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服を買おう
しおりを挟む広場を抜けて大通りに出る。
人が多くて迷子になってしまいそうだ。
大通りには屋台などはなく、お店がいっぱい並んでいる。
ちなみに、町並みはヨーロッパ風だ。
日本ではまず見ることが出来ないであろう、隙間のない敷き詰められた家々を見て、毎回感動せずにはいられない。
いやぁ、いつ見ても美しい町並みだ。
「外国だぁ。」
「がいこくって何~?」
「がいこくっていう場所にいったことがあるのか?」
「んー。行ったことはないんだけど…ちょっとね。」
「「ふーん。」」
服屋を探していると、視界に靴屋の看板が目に入った。
おもむろに自身の履いている靴に目をやると、ところどころに穴が空いていて、靴底は酸を踏んだ際に溶けており、ボロボロの状態であった。
ジンとウォッカは…って、靴履いてないじゃん!
気付かなかったよ。
擦り傷とかは付いてないみたい。
でも、安全の為には必要だよね。
「2人とも、服を買う前に靴屋さんに寄ろう。」
「えー。」
「靴か。俺は別に必要ないのだが。」
あれ?好感触を期待してたんだけど…。
何でだろ。
…。
ま、いっか。
「入るよー。」
「…うん。」
「…おう。」
ガチャ
「いらっしゃいませ。」
爽やかな笑顔を浮かべた店員さんが迎えてくれる。
店には様々な靴が置かれていた。
スニーカー
ローファー
ブラッチャー
サンダル
コーン・ヒール
スリッポン …etc
プーレーヌまで置いてあった。
「好きな靴を選んでおいでー。」
「「はーい。」」
嫌がってた割には、楽しそうに自分に似合う靴を探す2人。
微笑ましい光景だ。
さて、私も靴を選びに行こう。
初心者装備のこの靴にはお世話になった。
だけど、これで街を歩くにはちょーっと頂けない。
履くなら黒の靴がいいなぁ。
時間を掛けて、ジンが選んだ靴は、基本白に紫の線が入っているスニーカーだ。
お値段、銀貨8枚。
ウォッカの選んだ靴は、基本黒に赤の線が入っているスニーカーだ。
お値段、上と同じく銀貨8枚。
私が買った靴は、ボタンアップ・ブーツだ。紐ではなく、複数のボタンで留めあげるブーツで、色はモチのロンで黒だ。お値段、金貨2枚。
総額、金貨3枚と、銀貨6枚。
私が一番高いのは、気のせいだと思う。
うん、気のせいだ。
早速新しい靴を履いて、店を出る。
2人は少し歩きにくそうにしている。
「僕、靴なんて履いたことないから、変な感じがするよ。」
「俺も初めて履いたけど、なんかこう、締め付けられる感じがするな。でも、足の裏が汚れないのはいいことだと思うぞ。ありがと、るし。」
そうか、2人とも元はゴブリンだったから靴を履く習慣がないんだね。
うんうん、初体験て感じのやつだね。
「るしー。服屋さん見つけたよー。」
「おー!ありがと!」
そのまま服屋さんの看板が掛けてあるお店に入った。
「いらっしゃいませ。」
「「「…っおお。」」」
ものすごーく驚いた。
一瞬見ただけだけど、品揃えが豊富だったし、何より、可愛い服からかっこいい服、渋い服までが置いてあるのが見えた。
だがしかし、驚いた本命はこっちだ。
店員さんに、驚いた。
身体はムッキムキで、身長は2mをゆうに超えており、その身体にピチピチに貼りついている白いTシャツ。
そして、青い短パン。
角刈りの髪に、厳ついのに、何故か爽やかさを醸し出している笑顔。
第一印象が強すぎだ。
「どうされましたか?お客様。」
「はっ…。いえ、すみません。大丈夫です。」
「「です。」」
「そうですか。では、ごゆっくり。」
あまりの衝撃にフリーズしてしまっていたようだ。
横を見ると、ジンとウォッカも固まっているのがわかる。
「ジ…ジン、ウォッカ、服を選んでおいで。」
「…ムキムキ。」
「お…おう。あの兄ちゃんいい体してるな。俺もムキムキになりてぇ。」
店員さんのことは一回置いといて、服を選ぶのに戻ろう。
黒いのがいいなぁ。
「るしー。これどーお?」
ジンが、グリーンワームのシルエットが入った、緑色のTシャツを持ってきた。
「…元の場所に戻しておいで。」
「えー。…分かった。」
少ししょんぼりしながら服を元の場所に戻し、新たな服を探し始めるジン。
なんでグリーンワームなんかを選んだのだろう。
不思議だ。
もしかして、グリーンワーム好きなの?
「るし、俺のはどうだ?」
どれどれ。
ウォッカが持ってきたのはグリーンワームが敷き詰めて描かれている虹色のTシャツだ。
「OUT。」
「えー。」
これまたしょんぼりした顔で服を戻しに行くウォッカ。
その際に、ウォッカの口角が上がっているのを私は見過ごさなかった。
コイツ…わざとだな。
覚えとけよ、ウォッカ。
最終的に選んだ服は
ジンが、フードの付いた白のポンチョに青いズボン。
お値段、金貨1枚と銀貨6枚。
ウォッカは、猫耳フードがついた黒のポンチョに青の短パン。
お値段、金貨1枚と銀貨8枚。
私は、黒のタンクトップに黒のズボン。
お値段、金貨2枚。
総額、金貨5枚と銀貨4枚。
…。
すいません。高いの買っちゃいました。
いそいそと店内で新しい服に着替える。
ボロボロの初心者装備と、2人の服をアイテムボックスにしまう。
これは思い出が詰まった大切なものだからね。
「皆様とても似合ってますね。」
店員さんがニカッと白い歯を見せる。
厳ついはずなのに、爽やかに感じるのは何故ですか?と聞きたいけど、聞いたらダメだろう。
そう思いながら店を出た。
「またのご来店お待ちしております。」
「今日はもう帰ろ?」
「うん。この服チクチクしないから好きー。」
「おう。俺もチクチクしないから好きだな。ギムレットさんが待ってるし、早く帰ろうぜ。」
「うん、てか、ウォッカの猫耳可愛い!」
「僕は?僕は?」
「ジンも可愛いよー。」
グリーンワームの服の仕返しに猫耳を触ってやろう。
「ちょっ、やめろよっ!やめろって。耳触んな!」
はぁ~、可愛い。
「るし!おい、ジン助けろっ。」
「ずるいー。」
「可愛いよーウォッカー!」
「うわぁーーー!助けてぇぇ。」
ギュー
「やめてぇぇぇ。」
「嬉しいくせに~。」
ゴンッ
「~~~~っっ!!」
ウォッカに頭に拳骨を貰った。
私のHPバーが5分の1削られた。
思いっきり叩きやがってぇ。
「たこ焼き買え。」
コキコキと腕を鳴らしてウォッカが怖い笑みを浮かべながら、私の頭に拳を近づけようとする。
「はい。調子に乗りました。ごめんなさい。」
「あ、僕はクレープ!」
ジン…どさくさに紛れて何買ってもらおうとしてるのさ。
帰り道に広場に寄り、たこ焼き3個クレープ3個カステラ20袋買ってから、家に帰りました。
カステラのお値段は1袋銅貨2枚です。
「あ、防具買うの忘れてた。」
「「あ。」」
「明日でいっか。」
「そだね。」
「だな。」
心の喪失感は少し埋まった気がした。
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