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「えっ! あっ……んんぅ!」



 再びキスで唇が塞がれて、先ほど以上に強引な舌がプリムラの口内を弄んだ。

 舌を根元から強く吸い上げられると、お腹の奥がぎゅうっとして熱を孕む。

 苦しくて気持ちよくて思考がまとまらず、プリムラは目を閉じたまま必死でラウルスにしがみつくしかできない。



(や、なんで、なんでぇ)



 そのうちにプリムラの肩を押さえていたラウルスの大きな手が腕に滑り降り、胸元のあたりを撫ではじめたのを感じて、慌てて目を開ける。

 同時に唇が解放された、冷えた空気が口内を冷やした。



「な、あ……?」



 今着ているワンピースは簡素なもので、コルセットなど身につけていない。

 だから何枚かの布越しにラウルスの体温や指先の感触が伝わってくる。



「まだ言わない気か」

「えっえ……?」

「それとも、触って欲しかった?」

「きゃうっんっ」



 胸の膨らみを掴まれ、痛みとも痺れともつかない感触が体を貫く。

 形を確かめるように動いていた指先が、付け根からゆっくりと丘を登り、まるで場所を知っているかのように先端に辿り着いた。



「あ、あ……」

「君が秘密を喋ってくれるなら、ここで止めてあげる」



 そう言いながらも、ラウルスの指先はプリムラの胸先をすりすりとなで回す。

 布越しのじれったい動きが敏感な皮膚を刺激して、そこがツンと硬くなっていく。



「プリムラ?」



 耳元に寄せられた唇が耳朶を撫でながら、甘い声で名前を呼ぶ。

 背中をゾクゾクと駆け上がる快感にプリムラはいやいやと首を振る。



「だめ、だめなんです、私……!」

「じゃあ、俺も止めてやれない」

「あうっ!」



 すっかりと硬くなって存在を訴えはじめていた胸の先端をラウルスの指が摘まんだ。

 そのまま服の上からすりつぶすようにこねられて、プリムラはあられもない悲鳴を上げた。



「やっ、やぁぁ」



 信じられないほど甘ったるい声を上げて身をよじり、なんとかラウルスの下から逃げ出そうとするプリムラだったが、がっちりと押さえ付けられていて身動きがとれない。

 それどころか、中途半端にもがいたせいでスカートがずり上がり素足があらわになってしまう。



「大胆だな? 誘ってるのか?」

「ちがっ、んんっっ!」



 許して、と叫ぼうとした唇はキスで塞がれた。

 胸をいたぶっていない方の手が、あらわになったプリムラの足を撫でる。

 素肌を辿る少しざらついた熱い皮膚の感触に、お腹の奥がきゅうっとうずいてしまう。



「ラウルスさま、あっ、あっ!」



 胸をすうすうと撫でる風の感触にプリムラが視線を落とせば、いつの間にかワンピースの前がくつろげられ、白い胸元がラウルスの眼下に晒されていた。

 いつもは慎ましくしている先端が、触って欲しそうに硬く尖って鮮やかに熟れている。果実のように膨らんだ両胸のいやらしさに、プリムラは耳まで赤く染めて涙を浮かべる。



「こんな愛らしいものを隠していたんだな、君は」

「ちが、あうんっ!」



 素肌の胸をラウルスの手がなで回す。爪先で先端をカリカリと削られると、鼻にかかった甘い声が出てしまう。



「ああ、すごいな……君の胸は柔らかくてずっと触っていたくなる」

「や、ああんっ、あっ」



 両手で包むように持ち上げられ、先端を虐められて。

 しっとりとした熱い吐息が胸を撫でたかと思ったら、濡れた舌先が白い肌を舐めはじめた。

 付け根を辿り、丘を這い上がり、色づいた皮膚との境目をぐるりとひと周りして。



「プリムラ。これが最後だよ。君が抱えている秘密を話してくれるなら、ここで許してあげる。言わないなら……」

「ひゃあんっ」



 ふうっと胸の先端に息を吹きかけられ、プリムラは背中を反らせた。

 体が「もっとして」と叫んでいるのがわかる。お腹の奥で熱が渦巻いて、今すぐめちゃくちゃにして欲しくてたまらない。

 淫らな本性を暴かれてしまった羞恥で頭の芯が焼けそうだ。



「プリムラ……」

「あっ」



 ラウルスの濡れた舌が硬く尖った先端に触れた。びりびりと電流が流れ、全身が震える。

 ぺろぺろと子犬がミルクを舐めるように薄い皮膚を味わわれて、プリムラは甲高い声で喘ぐ。



(きもちい、きもちいいよぉ)



