運極さんが通る

スウ

文字の大きさ
上 下
43 / 127

準決勝とギムレット

しおりを挟む
 

神槍ゲイ・ボルグの興奮が収まらずに挑む次の試合相手は、俊という名のプレイヤーらしい。
会場で俊さんの試合を見ようとすると、すごく女ファンが多くて、キャーキャー五月蝿い。
まったく、唾をかけたくなったよ。
最後の10分程しか見れなかったんだけど、実力は剣鬼には程遠いかな。
でも、油断は禁物。
油断は足元を掬うからね。



『本日第三試合目の準決勝戦!勝ち上がってきたのはこの2人っ!軍服と貴公子だぁ!!』

『きゃー!!どちらもかっこいいですねぇ!!はっ…贔屓はしてませんよ?ええ。さぁ、御二方、場内に入ってください!』


貴公子…。
確かにいい顔してるね。
どっかで見たような?まぁ、そこらかしこにイケメンはいるからね。
同じ顔が1人や2人いてもおかしくないわな。
満月みちづきを構える。

『go!!!』

「はぁぁっ!!」

貴公子が先制攻撃を仕掛けてくる。

 ガギィッ
「俺…お前に言わなくてはいけないことがあるんだ」

突然何を言い出すんだ貴公子は。
これは何か?罠か?
いいだろう、その罠に乗ってやる!

「何だ?」

「今お前の傍にいるゴブリンがいるだろ?…そいつを俺は殺そうとしていた」
「あ?」

コイツっジンとウォッカを殺そうとしていたのか!?
剣を受け流して素早く胸を突くが、防御力の高い鎧を来ているのか、貫通しなかったようだ。

「ごふっ…あの時お前が止めなかったら俺はアイツを殺していた。でも、それは普通のことだろ?経験値だと思って殺そうとしたんだ」

…?
経験値…。
あ、あの時の青君か!

「俺はお前から引いた後、広場で偶然お前を見かける機会があった。その時、お前は助けたあのゴブリンと楽しそうにしていた。俺は…不覚にも、ゴブリンはお前に拾われて良かったと思ってしまった」

おう。
ジンを助けて良かったと思っているよ。
それに、君は何より先に引いてくれたからね。
いい人だと思うよ。

「俺はあの時、お前の笑顔を見て、俺は……俺はっお前に惚れてしまったんだ!!」
「はっ?」

急に何を言い出すの!?
やばいね。
これは早急に決着をつけ方が良さそうだ。
【蹴り技】を使って足をすくってやろうとするが、逆に足を捕まれ、地面に押し倒された。
絞め技で、首を締めてくる。
抜け出そうとすると、より固く絞めてくる。

「この戦いで俺が勝ったら、俺と付き合ってくれ!!」


『おぉぉぉ!!!愛の告白だ!この試合、面白い展開になってきたぁぁあ!青春だ!ってあれ?軍服は男なんじゃ…まさかっ貴公子はアッチの人間だったのか!!』

『あの体勢…やばいですね。スクショしたいです!!貴公子もっと絞め上げろぉぉ!!』


司会!何言ってんの!!
確かに首を足でしめられて、足も手でガッチリと締められてるけど…。
この体勢…はっ…。

「どけっ!!この体勢は流石に恥ずかしい!!」
「何を言うんだ!軍服!この体勢を崩したら、俺の負けになるだろうが!」

ギリギリと締めてくる。
軍服のお陰で苦しくは無いけど、抜け出せない!
さらに体が密着してくる…。

「ふぁっ!?辞めて!本当に恥ずかしいぃぃ!!お嫁にいけない!」
「…っなら、さっさと体力0になれ!」

だって、自動回復付いてるんだよ?無理に決まってるじゃん!
いくらSTRが高いからって、関節を締められちゃ、動けないよ。
何か…何か解決策が…。
そうだ、【光魔法】を使えば一瞬とはいえ力が緩むはずっ。
そこに全てをかける。
 【光魔法】を全開でかける。

