私が死んで満足ですか?

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誰が殺した悪役令嬢

誰が殺した悪役令嬢-3

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    ライラ・エルビ 一


 ごきげんようアリア様。わざわざこのような街の外れまで来ていただき、すみません。
 ご連絡をくだされば私のほうから伺いましたのに。
 はい、私がライラ・エルビでございます。以後、お見知りおきを。
 いいえとんでもない。
 エルビ家はここからずっと北にある痩せた土地を領地に持っております。
 跡継ぎの兄は身体が弱く王都に来られないので、私が父について社交界に出ておりますの。
 我が家をご存じで?
 さすがは才女と名高いアリア様。鉱脈が見つかったことをご存じだったのですね。
 そうなのです。これまで長いこと苦しんでおりましたが、ようやく光明が射しました。
 ありがたいことに今は財政も潤い、もうすぐここを手放して、王都の中心部に買ったタウンハウスに引っ越しますの。
 我が領地で取れるようになった鉱石はかなり価値があるものだそうで、先日は国王陛下へのお目通りも叶ったんですよ。
 あとは兄の結婚だけなのですが……ああ、すみません余計な話でしたね。
 ええと、今日はセイナ様のお話をなさりにいらっしゃったのですよね?
 未だに信じられません。
 あの方が、ってしまったなんて。
 ええ。私はセイナ様とは友人……のつもりです。
 今となってはセイナ様がどう思っていらしたのか、わからなくなってしまいましたけれど。
 それにしても、よく私のことがわかりましたね。私たちの関係はあまり知られていなかったと思うのですが。
 どうしましたか? ふふ……かつての貧乏貴族と公爵令嬢の組み合わせは意外という顔ですね。
 でも本当なんですよ。
 私たち、王都にある図書館で知り合ったんです。
 当時の我が家はとんでもない財政難で、私にできることといえば、少しでも教養を身につけ、良い縁談先を探すことしかなかったんです。
 私はいつもそこで勉強をしていたんですが、ある日そこにセイナ様がいらっしゃったんです。
 古い式典について学ぶためとおっしゃっていました。
 最初はセイナ様だとはわからなかったんですよ。
 あの美しい金色の髪を左右で三つ編みにして、眼鏡をかけて、大人しい色合いのワンピースに身を包んでいらっしゃったわ。裕福な商家のお嬢さんかと思いましたもの。
 でも所作や言葉遣いがとても洗練されていて……
 決定的だったのは、そばに控えていらした護衛の方ですね。
 服装は普通でしたが、腰に下げた剣にイゾルデ公爵家の紋章がありました。
 ふふ。私、勉強しか取り柄がないので国中の家紋を覚えていたんです。誰にお会いしても失礼がないようにと思って。
 まさか未来の王太子妃様に巡り合うことになるとは思いませんでしたが。
 ……懐かしいです。
 あの頃のセイナ様は、いつも優しく微笑んでいらっしゃった。
 私を友人だと呼んでくださり、勉強の合間には一緒にお茶を飲みました。
 そうですね。言ってしまえば、気が合ったのです。
 身分差がありますし、セイナ様はお忙しい方なので表立って交流することはあまりありませんでしたが、同じ学園に通うとわかった時はお互いに手に手を取って喜びました。
 今よりもずっと一緒にいられるって。
 どうしました? そんな難しい顔をなさって。
 私とセイナ様が友人なのがやはり不思議ですか?
 誤解のないようにお伝えしておきますが、私は一度たりともセイナ様になにかを頼んだりねだったりしたことはありません。
 決してあの方を利用しようだなんてしておりません。
 違う? あの……ごめんなさい。
 利益を得るためセイナ様にびを売っているのだろうなどと言ってくる人たちばかりで、あなたもそうかと……
 …………
 失礼しました。
 いえ、私が無礼だったんです。
 セイナ様のことで、まだちょっと気持ちが落ち着かなくて。
 わかってくださいますか?
 ……ありがとうございます。
 私たちの関係はあまり知られていなかったので、こうやってセイナ様のことを話すのは久しぶりすぎて。
 はい。はい……ええ、そうですね。
 では順番にお話ししましょうか。
 偶然出会った私たちは、生まれゆえに自由にならないことが多すぎるという共通点がありました。
 家のため、家族のために、自分を犠牲にするしかない人生でした。
 私が王都に来たのは、良い縁談を探すためだったのです。
 持参金を必要としない……可能であれば私を高く買ってくださる方をね。
 そんな顔をなさらないでください。貴族の娘なら当然のことですわ。
 家のためなら、どのような相手とも結婚する。そうでしょう?
 学園に入ったのもあの学園の卒業生というはくをつけるためでしたから。
 ですが幸運にも我が家は鉱脈を掘り当てました。
 セイナ様は、私の家族以上に喜んでくださいました。
 もはや学園に通う意味はなくなりましたが、セイナ様と同じ学びで過ごせるのならばと残ったのです。
 ですが、セイナ様は変わってしまわれた。
 これまでのお姿がかすんでしまうほどに。
 …………
 あの……もしかしてなぜセイナ様が変わってしまったのか、もうご存じなのでは?
 ……ああ、やはり。公爵家で既にお話を聞いていらっしゃったのですね。
 そうです。セイナ様が変わってしまったのは全て父親であるイゾルデ公爵のせいです。
 公爵はセイナ様を道具としか思っていませんでした。
 いつも厳しく無理難題を押しつけて……証明する術はありませんが、セイナ様の腕にはいつも細かいあざがありました。なにも教えてくれませんでしたが、きっと……いえ、やめておきます。憶測でものを言うのは良くないことですから。
 でもこれだけははっきり言わせてください。
 イゾルデ公爵はおかしいです。あんなに美しく聡明なセイナ様をいつも不出来だと言ってなじるのです。
 セイナ様は国内で一番と言ってもいいほど洗練された令嬢だったのに……サイラス殿下のお好みに合わせると言い出して、お化粧や髪型、ドレスまで勝手に決めるようになったとセイナ様は嘆いていました。
 お出かけする時も、こっそり我が家で着替えたらどうかとお誘いしたこともあったのですが、もし公爵に事がけんして私に迷惑がかかってはいけないと。
 ひどい話ですよね。
 コルセットだって元々とても細いのにそれ以上に締めつけた上に、小さな足のほうが可愛いからとサイズの合わない靴をかされて……一度、一緒に参加した夜会で倒れたことがあったくらいなんですよ。
 セイナ様はとても苦しそうで、挨拶に来る令嬢たちに答えるのも辛そうでした。
 なにも対処をしなかったのかって?
 逆に伺いますが、私たちになにができたと言うのでしょうか。
 あの方は……セイナ様は、公爵家のためにあれとずっと教育されていらっしゃいました。
 公爵に逆らうなんて、想像もしたことがなかったのではないでしょうか。
 ああ……でもたった一度だけ。
 私が知る限り、一度だけセイナ様が人前で公爵にご意見なさったことがありましたわ。
 とある邸宅で開かれたお茶会のことです。
 私は別の友人に誘われて偶然居合わせただけなのですが……その会に参加していたとある令嬢が、すっかり様子の変わったセイナ様にとても驚かれて、コルセットや靴のことにも気づかれて。
 それで公爵に、これはあんまりではないかとおっしゃったのです。
 驚きますよね。私もとても驚きました。
 王家に次ぐ地位をお持ちの公爵に、一介の令嬢が意見するなど。
 公爵は随分と怒ってらっしゃって、その令嬢の家に圧力をかけるというようなことを言い出したのです。
 ええ、許されないことですわ。でも周りは誰も止めなかった。
 その時、セイナ様が公爵に向かって声を上げたのです。
『やめてください』と。
 りんとした声でした。
 公爵はセイナ様の声で我に返ったのか、それ以上はなにもおっしゃいませんでした。
 令嬢も私も、周囲もほっとしたのを覚えております。
 それで終わったのかって? まさか。公爵にお会いになったんでしょう?
 あの方は地位や血統に誇りをお持ちでしたから……結局、その令嬢のご一家は事業が立ち行かなくなって領地の一部を手放したと聞いております。あまりお付き合いがない方でしたので、それ以上のことは、私も存じ上げませんけれど。
 内々の集まりだったこともあってあまり知られていない話かもしれませんが、事実ですわ。調べていただいても構いません。
 セイナ様はひどく取り乱しておいででした。
 そして私にこうおっしゃったんです。
『もう私に関わってはいけない。人前では他人でいましょう』と。
 どんなお気持ちでそうおっしゃったのかはわかりません。とても辛そうでした。
 それからです。セイナ様が悪女だと噂されるようになったのは。
 手紙を送っても返事を頂くことはなくなりましたし、学園で顔を合わせても目をらされることが増えて。
 ……守って、くださったのだと私は思っています。
 でも、先ほども申しましたとおり確かめる術はもうありませんから。
 はい。私も学園に通っていました。
 ああ……ダンスパーティで起きた事件ですね。あの、子爵家の令嬢が遅れていらっしゃった。
 覚えてますわ。パーティが終わる直前に飛び込んできた方でしょう?
 あろうことかサイラス様にしがみついて泣きはじめて……私をはじめとした女生徒たちは随分としらけた気分になっていましたよ。
 だってそうじゃないですか。サイラス殿下の婚約者はセイナ様です。だというのに、さも自分のほうが優先されると信じ切っていて。
 …………言葉が過ぎましたね。失礼しました。
 あの時は、かなり騒ぎになっていました。
 サイラス様は彼女につきっきりで、セイナ様には見向きもなさいませんでした。
 人前では関わるなと言われていたので会場の外でこっそり声をかけたのですが……セイナ様もひどく傷ついていました。
 考えてみてください。本当の自分とは違う自分を装って生きることを強要されて、婚約者からさえ大切にされない。
 じゃあ、セイナ様はなにをり所にすればよかったんですか?
 それにあの婚約破棄だって。あんなの……あんなのあんまりですよ。
 私だってもし同じ立場だったら……
 セイナ様は本当に優しくて清廉な方だったんです。
 自分のことよりも周りの人たちのことを誰よりもなによりも大切にする、素敵な方でした。
 真面目で不器用で……そして…………とても一途な方でした。
 どうしてあの方があんな選択をしなければならなかったのか。
 私はとても悲しいし、悔しいのです。
 セイナ様は誰よりも幸せになるべきだったのに。
 ごめんなさい。お見苦しいところをお見せして。
 いえ。あなたに言うようなことではありませんでした。本当にごめんなさい。
 信じられないって顔ですよね。ええ、わかります。
 私だってあなたの立場なら信じられないと思いますから。
 他に生前のセイナ様を知る人ですか?
 …………でしたら、セイナ様がよく通っていた養護院に行ってみてはどうでしょうか。
 きっとなにかわかると思いますよ。
 あとで住所をお教えしますね。
 とんでもない。全てはセイナ様のためですもの。気になさらないで。
 来てくださって嬉しかったですわ。
 ええ。またなにか聞きたいことがあればいつでもいらしてください。
 お待ちしていますね。


   ***


 エルビ家を出た時には、空はすっかり暗くなっていた。
 待たせていた馬車に乗り込んだアリアはゆっくり座席に腰を下ろし、全身を包むけんたいかんに長い溜息を吐いた。
 ドアが閉まると、間もなく馬車が走り出す。
 窓の外から空を見上げると、夜空には星が瞬いていた。
 全て同じに見えるが、よく見れば大きさも色も違うのだと、昔教えてくれた人のことを思い出す。

「さて、どうしたものかしら」

 呟きながらポケットから取り出したのは、一冊の手帳だ。
 表紙を開くと、最初のページに書かれた文字が目に入る。
 サイラス、ルビー、公爵、ライラ。
 今日、アリアが話を聞いた相手の名前だ。
 父から呼び出されたあの日、アリアは父から一つの提案を受けた。


「お前が隣国に留学したがっているのはわかっている」

 冷静すぎる言葉に、アリアは息を呑む。
 まさかそこまで悟られていたとは思わなかった。

「だが未婚の貴族令嬢を理由なく国外に留学させることは、現状では難しい」

 続けて告げられた言葉は、ずっと前から想定していたものだ。
 いくら大らかなお国柄とはいえ、若い女性が一人で国を出ることをよしとするほどのほんぽうさはない。

「……わかっています。でも」
「人の話は最後まで聞くものだ」

 ぴしゃりと告げられ、アリアは口をつぐむ。

「…………アリア。私はお前の勤勉さも、その理由も知っている。お前を止めたいとは思っていない」
「えっ?」

 てっきり反対され、ぐうの音も出ないほどやり込められると思っていたのに、続けて告げられた父の言葉はアリアの予想を大きく裏切るものだった。

「お前が私の代わりに動いてくれるなら、その願いを叶えてやろう」

 驚きのあまり言葉を失ったアリアは父をぎょうする。
 聞き間違いかと思ったが、その表情は真剣そのもので、どうやら本気らしい。
 留学の意思を認めるだけではなく、願いを叶えようとしている。
 嬉しさと混乱で頭が真っ白になるが、アリアはようやく父の言葉の全てを理解して我に返った。

「待ってください。まさか私にセイナ様の死の真相を探れと?」

 父の代わりに動く。
 それはこの告発文について調べろということだろう。
 さすがに自分の手には余る。青ざめるアリアに、父はゆるく首を振った。

「そうではない。お前には関係者に話を聞いてきてほしいのだ」
「話?」

 父の提案の行き先がわからず、セイナは首をかしげる。

「告発文の内容を信じないのですか?」
「残念だがセイナ殿の死に関してはもう結論は出ている」

 父はそう言いながら一枚の紙をアリアに差し出した。

「これはセイナ殿が亡くなった時に医師が書いた診断書だ」

 王家の紋章が描かれた書類には、医師のサインとともにセイナの死についての詳細な記録が書かれている。
 セイナが毒を飲んだのは、部屋付のメイドが部屋を出ていったほんの数分の間に起きたこと。
 部屋に出入りできる唯一の扉の前には数名の護衛騎士がおり、誰の出入りもなかったこと。
 窓の外にも警護の兵士がおり、外部からの侵入は不可能だったこと。
 遺体に拘束された痕などはなく、眠るようにベッドに横たわっていたこと。

「この件に関しては私も実際に調査に参加している。あれは誰かの手によるものではない。セイナ殿は自分の部屋で一人きりになり、自分で毒を飲んだ。これは事実だ」
「……毒だと知らずに飲んだ可能性は?」

 わずかな可能性を信じるように問いかけたが、父はゆるく首を振った。

「彼女が飲んだ毒は、王家に伝わる秘毒。王族、特に女性は有事の際に生きているよりも辛い目に遭う可能性があるとして、苦しまずにける即効性の毒を持たされる。セイナ殿が飲んだ毒は、そういうものだ」

 ひゅっと喉が鳴った。
 王家に連なる女性である覚悟を示すために持つ毒。
 それでセイナが死んだというのならば、なんと皮肉なことだろうか。
 しかし、それはおかしいとアリアは声を上げた。

「待ってください。彼女はまだ婚約段階だったはずなのに、なぜ毒を……」
「婚約が決まった時に、王妃様が密かに渡していたらしい。嫁入り前であっても婚約者という立場であれば狙われる可能性があるからと。王妃様は彼女の死因を知って、とても悔やんでおられる」

