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取り調べ
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自分の手元にはカードがない状況で取り調べを受けている。刑事二人はリチャードとフライシャーと名乗り、二人揃って自分の前に座る。しかし二人とも容姿がそっくりなので、次第にどちらがリチャードでフライシャーなのか分からなくなる。きっと運転疲れだろうと思った。自分が事件のことより「双子?」「ハーフ?」「見分け方のコツは?」といったことにしか頭が回らなかった。なにより、リチャードフライシャーと言えば有名な映画監督だ。自分は「十番街の殺人」という映画を思い出していた。リチャードかフライシャーのどちらかが沈黙を破る。
「それで?もう一度」
自分は状況を話した。自分は依頼人を殺された探偵だと。
「なぜ?」
わからない。つい昨日依頼を受けることを了解したばかり。
「依頼人とはどこで?」
初対面だ。事務所を突然訪ねてくれた。
「それで?」
今日訪ねたら依頼者が倒れていた。
「訪ねた?じゃあ、君は鍵がかかっていた家へと入り、わざわざ家の鍵を閉めたと?それから殺人を犯した?」
違う。玄関から入っていない。
「不法侵入だ。それで?」
それで、依頼人が倒れていて逃げた。
「どうして逃げた?不法侵入をする理由は?」
自分は十番街の殺人について考えている。ジョンハートは無実で捕まる。不安、恐怖、混乱、そして習慣からデタラメばかり喋ってしまう。普段から見栄っ張りでデタラメばかり言っていたからだ。そして自白。やってもいないのに。妻を殺されただけなのに、やってもいない殺人を自白。その後証言が二転三転するが、あっさりと死刑になる。ジョンハートは最後まで弱々しく弁明するかのように喋る。そしてあっさりと殺される。死刑制度と誤解と自らの習慣に。
「それで?もう一度」
・
「それで?もう一度」
どうして、警察は依頼人宅に来たのか?
「答える必要はないし、無論、結果的に警官は被害者を発見した。つまり警官は被害者を発見するために向かったとも言える。」
それはつまりタレこみがあったんですね?そいつが犯人だ。
「仮に情報提供してくれた人物がいるとして、それは誰?」
それを調べるのが警察の仕事でしょ。
「その通り。それで仕事をしている。で、それは誰?」
たしか無実のジョンハートの刑が執行された後、真犯人が見つかる。映画のテロップにジョンハートの墓は、まともな墓に埋めかえられたというのが流れるだけ。それだけ。
「それで?もう一度」
・
「それで?もう一度」
リチャードとフライシャーはどう考えているのだろうか?凶器から自分の指紋でも出たのか?事務所を捜索したのか?契約書を見れば、自分の言っていることのウラが取れるはずだ。自分は巻き込まれただけだ。
本気で自分を疑っているんですか?もう結構な拘束時間だ。
「君はどう思う?」
自分があなた達の考えていることを想像しろって?
一人の人間が殺され、タレこみが入り警官が到着すると現場から逃走した関係者。
つまりこの場合、考えられるのは被害者と自分とタレこみとの間にトラブルが起きて、誰かが被害者を殺した。もしくはそう見せかけただけのパターン。
もしくは探偵が殺人を犯し、そのまま警察にタレこみをして、さも罠にかけられた人間を演じていると。
「本当に?」
薄暗くて小さな部屋。質素で冷たい机と椅子。揺れる電球。その貧弱な明かりが、この部屋にいる人間の影を揺らす。左右に揺れる黒。もしくは左右に揺れるオレンジ色。自分は俯いている。その影が机の上で揺れている。笑っているように見えるのは影か?明かりか?
「君はどう思う?」
冷たい無機質で体温を感じない声、目の前にいるのが人間ではなくて、人間の形をした「なにか」それは大昔から、あらゆる存在の背後に、もしくは存在の内側にさえ常に存在しているが、抽象的な場面の局面でしか、その存在を感じることが出来ない。じっと乾いた体を持ち、ありとあらゆる体験と可能性を持ち合わせながら、いやだからこそ、なにもしえないし、行わない存在。しかし無とは違った存在。なぜなら、それらは限られた局面において、状況という手段を用いて選択を問いているのだから。
「君はどう思う?」
目の前に座っている探偵と称する男。たしかにそれが探偵事務所を営んでいる男。依頼者は二人。依頼内容は失踪した一人息子を探すこと。
やがてこれらの文字の意味が、疑い、本質的な存在の不確かさと、常にあらゆる方向に視線や手を伸ばせる、紫色をした魅惑の可能性という分厚い支えによって分解され、疑惑などによって組み直された仮説はいかにも、以前の様相よりも相応しい姿をリチャードとフライシャーの前に姿を現す。
目の前に座っている探偵と称する男。依頼者夫婦。これで男二人と女一人という構図が出来上がる。
または、目の前に座っている探偵と称する男。以前から依頼者婦人と愛人という関係で…
または、目の前に座っている探偵と称する男に、婦人が夫の殺人依頼をして…
または、目の前に座っている探偵と称しているが、実は失踪した一人息子本人で…
または、目の前に座っている探偵と称する男と依頼者夫婦という元犯罪人達。昔にチームを組んで犯罪を犯し計画は成功したが、最後に探偵が裏切って金を独り占めして逃亡。その恨みを晴らしにきたとすれば、この男は相当、頭の切れる黒幕で、これを未解決の強盗事件などと照らし合わせれば…
「それじゃあ、依頼者の婦人に聞けば分かるでしょう。」
「うん。誰しもがそう考えて実行に写す」
・
「それでも自分は未だにここに座っている」
この部屋から見えない場所にて、既に面通しが行われていた?その結果は?