「ぐっ…」

力が緩んだ。
今だ!
高いSTRで貴公子の絞め技から抜け出し、逆に首と足を絞める。

「ふぁっ!?るし…その体勢は…く…苦しいけど…幸せ…」

何こいつ気持ち悪っ!
一気に力を込めると鎧が凹む音と骨が折れる音がして、貴公子が金色の粉に変わっていった。

『準決勝勝者は軍服っ!いやぁ、災難でしたねぇ!!面白い試合でした!貴公子もよく頑張った!』

『えぇ!ええ!素晴らしい試合でした!もう、涎が止まりませんっ…はっ…あの、決勝進出おめでとうございます!決勝は午後7時からになっておりますので、メンタルの回復に務めるのがオススメです!本当にお疲れ様でしたぁぁぁあ!!!』




はぁ、もう嫌だ。
ある意味剣鬼よりも強かったよ。

「るし様」

ギムレットの声が聞こえる。
気のせいだね。
きっと疲れているんだ…。

「るし様。わたくしですよ?試合、お疲れ様でした」

本物でした。

「るし様、広場のベンチに行きませんか?」

どうしたんだろ。
あれ?皆は?

「3人はもっと試合を観たいと言っていたので、会場に置いてきました」

そうか。
私も観たいけど、メンタルが持ちそうにないや。

フワッと、身体が浮いた。

「ふぁっ!?」

ギムレットの顔が近い…ということはお姫様抱っこ!

「ぎ…ギムレット!?な…な、何で?」

ギムレットはふふふと笑い、そのまま進む。
広場からの視線をが痛い。
ギュッと目をつぶって運ばれていると、

「るし様、つきましたよ」

どうやら目的のベンチに着いたようだ。
ギムレットは先に座り、ペシペシと自分の太股叩いて、笑顔で言った。

「膝枕、どうです?」

え…。
笑顔だけど、目が笑ってない。
私は素直に従って、膝枕をしてもらった。

「るし様、お疲れでしょう。このままお眠りください」
「…でも、人目が…」

そう、人の視線が突き刺さってくる。
これじゃあ眠れないし、逆にメンタルもやられていく。

「大丈夫です。わたくしが子守唄を歌いましょう。」

そう言うやいなや、BGMの歌を歌い出した。
優しい、心に染みる歌だ。
ギムレットの優しい歌声が眠気を誘ってくれる。

「ありがと。また…お世話になっちゃうね」

目を閉じる際にギムレットの美しい目に浮かぶ儚さが印象に残った。




 ~ギムレットside~


「ふふふ、これがわたくしの特権のようなものですから。ちゃんと試合一時間前には起こしますので、ぐっすりお眠りに……ふふ、もう眠って閉まったんですね」

スースーと深い眠りについた私の愛するべき人。
なんて、儚い。
軍帽をそっと取り、起こさないよう美しい銀髪を撫でる。

「睫毛、長いですね。凄く、閉じ込めてしまいたいくらいに愛おしい」

この人が他の人の目に入るだけで嫉妬してしまう。

わたくしは欲深い精霊王。
故に、あの毒沼に封印された。
人に会えず、温もりに触れられず、ただただ毒に侵されていた。
毒の侵食率が95%を超え、王の権威を失いかけていた時、あの人が助けてくれた。
我儘で、傲慢で、欲深くて、嫉妬に狂うような、そんなわたくしを助け、愛してくれる人がいる。
わたくしを甘やかさず、時には叱り、時には、褒め、時には頭を撫でてくれる。
るし様。
るし様が私の名前を呼ぶだけで、快感に満たされる。
傍にいるだけで心が保たれる。
全てを満たしてくれる。
下卑な目を向けることもない。
寧ろ、いつもキラキラした目を向けて下さる。
ニコニコと笑顔を貼り付け、苦しんでいることを隠し、心配させないようにしている。
負けず嫌いだけど泣き虫。
今にも崩れそうなこの人の心の支えになりたい。
否、ならなくては。
わたくしは歌う。
この人の為に。
この人だけの為に。
この人を自分の物にする為に。


わたくしの為に。

だって、わたくしは精霊王。
欲深い、水の精霊王。
嫉妬深い、水精霊王。
わたくしを封印した他の王達には感謝しなくては。
こんなにも良き人に出逢えたのだから。
ふふふ。

