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しおりを挟むその日も、夜遅くローガンはレナの寝台に入り込んできた。
てっきりいつものように抱かれるのかと思ったが、ローガンはレナの身体を腕の中に閉じ込めるとすぐに眠ってしまった。
抱きしめられるだけの夜は初めてだった。
鼻に付く酒の匂いに、彼がかなり酔っていると気が付く。
規則正しい寝息を立てる腕の中で身をよじって隙間を開け、眠るローガンの顔を見上げれば鼻先と目元が酷く赤かった。
もしかしたら泣いていたのかもしれない。
手を伸ばし、レナはローガンの頭を撫でていた。
硬そうに見える髪は触れてみれば柔らかく、心地よい感触だった。本当に大きな獣を撫でているような気分になる。
苦しそうに皺を寄せた眉間に指を滑らせて何度か撫でれば、険しい表情が少しだけ緩んだ気がした。
「レナ……」
「っ……!」
眠っているはずなのに名前を呼ばれ、レナは自分の心臓が大きく跳ねるのを感じた。
淡い期待が頭をもたげる。もしかしたら、自分はただの囚人ではなくなりかけているのかもしれない、と。
身体を気に入ってくれているだけかもしれない。ほんの一時の遊びなのかもしれない。
それでもいいと思えるほどにローガンの腕の中はただ暖かかった。
レナの心が変ったからなのか、他の理由があるのか、ローガンはその夜からレナを手酷く抱くことはなくなった。
口汚く領主たちの横暴を暴き立て、居場所を問い詰める事も減った。
その代り、レナの理性をぐずぐずに溶かすような執拗で甘い行為を繰り返す。
まるで愛されていると錯覚するような行為の中で、レナはずっとこんな生活が続けばいいと思っていた。
王の命令で数日砦を空けると知らされたレナは、不安と心細さから初めて自らローガンの身体にすがりつく。
何も願うことも伝える事も出来ないレナに、宥めるような優しいくちづけが落された。
物言いたげなローガンの片目を見つめ、レナはその腕にもたれかかって別れを惜しんだ。
ローガンが不在になってもレナが部屋から出る事を許されたわけではなく、顔を合わせるのは世話を焼いてくれるメイドひとり。
だが、主が居ない気安さからか彼女はようやく口をきいてくれるようになり、しきりにレナの事を案じてくれた。
そしてどうか、ローガンを恨まないで上げてほしいと訴えた。
「将軍様もお可哀相な方なのです。彼もかつてあの領主が治める土地に住んでいた際、家族や大切なものを全て奪われたそうです。あの髪や片目も、本来ならば薬で治るような病だったのにろくな治療も受けられずあのような……必死に努力なさって今の地位を手入れられたのです。そして、あの領主に必ず報いることを目標にされていました」
「そう……なの」
ローガンの過去を知ったレナは、彼がなぜあそこまで自分を執拗に攻め立てたのかを理解できた気がした。
同じように虐げられる立場だったレナが、領主の傍でぬくぬくと生きてきた事が許せないのだ。
そんな思いを抱える彼に愛されるわけなどないと気が付いたことで、自分がローガンを深く愛し始めていた事を思い知らされた。
身体から始まったとはいえ、あそこまで誰かに必死に求められた事などなかったレナは、ローガンに心を奪われていたのだ。
(私が領主たちの事を知らないと言い続けていれば、その間はローガンさまの傍にいられる……?)
ほの暗い感情に苛まれながら、一人ローガンの帰りを待っていた。
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