1 / 6
01
しおりを挟む
甘い香りが焚きしめられた寝室。
巨大なベッドの中央に、セレンは膝を抱えて座り込んでいた。
ゆるくウェーブした淡い金髪に優しい緑色の瞳。その顔立ちは人形のように整っており、小さな唇には赤い紅が引かれている。
華奢な身体を包むのは、赤く染められた繊細なレースで作られた扇情的なデザインの衣装だ。
細い肩紐は油断すれば落ちてしまいそうだし、ふっくらとした胸を包むレースは肌色が透けて見えるほどに薄い。二つの膨らみの中央で結ばれた艶やかなサテン生地のリボンは飾りではなく、ほどいてしまえばこの服をあっという間に一枚の布にするものだ。
裾は膝までの長さはあるものの、腰のすぐ下あたりからスリットが入っているため少しでも動いたら太ももがあらわになってしまう。
この衣装を用意したのは一番上の姉であると、準備をしてくれた女官が言っていた。
セレンをあざ笑うためにわざわざ取り寄せたのだろう。
ひどい侮辱だと怒るべきなのだろうが、今のセレンにそんな余裕はない。
(口から心臓が出そう)
緊張のあまり、心臓が早鐘のように脈打っていた。気持ちを落ち着けるために深呼吸を繰り返してみるが効果はない。
カーテンのひかれていない窓から見えるのは満天の星。
この状況には似つかわしくないその美しさに、詰めていた息を吐き出す。
もじもじとシーツの上で素足をすりあわせていれば、部屋の扉が軽く叩かれた。
小さな音なのにやけに大きく聞こえて、セレンは思わずひっ! と短い悲鳴を上げてしまう。
「いらっしゃいますか」
「……ええ、いるわ」
「入っても?」
「………………いいわよ」
ぎこちない声しか出せないのがもどかしい。
静かな音をたてながら開かれた扉の隙間から現れたのは、一人の青年だった。
すらりとした長身がまとうのは白いシャツに紺色のズボンという簡素な服なのに、細身ながらも鍛え上げられた肉体のおかげか、まるで貴族の一張羅のようにも見えた。
漆黒の髪に太い眉。琥珀色の瞳は大きく、どこか大型の犬を思わせる風貌だ。
じっと見つめてくる視線からは何の感情も読み取れない。流石は王国一の英雄騎士と言ったところだろうか。
「セレン様」
セレンを呼ぶ声は、低く甘い。
呼ばれるだけで胸の奥がじわりと痺れて陶酔したような心地になる。
同時に目の奥が痛んで叫び出したいほどの苦しさが喉の奥からせり上がってくる。
言ってやりたいことが沢山あったはずなのに、頭の中が真っ白で上手く言葉が出てこない。
「リュート……」
「どうか、俺に一夜の夢をお与えください」
名前を呼んだ声を遮るように告げられた言葉に、セレンは喉を鳴らしたのだった。
巨大なベッドの中央に、セレンは膝を抱えて座り込んでいた。
ゆるくウェーブした淡い金髪に優しい緑色の瞳。その顔立ちは人形のように整っており、小さな唇には赤い紅が引かれている。
華奢な身体を包むのは、赤く染められた繊細なレースで作られた扇情的なデザインの衣装だ。
細い肩紐は油断すれば落ちてしまいそうだし、ふっくらとした胸を包むレースは肌色が透けて見えるほどに薄い。二つの膨らみの中央で結ばれた艶やかなサテン生地のリボンは飾りではなく、ほどいてしまえばこの服をあっという間に一枚の布にするものだ。
裾は膝までの長さはあるものの、腰のすぐ下あたりからスリットが入っているため少しでも動いたら太ももがあらわになってしまう。
この衣装を用意したのは一番上の姉であると、準備をしてくれた女官が言っていた。
セレンをあざ笑うためにわざわざ取り寄せたのだろう。
ひどい侮辱だと怒るべきなのだろうが、今のセレンにそんな余裕はない。
(口から心臓が出そう)
緊張のあまり、心臓が早鐘のように脈打っていた。気持ちを落ち着けるために深呼吸を繰り返してみるが効果はない。
カーテンのひかれていない窓から見えるのは満天の星。
この状況には似つかわしくないその美しさに、詰めていた息を吐き出す。
もじもじとシーツの上で素足をすりあわせていれば、部屋の扉が軽く叩かれた。
小さな音なのにやけに大きく聞こえて、セレンは思わずひっ! と短い悲鳴を上げてしまう。
「いらっしゃいますか」
「……ええ、いるわ」
「入っても?」
「………………いいわよ」
ぎこちない声しか出せないのがもどかしい。
静かな音をたてながら開かれた扉の隙間から現れたのは、一人の青年だった。
すらりとした長身がまとうのは白いシャツに紺色のズボンという簡素な服なのに、細身ながらも鍛え上げられた肉体のおかげか、まるで貴族の一張羅のようにも見えた。
漆黒の髪に太い眉。琥珀色の瞳は大きく、どこか大型の犬を思わせる風貌だ。
じっと見つめてくる視線からは何の感情も読み取れない。流石は王国一の英雄騎士と言ったところだろうか。
「セレン様」
セレンを呼ぶ声は、低く甘い。
呼ばれるだけで胸の奥がじわりと痺れて陶酔したような心地になる。
同時に目の奥が痛んで叫び出したいほどの苦しさが喉の奥からせり上がってくる。
言ってやりたいことが沢山あったはずなのに、頭の中が真っ白で上手く言葉が出てこない。
「リュート……」
「どうか、俺に一夜の夢をお与えください」
名前を呼んだ声を遮るように告げられた言葉に、セレンは喉を鳴らしたのだった。
64
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?
うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。
濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!
日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。
そんな彼に見事に捕まる主人公。
そんなお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
図書館の秘密事〜公爵様が好きになったのは、国王陛下の側妃候補の令嬢〜
狭山雪菜
恋愛
ディーナ・グリゼルダ・アチェールは、ヴィラン公国の宰相として働くアチェール公爵の次女として生まれた。
姉は王子の婚約者候補となっていたが生まれつき身体が弱く、姉が王族へ嫁ぐのに不安となっていた公爵家は、次女であるディーナが姉の代わりが務まるように、王子の第二婚約者候補として成人を迎えた。
いつからか新たな婚約者が出ないディーナに、もしかしたら王子の側妃になるんじゃないかと噂が立った。
王妃教育の他にも家庭教師をつけられ、勉強が好きになったディーナは、毎日のように図書館へと運んでいた。その時に出会ったトロッツィ公爵当主のルキアーノと出会って、いつからか彼の事を好きとなっていた…
こちらの作品は「小説家になろう」にも、掲載されています。
ヤンデレ義父に執着されている娘の話
アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。
色々拗らせてます。
前世の2人という話はメリバ。
バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる