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サブイベントep1
第35変 色気より食い気
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「先生はね――どっちの派閥も信仰していないんだ」
その言葉に、思わずズッコケそうになる。
「変に含みあるような反応しないで下さいよ! 心臓に悪いじゃないですか!! 危うく先生殴って逃走するところでしたよ!?」
「いやあ、ごめんごめん――って、なんだか後半物騒だったねぇ。でも、君が聞いてきた質問なのに随分と興味がないみたいだったから、ついついイタズラしたくなっちゃった先生の気持ちも分かってもらいたいなあ」
「へ!? い、いや、べべべ別に興味なかったわけじゃないですよ! 決して! そう、苦し紛れの質問とかじゃ――」
(あ…………また、いらんことを――私ってバカなの!?)
「うん、そんなところだと思ってたし、そんなに焦らなくていいから。ああ、でも、さっきの答えに一つだけ修正を加えておこうかな……」
「??? 修正――ですか?」
「そう、修正。先生、実はちょっと最高創造主が嫌いだったりするんだよね」
「最高創造主って――博愛主義者で良い人そう……じゃなくて、良い創造主(?)そうな創造主様ですよね?」
「そうだね、確かに良い奴なのかもね……でも、博愛主義ってのは皆を愛していると言いつつも、結局は誰も愛していないのと同義だ」
「え――?」
先生の黄色の目が仄暗く光る。
「だってそうだろう? 皆等しく愛おしい。優劣がつけられないってことだから……ね。だから、先生は誰かを特別にしない博愛主義ってのは嫌いだよ。そう言った面では、その左翼や神の方と意見が合いそうだ」
「神……神様も博愛主義じゃないんですか? 神様は博愛主義者の最高創造主様に作られて――」
「フ、ハハ――神が博愛主義者とは面白いね」
先生がおもむろに立ち上がり、書類の横に置いてあった赤い缶を開けた。缶からわずかに漏れ出た魔力から、どうも時間凍結の魔術式を施していたらしい。高度な魔術式をおもむろに解除した先生の行動に首を傾げつつ、続く先生の話を大人しく聞く。
「神は偏った愛しか紡がない。自分の気に入った奴にだけ優しくって、それ以外は勝手にしてくれって思考の持ち主。神は――間違いなく独愛主義の狂った奴だよ」
「……まるで、神様を知っているみたいな言い方ですね」
「ああ、そうだね、神のことはよく知ってる……きっと今もお気に入りの誰かを見ていて、こうやって――」
「!?」
テーブルに軽く手を付き、グッと距離を詰めてきた先生にどう反応していいかわからず(先生なので命の危険がない限り殴るわけにはいかない)に驚いていると、無駄のない鮮やかな手際で先生の指先が私の唇に触れた。次いで、口の中に小さくて丸い何かが入ってきたことに二度目の驚きを感じる。
「特別に扱ってるんだろうよ?」
そう言って大人の魅力たっぷりに微笑まれたせいで(しかも、至近距離!)、そういったモノに耐性のない私の心臓が飛び出しそうなほどに急速な音を立てている。最後にオマケとばかりに唇をふにっと押され、一気に血が沸騰したように熱くなった。
「な、ななな、何やってくれひゃってるんでふか、先生!?」
「うん? 片付けを手伝ってくれたお礼と質問に来た勉強熱心な学生へのご褒美ってところかな?」
ニヤリと笑い、彼は指先をペロリと舐めた。
(だ・か・ら、何やってんじゃい、この先生は! それ、私の唇触りやがった指っしょ!? 変な色気出すなや、このイケメンエロ教師!!!)
「特別に――甘いだろ?」
その言葉に、ようやく口の中に入ってきた何かからじんわりと甘くて優しいイチゴミルクの味がした。
(こ、これは――!?)
舌の上で転がすと、ホロリと崩れるように溶けてしまったが、その絶妙な口どけ具合に思わず頬に手を当て、目を輝かせてしまう。
(わあ、めっちゃ美味しい!!! ああ、このイチゴの甘酸っぱさをまろやかに優しく包み込むミルクの甘さがもうたまらな――ん? あ、れ――? ちょっと待てよ。これ、前にもどこかで……?)