・
しかし自分は今も座っている
「君はどう思う?」
「君はどう思う?」
「それで?もう一度」
自分は状況を話した。自分は依頼人を殺された探偵だと。
「なぜ?」
わからない。つい昨日依頼を受けることを了解したばかり。
「依頼人とはどこで?」
初対面だ。事務所を突然訪ねてくれた。
「それで?」
今日訪ねたら依頼者が倒れていた。
「訪ねた?じゃあ、君は鍵がかかっていた家へと入り、わざわざ家の鍵を閉めたと?それから殺人を犯した?」
違う。玄関から入っていない。
「不法侵入だ。それで?」
それで、依頼人が倒れていて逃げた。
「どうして逃げた?不法侵入をする理由は?」
自分は十番街の殺人について考えている。ジョンハートは無実で捕まる。不安、恐怖、混乱、そして習慣からデタラメばかり喋ってしまう。普段から見栄っ張りでデタラメばかり言っていたからだ。そして自白。やってもいないのに。妻を殺されただけなのに、やってもいない殺人を自白。その後証言が二転三転するが、あっさりと死刑になる。ジョンハートは最後まで弱々しく弁明するかのように喋る。そしてあっさりと殺される。死刑制度と誤解と自らの習慣に。
「それで?もう一度」
・
「それで?もう一度」
どうして、警察は依頼人宅に来たのか?
「答える必要はないし、無論、結果的に警官は被害者を発見した。つまり警官は被害者を発見するために向かったとも言える。」
それはつまりタレこみがあったんですね?そいつが犯人だ。
「仮に情報提供してくれた人物がいるとして、それは誰?」
それを調べるのが警察の仕事でしょ。
「その通り。それで仕事をしている。で、それは誰?」
たしか無実のジョンハートの刑が執行された後、真犯人が見つかる。映画のテロップにジョンハートの墓は、まともな墓に埋めかえられたというのが流れるだけ。それだけ。
「それで?もう一度」
・
「それで?もう一度」
リチャードとフライシャーはどう考えているのだろうか?凶器から自分の指紋でも出たのか?事務所を捜索したのか?契約書を見れば、自分の言っていることのウラが取れるはずだ。自分は巻き込まれただけだ。
本気で自分を疑っているんですか?もう結構な拘束時間だ。
「君はどう思う?」
自分があなた達の考えていることを想像しろって?
一人の人間が殺され、タレこみが入り警官が到着すると現場から逃走した関係者。
つまりこの場合、考えられるのは被害者と自分とタレこみとの間にトラブルが起きて、誰かが被害者を殺した。もしくはそう見せかけただけのパターン。
もしくは探偵が殺人を犯し、そのまま警察にタレこみをして、さも罠にかけられた人間を演じていると。
「本当に?」
薄暗くて小さな部屋。質素で冷たい机と椅子。揺れる電球。その貧弱な明かりが、この部屋にいる人間の影を揺らす。左右に揺れる黒。もしくは左右に揺れるオレンジ色。自分は俯いている。その影が机の上で揺れている。笑っているように見えるのは影か?明かりか?
「君はどう思う?」
冷たい無機質で体温を感じない声、目の前にいるのが人間ではなくて、人間の形をした「なにか」それは大昔から、あらゆる存在の背後に、もしくは存在の内側にさえ常に存在しているが、抽象的な場面の局面でしか、その存在を感じることが出来ない。じっと乾いた体を持ち、ありとあらゆる体験と可能性を持ち合わせながら、いやだからこそ、なにもしえないし、行わない存在。しかし無とは違った存在。なぜなら、それらは限られた局面において、状況という手段を用いて選択を問いているのだから。
「君はどう思う?」
目の前に座っている探偵と称する男。たしかにそれが探偵事務所を営んでいる男。依頼者は二人。依頼内容は失踪した一人息子を探すこと。
やがてこれらの文字の意味が、疑い、本質的な存在の不確かさと、常にあらゆる方向に視線や手を伸ばせる、紫色をした魅惑の可能性という分厚い支えによって分解され、疑惑などによって組み直された仮説はいかにも、以前の様相よりも相応しい姿をリチャードとフライシャーの前に姿を現す。
目の前に座っている探偵と称する男。依頼者夫婦。これで男二人と女一人という構図が出来上がる。
または、目の前に座っている探偵と称する男。以前から依頼者婦人と愛人という関係で…
または、目の前に座っている探偵と称する男に、婦人が夫の殺人依頼をして…
または、目の前に座っている探偵と称しているが、実は失踪した一人息子本人で…
または、目の前に座っている探偵と称する男と依頼者夫婦という元犯罪人達。昔にチームを組んで犯罪を犯し計画は成功したが、最後に探偵が裏切って金を独り占めして逃亡。その恨みを晴らしにきたとすれば、この男は相当、頭の切れる黒幕で、これを未解決の強盗事件などと照らし合わせれば…
「それじゃあ、依頼者の婦人に聞けば分かるでしょう。」
「うん。誰しもがそう考えて実行に写す」
・
「それでも自分は未だにここに座っている」
この部屋から見えない場所にて、既に面通しが行われていた?その結果は?
・
しかし自分は今も座っている
「君はどう思う?」
「君はどう思う?」
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