。
木造建ての建物は壊れ、無残な姿に変わっていた。
「ここ、どこ?」
「ここはお前が探していた場所だ。王様が追放された者のために秘密裏につくった村だと俺は推測する。…空間をまるごと入れ替え、かつ、外からは分からないように超強力な幻術が掛けられている。現にセタンタが言うまで俺らが気づかなかったからな。」
「そのセタンタは何処に?」
「あぁ、あいつなら…」
スッと近くの茂みを差す。
「おぇ…」
顔色を悪くしたセタンタが下を向いて吐いているのが見えた。
幼い子供にこの匂いは流石にキツすぎるだろう。
私も吐きたい衝動が喉までせり上がって来ているのだから。
ーブゥン
壊れた建物からモンスターが出てきた。
そのモンスターは蝿と蚊を合体させたような体型をしていた。
口は蚊のようなストロー状。
目は網目が入った蝿。
足は鋭く細い蚊。
羽は蝿で胴体も蝿。
体長は3mほど。
遠目から【鑑定】を行う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
種族 モスキーバエト ☆3…イベント M 待機中
Lv8
HP 公開不可 MP 公開不可
パッシブスキル
・群れる(常時群れを作って移動している)
アクティブスキル
・増殖(自らの体液を相手に流し込むことで、相手の種族を自身と同じにし、姿形さえも変える。元に戻ることはない)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
もういったい建物から出てきた。
手に持っているのはグッタリとした赤い頭巾を被った女の子。
「助けに行かないとっ!!」
「待てっ!」
場を動こうにもセスが手を掴んで離さない。
「なんでっ!?離して!!」
「シーッ、静かにっ。アイツらに気付かれるだろ?それに、あのモスキーバエトとかいう奴らは群れで行動しているようだから、あれを仕留めずに先延ばしにしておけば、他の住人達がいる場所に案内してくれるかもしれないだろ。分かったなら馬鹿な真似は止めろ」
セスに窘めされ、冷静さが戻ってくる。
「分かった。ごめん」
「ならいい。奴らのあとをつけるぞ」
「うん」
その様子を見ていたジン、ウォッカ、青い顔のセタンタ。
「アイツ、二重人格なんじゃね?」
「るしが変態の尻に敷かれてるよ」
「…お兄さんと師匠は仲良いのかな」
ジンとウォッカはクワッと目を大きく開く。
「「そんなことないっ!!」」
「うっぷ…分かってるよ……おろろろ…」
彼らはモスキーバエトの後を追う。
「や、やめてくれっ!!もう十分じゃないかっ!!だから家族をぎゅふ………」
「お父ざん!!」
「ゾットさん!!……うわぁぁぁ!!」
「誰か助けて…」
「神様!!」
背中にモスキーバエトの口を刺された獣人のオジサンはボコッボコッと不吉な音を立ててその体を作り替えられていく。
内側から何かが盛り上がり、外皮が裂け、血がとどまることなく噴き出す。
眼球は盛り上がりに耐えられず、外に飛び出す。
歯はポロポロと抜け、髪も抜け落ち、人から何か別の生命体に変わっていく。
「ひぎゃぁぁぁああああ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃいいいいい!!!!だずげでぐれぇぇぇぇえええええええ!!!!aaaaaAAAAAAAAAA!!!」
叫び声は人でないものへと変わりゆく。
「あなだぁぁ~っ!!いやぁぁぁぁぁ!!!」
一斉に周りに集めていた人達に口が突き立てられ、慟哭にも似た悲鳴が上がる。
やがて、体が作り替えられ、6体ものモスキーバエトが産声を上げた。
その光景を見て、恐怖で足が竦んだ。
すぐ側でセタンタの嗚咽が微かに聞こえる。
セスが口に手を当て、目に涙を溜めているのが見える。
喉まで来ていた吐き気は遂に口から出てくる。
「おぇぇ…」
モスキーバエトは黒きもの。
国の近隣の村を襲い、仲間を増やす。
ツンとした吐瀉物の香りが鼻を突く。
「いやっ!!止めてぇ!!お父さん!お母さん!助けてぇぇ!!!元に戻ってよぉっぎょつかまかぶ……」
かつて、両親であったものに生命を作り替えられていく少女。
「ゾット!!俺だよ!!元に戻って…ひぎゃぁぁぁああああ!!!」
かつて、友人であったものに生命を作り替えられていく男。
「あなたっ!!助け……きゃあああああああああああ!!!!」
かつて、夫であったものに生命を作り替えられていく女。
「アドラー様ツ!!アドラー様が助けてくれるはずじゃ!!皆…いぎでぐゅぷぅうふる……。」
昔話を信じ、その生命を作り替えられていく老人。
その様子を見て、嬉しそうに前足を叩く黒きものたち。
それは地獄絵図。
「た…助けなきゃ…」
口元を拭い、震える足を叩き、何とか立ち上がる。
「それでこそ、るしだ」
「そろそろ行くー?」
この2人はかつてはモンスター。
弱肉強食の世界で生きてきたからこそ、その状況を受け入れることが出来る。
「るしーあの子ー」
ジンの指差す先にはグッタリとした赤い頭巾の子。
その顔は全てを諦めた顔。
虚ろで空虚なその目はどんよりとした曇天を映すのみ。
希望を、光を失った少女。
村最後であろう唯一の生き残り。
「助けなきゃ」
手の届く範囲は守らなければ。
むざむざと零すことは許されない。
だが、わたしにモスキーバエトを殺せるのか?
いや、この世界の人だったモンスターを殺せるのか?
この世界の人は死んだら生き返ることはない。
なら、私は今から人を殺すのか?
「覚悟を決めろ」
PKの言葉が耳に響く。
この世界の住人も殺したことがあるのだろう。
重い響きだった。
「君が動かなければあの子は死ぬ」
そんなことは分かっている。
でもッ…。
「何、迷う必要は無い。あのモスキーバエトはもう人じゃあない。それに、彼らを殺してやることが彼らにとっての救いになるんじゃないかな?割り切れ。君はこの世界の人じゃない。君はプレイヤーなんだ。あまり感情移入しすぎると、戻れなくなるぞ」
甘い甘い彼の言葉が聞こえる。
「君は自身の迷いと目の前の消え入りそうな人の生命を天秤にかけることが出来るのかい?」
それは出来ないっ。
「なら行け。君があの子の希望になるんだ」
ピロリん。
『○黒龍の軍服一式を装備しました』
手には神槍を。
「セス、君にはセタンタを守ってもらう。いいね?」
「ふっふっふぅ。任せたまえ♡」
それと、とスッとセスの耳元で囁く。
「ありがとう」
セスは呆けた表情でこちらを見た。
頼もしいジンとウォッカの方を向く。
「さぁ、殲滅を齎そう」
「流石、僕の認めた人だ」
「任せろ」
10
お気に入りに追加
1,319
あなたにおすすめの小説
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO
無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。
名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。
小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。
特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。
姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。
ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。
スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。
そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。
【完結】VRMMOでスライム100万匹倒して最強になった僕は経験値で殴るゲームやってます
鳥山正人
ファンタジー
検証が大好きな主人公、三上ハヤト。
このゲームではブロンズ称号、シルバー称号、ゴールド称号が確認されている。
それ以上の称号があるかもしれないと思い、スライムを100万匹倒したらプラチナ称号を手に入れた主人公。
その称号効果はスライム種族特効効果。
そこからは定番の経験値スライムを倒して最強への道かと思ったら・・・
このゲームは経験値を分け与える事が出来て、売買出来るゲーム。
主人公は経験値でモンスターを殴ります。
神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…
3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる