お助けキャラは変態ストーカー!?

雪音鈴

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サブイベントep1

第39変 飲み物フウフウは俺の特権!

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「ルチア、本当にココアで良いの? 君が大大大好きなイチゴミルクもあるよ?」

「うん、今日はなんだかココアの気分だから――」

 カウンター式のテーブル席に落ち着くと、シェロンはさっそく空中に浮かんでいる巻物から垂れている赤い紐を下へと引っ張り、注文用のモニターを展開した。

 当然のように私の左隣に座った彼は、まるでスマホ画面を操作しているかのような指使いで注文を行っている。おずおずと私の右隣に腰を下ろしたシアンは空中に浮かんでいる巻物に興味があるらしく、赤い紐を何度も引っ張り、モニターを展開させたり元の巻物の状態に戻したりを繰り返している。

「これなら空中に浮かんでるし、邪魔にならなそう……研究の時に使おうかなあ……」

 シアンがボソボソとそう言って巻物に付加されている魔力術式を熱心に解読している様子を微笑ましく思って見つめていると、左隣からポーンという間の抜けた音が響き、テーブル奥の魔力術式上に透明な半球の膜が現れた。私がぼうっとしている間にシェロンが注文を完了させてくれたらしい。

 半球の中ではすでに光の粒子が中心に集まり、白いカップが形成されていた。電子レンジのようなチーンという音が聞こえた後、シェロンが慣れた様子でその半球の膜に触れる。膜はシャボン玉が割れるように弾け消え、それと同時にふわりと優しくて甘やかな香りが漂ってくる。

 飲み物や食べ物を提供してくれる転送装置や注文用モニターの動力源はもちろん魔力だが、目の前のベルトコンベアで流れていくお皿に乗った料理達や注文品が特急でくる様子などを見ていると、完全に回転寿司だから笑ってしまいそうになる。まあ、回ってるのはお寿司だけじゃないけど……。

 私はココアの香りを堪能しながら、可愛い学生達からもらった黒いカード――『前期分食堂優先無料権』をテーブルに置いた。

(本当はお礼なんかいらなかったんだけど……なんだかあの子達に押し切られちゃったなあ)

 助けてもらったのだからお礼をしたいとグイグイ迫ってくる学生達の気迫に負けてしょうがなく(正直、あの不良学生達(?)よりもあの子達の方が押しの強さがすごくて扱いに困った……)カードを受け取ったが、それを使うのは今日の夕食限りにして後で返しに行くという条件を出した。

(さすがにあの1回だけで前期分食堂優先無料権は重すぎるし――そもそも、私が勝手にやったことだから見返りなんか求めてなかったのになあ……)

 現在手元には、桃色の歪みのないハート型の紙――それからは、ラメのようなキラキラが定期的に周囲へと飛ぶという少々目に痛いエフェクトが付いていた。

(結局、連絡先までもらって――面倒事増やしちゃっただけな気がする……)

 カードを後で返しに行くと聞いた途端、何故かやたらとキャピキャピした声をあげながらあの子達は連絡先を教えてくれた。魔力を練って桃色の紙を作り出し、その上に置いた指先に魔力を集中させることで金の文字を綴ったあの子達の手際はとても良かった。

(それにしても……)

 手元に残ったキラキラ――いや、もはやギラギラ(?)の紙に思わず引いてしまっていて黒いカードの存在が一気に希薄になってしまっていたが――

(この黒いのが【特別優遇】なんだよねぇ……これを持ってたってことは、あの子達は何かの分野でトップクラスってことで――うん、やっぱりすごいなあ)

 【特別待遇】は、【成績優秀者】が行使できる特権の1つだ。

 【成績優秀者】にはいくつか行使できる特権があり、成績優秀者に選ばれた者はその中から自分が欲しい特権を新世校しんせいこうへと申請し、許可がおりれば行使できる仕組みである。

 ちなみに、シアンが自分専用の研究室を持っているのもその特権が適用されているからだ。他にも空中庭園を持っている生徒や隠し部屋を作製している生徒もいるらしい。ちなみに、前半はゲーム知識、後半は食堂で聞き耳を立ててゲットした噂だ。

 このような【成績優秀者の優遇】こそがこの新世校の特徴であり、より能力を伸ばして良い待遇を得ようと学生達が躍起になっている要因でもある。まあ、さっきのあの子達みたいに他学生との衝突を引き起こすこともあるし、優遇を略奪する輩もいるらしいから争いの火種であるともいえるが……新世校はそれも含めて学生を強くするために必要なこととして【優遇制度】を設けているようだ。

(自分の身くらい自分で守れなくちゃ社会に出てやっていけるわけがない――か。確か校則に書かれてたよね……おかげで、ゲーム内でいくら学校に助けを求めてもダメって設定が……)

「はい、ルチア。ココア、良い感じに冷ましたよ!」

 シェロンに差し出されたカップを片手で受け取り、『リヤンの通信番号』と書かれた桃色の紙をそっとポケットに仕舞い込む。

「ありがとう、シェロン」

 そうして流れるような動作でカップに口を付けようとした瞬間、ハッとする。

(何、ナチュラルにシェロンが飲み物冷ましてくれるの待ってたんだよ、私は!!!)

 一度カップを置き、わざとらしく咳払いをしながらこの状況が日常になっているのはおかしいのだと心に刻み込む。私の様子を見たシェロンが指先の魔力を軽く操り小首を傾げる。

「ルチア、どうしたの? まだ熱かった? もう少し冷まそうか?」

「いや、温度はちょうど良さそうなんだけど、問題はそこじゃない」

「???」

「シェロン、毎回言ってることだけど……わざわざ魔力使ってまで冷まさなくてもいいから。置いとけば自然に冷めるし」

「俺が勝手にやってることだからルチアは気にしなくていいんだよ」

 頬を染めて蕩けるような笑みを浮かべる彼に、深いため息をついてしまう。

(このままだとマジで全部シェロンがやってくれちゃいそうで怖いわあ……早々にどうにかしなきゃいけないのに、こいつサラッといろんなことこなしちゃうからなあ……)

「むしろ、俺の魔力を枯れるまで使ってほしいくらいだよ。俺は君の願いならどんな些細な願いですら全部叶えてあげたいんだ。ああ! でも、願いを叶えられずお仕置きされたい欲求も……クッ、この相反した気持ちがたまらなくもどかしいよ、ルチア!」

 ハアハアと荒い呼吸を繰り返しながら腕で自分を抱きしめるようにして身悶えている彼の動きに正直どん引きだが、最近慣れてきたせいか鳥肌は立たない。

「君になら俺の魔力を全部あげられるよ! さあ、ルチア、俺のを最後の一滴まで搾り取ッ――」

 シェロンが全てを言い終わる前に、彼の額に深々と針が刺さった。針からは赤い煙が不穏な音を立てながら出ているが、臭いはない。

(食事中だから気を遣ってくれたのかな……)

 思わず針を飛ばした犯人――シアンを見やると、彼はハッと一瞬だけ驚きの表情を見せた後、瑠璃色の瞳を大きく揺らした。

「あ、ルルル、ルチアーノ、いいい、いきなり物騒なことしてごめんね……その、い、いつもはこんなじゃないんだよ? 僕、ちゃんと良い子にしてるよ? ただ、なんだかあまりにも雑音が酷すぎて、それで――」

「雑音なのはお前の方だろ? 根暗――」

 左隣から地を這うような声と共にバキリと針が折れるような音が聞こえた。ほのかに香った鉄臭さから、左を見ればきっとスプラッタ的な光景が広がっていることが予想できたので、そちらを見るのは極力避けたい。

(さすがに食事時にスプラッタは勘弁してほしいよね……うん。あ、今日のメイン、お肉料理にしよう。美味しそう)

 シアンとシェロンの言い争いはまだ続いていたが、私は上に浮かんでいる丸い鏡のようなモニターに映し出されているオススメ料理を眺め、そっとココアを口に含んだ。私好みの程よい温かさと甘さが口内にじんわりと浸透し、幸せな世界が広がる。

(そういえば、ハティ先生のところで飲んだココアはこれよりもちょっと苦味が強かったかも……)

 ココアの甘さの中に少しだけ広がる苦味がなんだか癖になるような味わいは、どことなくハティ先生本人のような雰囲気があった。

(あれが大人の魅力ってやつなのかな?)

「ぼ、ぼぼぼ、僕だってルチアーノのためなら飲み物を冷ますことくら、あ――」

 私がココアを堪能している間にも彼らの言い争いはヒートアップし、シアンはまたシェロンの挑発に乗ってしまったらしい。

 彼はベルトコンベアで流れてきた白いカップを乱暴に引っ掴み、魔力を流し込んだ。その瞬間、カップは焦げたような不快な臭いを発し、粘性の高いドロリとした液体に変化した。

 慌てるシアンはなんとか体制を立て直そうと魔力を流し込み続けたが、その甲斐かいむなしく、飲み物と混ざったその液体はベチャリとテーブルに落ちた。シアンの手には難を逃れたらしい白い取っ手だけが残っていた……。

「根暗、お前の得意属性は水と光――火属性の魔力の扱いは専門外で繊細な扱いには慣れていないことはもうとっくに分かっているさ」

「うっ、うぅぅ――」

 シェロンに言い返す言葉が見つからなかったらしいシアンは、悔しげに唇を噛みしめ、テーブルに落とした汚れを布巾でゴシゴシと乱暴にこすっている。その様子を満足げに見ているシェロンは何故か妙に得意げな笑み……。

「フッ――ルチアの飲み物をフウフウするのは、ルチアから与えられた俺だけの仕事――いや、特権なんだ! どうだ、羨ましいだろう!!」

「私、そんな仕事与えてないし、なんだか気持ち悪い話になってるから、フウフウとかいう言い方やめような!?」

 ツッコミをいれつつ近くにあった布巾を手に取り、シアンの服の裾を掴む。

「シアン、服にもはねてるからジッとしててね」

 自身の魔力を流し込むと布巾がじんわりと温かくなり、シアンの服についた汚れを綺麗にしていく。食堂の布巾には火と水の属性が付加された魔力術式が組み込まれているため、魔力を流し込むだけで頑固な汚れも落としてくれる。

「ルチアーノ、そ、その、僕ならだい、大丈夫、だから!」

「良いからジッとしてて……」

 顔を真っ赤にしながら体を硬直させているシアンがなんだか可愛らしくて、私は思わず優しい笑みを浮かべた。

(ああ、なんだか、あの双子達を思い出しちゃうなあ……)

 こうして誰かの世話を焼いていると、どうしても獣人の村で面倒をみていた双子を思い出してしまう。

(また何かイタズラして村の皆を困らせてなきゃいいんだけど――)

 村に残してきた双子のことを心配しながら最後にポンポンッと乾いた部分を軽く払うと、シアンがビクリと飛び跳ねた。

「はい、できたよ、シアン」

「あ、その、ルチアーノ、あり、ありが――」

「ルチア」

「ん? 何? シェロ――」

 か細いシアンの声を遮り、いつになく真剣な様子で私の名を呼ぶ彼へと視線を移し――私は一瞬だけ言葉を失った。
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