運極さんが通る

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存在進化

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~主人公side~

月曜というのは鬱だ。
だけどこの1週間学校に行くと、冬休みだ。
教室に入ると、既に半分近くの生徒がいた。
自分の席につくと、寝る体勢に入る。
耳に入るのはいつも通り、『Live Online』の話だ。
きっとどこの教室もその話で持ちきりなのだろう。
   
「グリーンワームがやばくてさぁ。」
「あれ、キモいよねぇ。」

「昨日フィールドボスが倒されたんだよ!」
「まじかよ!じゃあフィールド2に行けるじゃん!」


トントン、と頭をつつかれて顔を起こすと、私の友達である知音(ともね)がいた。
私が友達だと一方的に思い込んでいるのかもしれないけどね。
「んん~おはよう。どうしたの?」
「おはよ。柚も『Live Online』やってるのかなぁ、と思って聞きに来たの。」
「やってるよ?てことは、知音も?」
「うん!世界ランキング闘技大会が今週の土曜日にあるよね。ちょうど冬休みに入るから、頑張ろうと思ってるんだ。」
「おー、頑張れ~」
そうか、知音も出るってことは、このクラスにいる大半の『Live Online』プレイヤーは参加するってことだね。
「柚、良ければなんだけど、この1週間大会に向けて一緒にLv上げない?」
それはありがたい申し出だけど…。
「ごめん!大会が終わるまでは一緒に出来ないんだ…ホンットごめん!!」
「そっか…予選でもしかすると当たるかもしれなし、手の内は晒せないよね。こっちこそごめんね。また今度、大会終わった時でも一緒にやろ?」
「うん。ごめんね、ありがと。」
知音は本当にいい子だ。
ひとり寂しげにしている私なんかに声をかけてくれる。
…ボッチじゃないよ?
知音以外にも友達いるよ?
ただ、眠たくて机からは動かないだけ。





さて、今日はキリのいいLv10までを目標に頑張ろうと思います。
ということで、フィールドボス狩りです。
掲示板情報によると、フィールドを北上して行った模様で、プレイヤーの近くを通りかかった際には一人残らず血祭りに上げていったようです。
   

ジンとウォッカをいつも通り手にかけボスを探していると、遠くの方にそれらしき影が見えた。

ドシン
ドシン

うん、この足音は間違いなくボスだね。
ってことで着替えてレッツラゴー。


気づかれないように真上に移動して3人で奇襲を仕掛ける。
  
「Piiikiiiiiiiiiii!!」
   
今回は短期戦に挑む。
前回、1時間かけてボスの動きをバッチリ把握したから、復習は完璧だ。
より効率的になった作戦はこうだ。
ボスの背中に片手でしがみつき、空いた手で攻撃する。
なんとも卑怯な戦い方だが、まだフィールドボスに勝てない人へのせめてもの助言として、自分達がこの作戦が有効であるかどうかを試しているのだ。
私は運良くいい装備を手に入れたから勝てたけど、その装備を手に入れていなかったら、未だに勝てていなかったとおもう。
「このままいくよっ。ジン、ウォッカ!」
「Gehi!」
「Ga!」
見る見るうちに体力が削られていくボスを守るために、子分たちがボスの背中を駆け上がってきた。
「Kiiiiiiii!!」
数の戦いというのは恐ろしいもので、切っても切っても湧いてくる。
しかも、隙をついて攻撃をも加えてくる。
これは痛い。
装備越しに噛まれてチクチクする。
「Gehia!?」
「Gehiaツツ!」
2人も噛まれたようだ。
ウォッカ…耳に噛まれた後が付いてるよ。


 ピロリん。
『“ウォッカ”のLvが上がりました。』
おー。1周目で上がったか…。
成長期ですな?
それにしても、子分達の猛攻撃により、予定していた短期戦が長期戦になった。
前回より10分短くなって50分だが、まだ長いと思う。
それに、私達でこの時間なのだ。
このままでは頂けない。 
戦いの中、この作戦に光が見えたような気がした。
改善の余地は大いにありそうだ。
 
しかし、何故か私とジンのLvが上がらない。
解せぬ。



2周目

今回は、1周目の作戦を改善するため、3人の内、2人が背中からの攻撃をし、残りの1人が子分達の相手をする、ということにした。
私が残りの1人、つまり、子分達の相手を務める。
大太刀だと片手で攻撃はしづらいからね。
「んじゃ、そっちは任せたよ!」
「Gehi!」
「Ga!」
初めての時はボスとのタイマン勝負だったけど、今は数の利のある子分達との勝負だ。
「かかってこーい!」
この言葉が合図となって、私と子分達との潰し合いが始まった。
   