「ありがとうございます」

近くに寄ってきていた人間ゴミクズがギョッとした顔をしました。
人間ゴミクズの癖に。
そんな顔をるし様に向けるなんて許し難いです。
でも、わたくしが動けばるし様も起きてしまう。
ここは自爆魔法でも掛けて、わたくし達から離れた所で爆発して頂きましょう。
人間ゴミクズ爆弾セット。ふふふ」
そうですね、爆破時間は午後6時としておきましょうか。
ちょうどいい目覚まし時計ですね。
人間ゴミクズ、いい役職を賜りましたね。
では、さよなら。
せいぜい、残りの人間ゴミクズでいる時間を悔やんで下さい。

「んん…」

あら、るし様、魘されていらっしゃるのですか?

「うぅ…ギムレット……」

私のことを夢の中でも呼んで下さるのですか?
わたくし嬉しくて嬉しくて、貴方様を誰にも触れられないところに閉じ込めてしまいたいです。
いいですよね?
るし様。
わたくしと2人きりでいることは、幸せな事ですよね?
「ギムレット、何をしているんだ?」
この声はヴィネではありませんか。
毎回毎回邪魔をしてくる。
まぁ、昔助けて貰ったこともあるので殺しはしませんが、流石にこうもるし様との2人きりの時間を邪魔するのは許し難いですね。

「ギムレットお姉ちゃーん。ここにいたのー?」
「姉貴、顔が凄い怖いぞ。」

この2人はるし様に1番近い存在。
いわば、私とるし様の子供のような存在。
この子達は殺したりしません。
わたくしとるし様に害をなそうと思わない限りは。

「ふふふ。3人とも、るし様が眠っていらっしゃるので、お静かに」
「む、分かった。わっぱ共、屋台を回るぞ。ここにいては2人の邪魔になるしな。」

流石ヴィネ。
わたくしの一番の友人。
よく分かっていただけているではありませんか。

「おう、行くぞジン」
「うんー分かったー」

子供達も素直で何よりです。
さて、私は愛しいるし様を眺めましょう。

「ギムレットのお姉ぇさん。あんまりにもおいたが過ぎると、るしも気付いちゃうよ?」
「…っ!」

耳元で聞こえたその言葉に驚いて振り向くが誰もいない。
幻聴でしょうか。
おいたが過ぎる…?
ふふふ、大丈夫です。
今度こそはしくじったりはしません。
ゆっくり、ゆっくりとるし様の心をわたくしで占領して行きましょう。
まだまだ時間はかかるでしょうが、るし様を手に入れるためならわたくしは我慢致しましょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

UWWO ~無表情系引きこもり少女は暗躍する?~

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
フルダイブ型VRMMORPG Unite Whole World Online ユナイト・ホール・ワールドオンライン略称UWWO ゲームのコンセプトは広大なエリアを有する世界を一つに集約せよ。要するに世界のマップをすべて開放せよ。 そしてようやく物語の始まりである12月20に正式サービスが開始されることになった。 サービスの開始を待ちに待っていた主人公、大森あゆな はサービスが開始される15:00を前にゲーム躯体であるヘルメットにゲームをインストールしていた。 何故かベッドの上に正座をして。 そしてサービスが始まると同時にUWWOの世界へダイブした。 レアRACE? 何それ? え? ここどこ? 周りの敵が強すぎて、先に進めない。 チュートリアル受けられないのだけど!? そして何だかんだあって、引きこもりつつストーリーの重要クエストをクリアしていくようになる。 それも、ソロプレイで。 タイトルの副題はそのうち回収します。さすがに序盤で引きこもりも暗躍も出来ないですからね。 また、この作品は話の進行速度がやや遅めです。間延びと言うよりも密度が濃い目を意識しています。そのため、一気に話が進むような展開はあまりありません。 現在、少しだけカクヨムの方が先行して更新されています。※忘れていなければ、カクヨムでの更新の翌日に更新されます。 主人公による一方的な虐殺が好き、と言う方には向いていません。 そう言った描写が無い訳ではありませんが、そう言った部分はこの作品のコンセプトから外れるため、説明のみになる可能性が高いです。 あくまで暗躍であり、暗殺ではありません。 いえ、暗殺が無い訳ではありませんけど、それがメインになることは確実に無いです。 ※一部登場人物の名前を変更しました(話の内容に影響はありません)

