空を見下ろす扉

阿房宗児

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終末

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「あれ」
閉ざされた楽園。
死そのもの。
あらゆる生物の父親。
絶望から眠り続けている者。
初めて世界に死という呪いを作ったもの。自身の行為によって、楽園の門を閉ざしたもの。
罪と罰   それは彼(あれ)の千切られた両腕。
私達は   彼によって殺された子供。

母である大海の言葉。
それは、あの日、夜のホテルの部屋。自分が彼女を殺した、あの日。
あの時、彼女の口から漏れた言葉。
「殺して」
    ・
    ・
広大な白い海、白い液体、白い星。
そのなかで自分と彼女が額を合わせて丸まって眠っている。
母からの願い。
願いが叶うのなら?

自分達の体がゆっくりと溶けて、眼を閉じ続けている父親へと注がれる。そして父親の閉じられた眼が開くとき、「黒」が凄まじい勢いで溢れ出て辺りを覆う。やがてそれは、地球を海から覆った。





突然地球が消滅した。
地球の自転が停まり、全生物の行動、様々な現象が中断された。

自然
雲は流れるのをやめた。

風も海も然り。雨は地へと染み渡ることなく空中で一つの線のまま硬直し続けた。

風でなびいていた草木は不自然にしなったままの状態で。

林檎をはじめとして、様々な熟した果実は耐えきれなくなった自らの重みを保持したまま、枝から離れても地に落ち着くことはなく。

動物   咆哮の最中で。
獲物に牙を突き立てている状態で。
追われていたものは逃げ切れることなく。逆も然り。
仕留めた獲物を口にくわえ巣に持ち帰る途中で。

人間   愛の交わりの最中。互いに果てることなく。
眠っている者は醒めることなく。
夜通し泣いていた者は、部屋に射し込む朝日と共に泣き止むこともなく。
出発した者は到着することもなく。また、帰着することもなく。
笑顔のまま、泣き顔のまま、困惑したまま、善人も悪人も、俯いたまま、夢のままに。


時が停まった地球を液体状の「黒」が包んだ。黒はあらゆる海から地へと流れ込み地上の全てを飲み込み包んだ。
地上を飲み尽くした黒は吸い込まれるように上空に昇り、残っていた色を塗りつぶした。黒に飲み込まれた、それぞれは形を変えて、見渡す限り黒い平地へと変わった。山も川も海も人工物も全てを飲み込み平らになった。




かつて地球と呼ばれた星があった地点。そこに様々な色を含んだ靄や雲状ののものが次々と形成され集まり、渦巻き状に膨らみ続けた。

その先(渦巻き)に一つの空間がある。一面灰色に覆われた、なにもない世界。
そんな場所に立ち尽くす存在が一つ。
灰色の地から、同色の蔦のようなものが生えてきて、立ち尽くしていた存在に侵食していった。立ち尽くしていた存在は身動き一つとらなかった。
    ・
    ・
    ・
すでに時間を図る者も、時間の尺度も失ったなか、世界が消滅したなか、立ち尽くしていた存在は原形を留めておらず、蔦と一体化し、色彩の欠けた植物のような姿へとなっていた。
その体から亀裂が入り、地球を覆った黒が滲み出した。しかし黒は、その存在のみをゆっくりと包んでいった。



一つの扉があり鍵が掛かっている。
そこへいつか鍵が差し込まれ扉は開く。
開かれるための扉と鍵なのだから。

扉が開かれたとき、「手」は肉体的、有限的であり、可能性でもあり呪いでもあった、そのあらゆる「手」が「手」にまつわる過去と出来事を越えて、新しい「手」に変わっている。

その扉の鍵は……と……だと彼女が言った気がした。
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