こんだけの子分達を相手にすると、正直辛い。
小さいから刃に当たりにくいし、何よりも早い。
噛まれたところはムズムズヒリヒリする。
イライラが溜まる戦いだ。
よくジンとウォッカが耐え凌いだもんだ。
素直に賞賛できるよ。

ガブッ
「いてっ!」
ガブッ
「痛いって!」
ガブッガブッ
「…。上等だこらぁ!」





長きに渡る子分達との戦いが終わった。
噛まれたところが痒いし、ヒリヒリするよ。
子分達は蚊か何かですか!?
歯から何かの液を注入でもするんですか?
もの凄く痒いです。
あ、これ感染病とかになるかもしれないというのがとても怖いです。

     
ピロリん。
『“ウォッカ”のLvが上がりました。』
なんでやねん!
ワシは頑張ったぞい!?
何でウォッカがLv上がんねん。
早いわ!!
くっ…。
凄く痒い。
もう一周だ。


2周目のタイムは40分。
作戦の試行錯誤の結果、人を増やして戦いを挑めば勝てる、と判断しました。
早速、掲示板に打っておこう。



 3周目
  
痒みが引いたところでボスに挑む。
「行くよっ!」
「「Ga。」」
私は、背中担当になりました。
心優しきウォッカに代わってもらいました。
ありがとう、ウォッカ。君の頑張りは忘れないよ。
蚊の犠牲になってくれたウォッカの為にも私も頑張らなければなるまい。
「せいっ!」
刃を思いっきり背中に突き刺す。
「Piiikiiiiiiiiiiiaaaaa!!!」
怒りに目を赤に染めたボスが、なんと尻尾を上手くくねらせて自分の背中を叩き始めた。
これは想定外だ。
なんとか避け続けているが、これでは攻撃を加えることは出来ない。
何か方法はないかと探していると、ジンがボスのお腹の方に移動し始めた。
なるほど。
私とジンで二手に別れて攻撃する寸法ですな?
さすが、家の脳(ブレーン)、ジンだ。
ボスもさすがに二つの場所を攻撃できないようで、焦っている…ということはなかった。
自分の腕を使ってジンを引き剥がそうとしているのだ。
だが、ジンはそれを予期していたようで、ボスの長い毛の中に潜っていく。

ウォッカはどうだ?
チラリと目の端で捉えたが、大丈夫そうだった。
ブラッディ・ローズを上手くクルクルと回して、子分達を寄せ付けず、バッサバサと切り裂いていっているのが見えた。
おっし、ラストスパート頑張ろう。
   


ボスが金色の粉に変わっていく。
   
 ピロリん。
『Lvが上がりました。』
『存在進化が可能です。』
『“ジン”のLvが上がりました。』
『テイムモンスター“ジン”の存在進化が可能です。』

そ…存在進化だと!?
く、詳しくっ。
   
『存在進化が可能です。進化しますか?
 Yes/NO』
    
待って、ルートを見せて下さい。

『堕天使:男爵(バロネス)……貴族の称号を持てるようになった堕天使。☆8

天使:再臨……堕天使が天に許され、天使へと舞い戻った存在。☆8』
   
て…天使だと!?
気になるところではあるが、私は堕ちる方を選ぶとしよう。

ポチッ
金色粉が私を包む。
そういう進化の方法なのね。
蛹(さなぎ)みたいだ。


『存在進化が完了しました。』

……。
見たところ、どこが変わったか分かんないや。
しいていうなら、翼が少し大きくなったかな?程度かな。
   

お次はジンだ。
『テイムモンスター“ジン”が存在進化が可能です。進化しますか?Yes/NO』
   
ルートを見よう。

『小鬼……人により近づいた形態になる。だが、額から生える角は、人ではないことを強調している。 癒し型。☆3

オーガ……筋肉が発達し、背丈が人ほどになる。俗に言う、筋肉マッチョ。攻撃特価型。☆3

ゴブリン村長……統率力に長けたゴブリン。姿はゴブリンより少し背が高いくらいである。知能型。☆3』


ほほう。
小鬼…ということは子供みたいな感じかな?
ショタorロリか、マッチョか、村長てとこかな。
私はショタorロリか、村長で。
決して私はショタコンorロリコンな訳ではないと誓おう。
ショタorロリは人により近くなったことで、このルートの中で1番流暢に喋れるのではないかと思うし、村長は、ジンは頭がいいし、とても活躍してくれそうな気がしたからだ。
人に近くなる…ということは、肌は緑色のままなのかな?
それとも、顔がゴブリンのままなのだろうか。
どうなるかとても楽しみだ。

すごく迷うけど、ここは小鬼で行きたいと思う。
ジンはどうだろ?
「ジンは何になりたいの?」
「Ga!」
ジンは小鬼を指した。
ジン曰く、小鬼になりたいそうです。
満場一致で、小鬼です。