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

40代(男)アバターで無双する少女

かのよ
SF
同年代の子達と放課後寄り道するよりも、VRMMOでおじさんになってるほうが幸せだ。オープンフィールドの狩りゲーで大剣使いをしているガルドこと佐野みずき。女子高生であることを完璧に隠しながら、親父どもが集まるギルドにいい感じに馴染んでいる…! ひたすらクエストをやりこみ、酒場で仲間と談笑しているおじさんの皮を被った17歳。しかし平穏だった非日常を、唐突なギルドのオフ会とログアウト不可能の文字が破壊する! 序盤はVRMMO+日常系、中盤から転移系の物語に移行していきます。 表紙は茶二三様から頂きました!ありがとうございます!! 校正を加え同人誌版を出しています! https://00kanoyooo.booth.pm/ こちらにて通販しています。 更新は定期日程で毎月4回行います(2・9・17・23日です) 小説家になろうにも「40代(男)アバターで無双するJK」という名前で投稿しています。 この作品はフィクションです。作中における犯罪行為を真似すると犯罪になります。それらを認可・奨励するものではありません。

引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです

こばやん2号
ファンタジー
とあるVRMMOで生産職最高峰の称号であるグランドマスター【神匠】を手に入れた七五三俊介(なごみしゅんすけ)は、やることはすべてやりつくしたと満足しそのまま引退する。 大学を卒業後、内定をもらっている会社から呼び出しがあり行ってみると「我が社で配信予定のVRMMOを、プレイヤー兼チェック係としてプレイしてくれないか?」と言われた。 生産職のトップまで上り詰めた男が、再び生産職でトップを目指す! 更新頻度は不定期です。 思いついた内容を書き殴っているだけの垂れ流しですのでその点をご理解ご了承いただければ幸いです。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

Alliance Possibility On-line~ロマンプレイのプレーヤーが多すぎる中で、普通にプレイしてたら最強になっていた~

百々 五十六
ファンタジー
極振りしてみたり、弱いとされている職やスキルを使ったり、あえてわき道にそれるプレイをするなど、一見、非効率的なプレイをして、ゲーム内で最強になるような作品が流行りすぎてしまったため、ゲームでみんな変なプレイ、ロマンプレイをするようになってしまった。 この世界初のフルダイブVRMMORPGである『Alliance Possibility On-line』でも皆ロマンを追いたがる。 憧れの、個性あふれるプレイ、一見非効率なプレイ、変なプレイを皆がしだした。 そんな中、実直に地道に普通なプレイをする少年のプレイヤーがいた。 名前は、早乙女 久。 プレイヤー名は オクツ。 運営が想定しているような、正しい順路で少しずつ強くなる彼は、非効率的なプレイをしていくプレイヤーたちを置き去っていく。 何か特別な力も、特別な出会いもないまま進む彼は、回り道なんかよりもよっぽど効率良く先頭をひた走る。 初討伐特典や、先行特典という、優位性を崩さず実直にプレイする彼は、ちゃんと強くなるし、ちゃんと話題になっていく。 ロマンばかり追い求めたプレイヤーの中で”普通”な彼が、目立っていく、新感覚VRMMO物語。

最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧
ファンタジー
『To The World Road』 倍率300倍の新作フルダイブ系VRMMOの初回抽選に当たり、意気揚々と休暇を取りβテストの情報を駆使して快適に過ごそうと思っていた。 ……のだが、蓋をひらけば選択した職業は調整入りまくりで超難易度不遇職として立派に転生していた。 しかしそこでキャラ作り直すのは負けた気がするし、不遇だからこそ使うのがゲーマーと言うもの。 意地とプライドと一つまみの反骨精神で私はこのゲームを楽しんでいく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

処理中です...