 普段滅多に乱れることのない父の表情が苦々しくゆがんだ。

「婚約破棄の宣言がなされた時点で回収しておけばよかったものを。せめて他の毒で死んでくれれば……」
「お父様」

 さすがに言葉が過ぎると鋭い声を上げると、父は口をつぐんだ。
 父の言いたいこともわかる。
 王太子により婚約破棄された女性が、王家にのみ伝わる毒で死んだ。
 それが表沙汰になればどんな騒ぎになるか。

「……とにかくだ。彼女の命を奪った毒が毒だけに、調査は厳格かつ正確に行われている。セイナ殿は自ら毒を飲んだ。これだけは間違いようのない事実だ」
「誰かに脅されていたとか……」
「そこまではわからない。だが父親であるイゾルデ公爵の証言に寄れば、彼女は婚約破棄されてから一度も外部とは連絡を取っていない」

 ずっと部屋の中に閉じ込められていたセイナを誰がいつ、どうやって脅すというのか。

「周囲にいた者たちからも話を聞き、証明はされている。なにより、毒を飲むという選択をしたのはセイナ殿自身であることは疑いようがない。ゆえに王家は彼女の死を自死だと発表した」
「…………」

 はっきりと言い切られ、アリアは唇を引き結ぶ。
 自ら毒を飲んだセイナ。
 それを否定するかのように届いた「殺された」という告発文。
 いったい彼女の死にはどんな謎が隠されているのか。

「国としてはこれ以上の騒ぎが起きるのは避けたい。ただでさえセイナ殿の死で王太子殿下には非難の声が集まっている。もし他殺だったという話まで広まれば、収拾をはかることは不可能だろう」
「……そうですね」

 下手をすれば王太子がセイナ殺害を命じたなどという噂にまで発展しかねない。
 そんなことになれば外交にまで影響が及ぶことは間違いないだろう。

「だからこそ、この告発文を書いた者を見つける必要がある」

 父の表情は真剣だった。
 王家の威信に関わる。
 アリアにもそれは理解できる。

「それはわかりますが、そんな大それた調査をなぜ私が」
「犯人については私のほうでも追っている。だが、行き詰まった」

 疲れの滲んだ目線の先には告発文があった。

「この告発文は外部から届いたものではない。陛下へ届いた手紙は必ず中身を確かめてから執務室に運ばれる決まりだが、この手紙は封が開けられていなかった」
「では誰かが執務室に侵入した、と?」

 それこそ一大事ではないかと慌てると、父がゆるく首を振る。

「そうではない。最初に手紙を確認する場所から執務室に運ばれる最中に何者かが紛れ込ませたのだろうと考えている。その日は陛下への謁見者が多かった。その中の誰かによるわざである可能性が高いが、特定は難しいというのが結論だ」

 どうやらアリアにこの話が来るまで紆余曲折あったようだ。
 父の苦労をおもんばかりながら、アリアは言葉を選ぶように視線を落とす。

「悪戯の可能性は?」
「悪戯にしては度が過ぎている。放置するわけにはいかないだろう」

 アリアは告発文をじっと見つめる。
 筆跡はいびつではあるものの、上品さを感じさせる線で書かれた文字だった。

「紙とインクの出所は部下に調べさせている最中だが、その線はあまり期待するな。高級なものではあるが、金さえあれば買えるものだからな」
「そう、ですね……目新しいものではないようですね」
「セイナ殿の死を利用して王家をおとしいれようとする何者かの策略か、それともセイナ殿の死にわだかまりを持つ何者かの叫びなのか……それすらもわからない。だからこそ、犯人を突き止める必要がある」

 父の言葉はもっともだ。放置すれば良くないことが起きる。
 そんな予感が胸を満たす。

「王家をおとしいれようとしているのならば、これは政治的暗躍だ。私が処理できる。だが後者ならば別だ。個人の感情ほど読めないものはない。だからこそ、お前に協力してほしいのだ」
「それで、関係者に話を……」
「ああ。生前のセイナ殿に深く関わっていた者たちの様子を確かめてきてほしい」

 ようやく父が自分を呼び出した理由がはっきりした。


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