ポチッ
ジンが金色の粉に包まれる。


『存在進化が完了しました。』
   
金色の粉がサラサラと消えていく。
・・・ショタorロリが現れた・・・
…。
すごく可愛い。
「ジン?だよね?」
「うん。」
「抱きしめてもいい?」
「いーよー。」
   
ギュッ
可愛いぃぃ!!
これでやっと一緒に話せるんだ!
本当に嬉しいよ。
「るしー。くるしーよ。」
「あ、ご…ごめん!」
苦しそうにしていたジンから慌てて離れる。
改めてジンを観察する。
黒に少し紫がかったサラサラな髪に、額から覗く黒く小さな1本の角。
ぱっちりとした大きい目。
その目の色はサファイアのような爽やかな青。
肌は緑ではなく、透き通るような白。
本当にジンなのだろうか。
疑ってしまうほどに変わっていた。
というより、ゴブリンから進化しただけでこんなに可愛くなるとは…実に不思議だ。
私はジンに進化した際に聞きたいことがあった。
「ジンは男の子?女の子?」
「うーん。男の子だよ?」
そうか。
ショタだったのか。
可愛い。



尚もずっとジンを眺めていると、横から視線が。
ウォッカでした。
私がジンにばかり構っていたせいか、プリプリしている。
「ウォッカ、私はちゃんとウォッカのことも好きだよ?」
ウォッカはプイッと、顔を背ける。
「たこ焼きだよ~。許して?」
必殺のたこ焼きを献上すると、機嫌を直してくれた。
チョロいな。
   
ウォッカや、ヤキモチ焼かなくても、君も今日中には進化予定だよ?


現在時は4時。
あと3周はいけるね。
   


4周目。
今回は奇襲戦ではなく、正面から。
ジンの進化した後の動きと私の動きを確認する為だ。
進化した後だと、勝手が違うかもしれないからね。
   
「Piiikiiiiiiiiiii!!!」
   
「2人とも、行くよっ!」
「うん!」
「Ga!」

完璧な人型になったジンの動きはゴブリンの時よりも幾らか安定しているように見える。
剣を振る速さも上がっているような気がする。

対して、私はさほど何も感じない。
変わらない、と言った方がいいだろうか。
いつも通りの感覚だ。
うん、今のところ変わりなし。
貴族という称号を貰っただけのようだ。
   
   
Lvが上がったよ、というアナウンスもなく、戦闘が終了した。
Lvは上がらなかったけど、進化後の動きの確認は出来たし、良かったかな。
Lvは上がらなかったけど。


   
5周目

なんと、今回は最短記録、35分を記録した。

ピロリん。
『“ウォッカ”のLvが上がりました。』
『テイムモンスター“ウォッカ”の存在進化が可能です。進化しますか?Yes/No』

来たァ!
やったね、ウォッカ!
一応ルートを確認しよう。
   
『小鬼☆3

  オーガ☆3

食屍鬼……生きていたものを食べることによって力を増す。その姿は人には程遠く、獣のようである。☆3』

おおぅ…。  
食屍鬼やばし。
ウォッカは何になりたいのかな?
「ウォッカはどれがいい?」
ウォッカは、オーガと小鬼を刺して、首をかしげている。
迷ってるんだね。
じっくり考えて、自分のなりたいものを選んでね。

「Ga!」
どうやら、ウォッカも小鬼のようです。
オーガもいいと思うんだけどね。
ここはウォッカの意見を尊重すべきだろう。
進化するのはウォッカ自身だからね。


ポチッ
ウォッカが金色の粉に包まれていく。
やっぱり蛹だね。

   
『存在進化が完了しました。』

金色の粉が流れていく。
・・・2度目のショタorロリが現れた・・・
…。
可愛い。
髪は金髪で、少し天パがかかって軽くウェーブしている。
額から覗くは日本の蒼い小さな角。
少し切れ目のその目は、朱色。
肌の色はジンと同じで透き通るような白。
「ギュッてしていい?」
「ん、いいよ。」
ギュッ
今回は苦しくないように抱きしめる。
「お日様の香りがするね。」
「るしは何言ってるの…。」
「僕は?僕は?」
「ジンはお花の香りがするよ~。」
私はウォッカを抱きしめたまま、ジンにも聞いた質問をする。
「ウォッカは女の子?男の子?」
「俺は男だよ?男以外に見えないだろ?」
「わーい。ウォッカもおなじ男の子だね~。」
ウォッカは随分と男らしい喋り方をするようだ。
対してジンは舌足らずな感じで、年相応、という感じがする。
2人とも…可愛い!
今日はもういいや、帰ろ。
2人をおうちで愛でよう。
そうしよ。
   
   
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