 与えられる膨大な快楽に生理的な涙が溢れ、耳朶を濡らす。



(だめ、だめよ、こんなの)



 酷いことをされているのに嬉しくて気持ちよくて、申し訳なくて悲しくて。



「う、うう……」



 心と体がバラバラになっていくような感覚に、プリムラは我慢できずに泣き出していた。一心にプリムラの胸を吸っていたラウルスがぎょっとして、弾かれたように体を起こす。



「プリムラ!?」

「う、うええん……!」



 えぐえぐと赤ん坊のように声を上がて本格的に泣き声を上げはじめたプリムラに、ラウルスの顔が色を無くす。



「す、すまない! つい調子に……じゃない!」



 オロオロと狼狽えながら組み敷いていたプリムラの体を解放すると、シーツでぐるぐるとその体を包み、どこからか取り出したハンカチで涙を拭ってくれる。

 先ほどまでの強引さが嘘のような優しい手つきに、プリムラは涙を止めて、ラウルスの顔を見つめた。

 対するラウルスは眉を下げて黒い瞳を申し訳なさそうに潤ませている。



「あの……」



 少しだけ冷静さを取り戻したプリムラがこわごわと声を上げれば、ラウルスの肩が大げさに震えた。



「ラウルス、様?」

「……幻滅、しただろう」

「え、ええと……」



 それなりに酷いことをされたという自覚はあるが、不思議なことに嫌悪感は抱いておらず、プリムラははてと首を傾げる。

 恋故なのか、それとも自分が抱える罪悪感故なのかはわからないが、ラウルスに対して幻滅などしていないことだけは確かだ。



「幻滅は、してない、です」



 素直にそう告げれば、ラウルスの顔が少しだけ輝く。



「でも、怖かった……」

「う……」



 正直に伝えれば、上がりかけていた眉が再びへにゃりと下がってしまう。



「本当にすまない……ここまでするつもりはなかったんだ」



 叱られた犬のようにうなだれる姿が新鮮でプリムラは先ほどまでの出来事をすっかり忘れ、ラウルスから目が離せなくなる。



「どうして」

「ん?」

「どうして、私にかまうんですか?」



 口から溢れたのは、これまでずっと聞きたかったことだ。

 いくらスフィカの友人だからといっても、プリムラはただの伯爵令嬢だ。ルカーノと直接会話したこともないし、ベーテリンと関わったのもスフィカと一緒に居た数回のみだと記憶している。

 なのに、どうしてラウルス直々に監視と尋問をされているのか。一度で解放されなかったのか。



「それは……」



 歯切れの悪い返事をしながら、ラウルスが視線を泳がせる。

 その様子に、自分が知らぬ何かがあるのだと感じたプリムラは目を細めた。



「隠しごとがあるのは、ラウルス様も同じなのではないですか」

「そうだな。それは認める。君に伝えていないことがたくさんある」



 あまりにも素直に認めたラウルスの態度に、プリムラは毒気を抜かれてしまう。

 適当な言葉で誤魔化されるかと思っていたのに。

 ラウルスの黒い瞳がまっすぐにプリムラを見つめてくる。隠しごとはあるが、偽られているわけではない。そんな確信が胸を射る。



「……私が……私が秘密を告白したら、ラウルス様も秘密を教えてくださいますか?」

「いいだろう」



 ためらいのない返事に、プリムラは覚悟を決めた。



「誓って嘘ではないことを先にお伝えしておきます。実は私は……前世の記憶があるのです」



 そうして、プリムラは自分の知るすべてをラウルスに打ち明けたのだった。
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