ふと、口の中に広がる味に懐かしさを感じてしまい、一瞬だけ思考がトリップしてしまう。
(前――前って……いつだ?)
「お気に召したようで良かったよ」
近くで聞こえたイケメンボイスに驚き、急いで思考を手繰り寄せると、優しげに目を細めた先生の綺麗な顔が目の前にあった。
(ハッ――今問題なのはどこで食べたかなんじゃない……)
「せ、先生――」
「ん――?」
小首を傾げ、甘い笑顔で返事を返してくれた先生に私はズイッと詰め寄る。
(そう、今問題なのは――)
「この飴の入手経路はどこですかっ!? 私、この味大好きなんです!!」
(今問題なのは、この飴が今後も食べられるかどうかだ!!)
私の言葉に先生がその長いまつげを何度か瞬かせている。うん、珍しいところを見た気がする。先生はどうやら驚いているようだ。
(――って、そりゃ、先生も驚くでしょ! 何聞いてんのさ、私!? そもそも食べ物に釣られちゃダメっしょ!?)
「入手経路ねぇ……そうだな、飴が欲しかったらいつでもおいで。先生がまた、特別に甘いのをあげるから――」
最後に間近で色気たっぷりに微笑まれ、またもや真っ赤になってしまったが(よくよく考えたらズイッと近付いたのは自分なのでただの自爆)、私の中では現在、あの甘くて美味しくて……何故だかすごく懐かしい飴の魅力の方が大きいようだ。先生の妙な色気さえ回避できれば、またあの味にありつけるのか――と本気で考え込みながら先生の部屋を後にした。
その言葉に、思わずズッコケそうになる。
「変に含みあるような反応しないで下さいよ! 心臓に悪いじゃないですか!! 危うく先生殴って逃走するところでしたよ!?」
「いやあ、ごめんごめん――って、なんだか後半物騒だったねぇ。でも、君が聞いてきた質問なのに随分と興味がないみたいだったから、ついついイタズラしたくなっちゃった先生の気持ちも分かってもらいたいなあ」
「へ!? い、いや、べべべ別に興味なかったわけじゃないですよ! 決して! そう、苦し紛れの質問とかじゃ――」
(あ…………また、いらんことを――私ってバカなの!?)
「うん、そんなところだと思ってたし、そんなに焦らなくていいから。ああ、でも、さっきの答えに一つだけ修正を加えておこうかな……」
「??? 修正――ですか?」
「そう、修正。先生、実はちょっと最高創造主が嫌いだったりするんだよね」
「最高創造主って――博愛主義者で良い人そう……じゃなくて、良い創造主(?)そうな創造主様ですよね?」
「そうだね、確かに良い奴なのかもね……でも、博愛主義ってのは皆を愛していると言いつつも、結局は誰も愛していないのと同義だ」
「え――?」
先生の黄色の目が仄暗く光る。
「だってそうだろう? 皆等しく愛おしい。優劣がつけられないってことだから……ね。だから、先生は誰かを特別にしない博愛主義ってのは嫌いだよ。そう言った面では、その左翼や神の方と意見が合いそうだ」
「神……神様も博愛主義じゃないんですか? 神様は博愛主義者の最高創造主様に作られて――」
「フ、ハハ――神が博愛主義者とは面白いね」
先生がおもむろに立ち上がり、書類の横に置いてあった赤い缶を開けた。缶からわずかに漏れ出た魔力から、どうも時間凍結の魔術式を施していたらしい。高度な魔術式をおもむろに解除した先生の行動に首を傾げつつ、続く先生の話を大人しく聞く。
「神は偏った愛しか紡がない。自分の気に入った奴にだけ優しくって、それ以外は勝手にしてくれって思考の持ち主。神は――間違いなく独愛主義の狂った奴だよ」
「……まるで、神様を知っているみたいな言い方ですね」
「ああ、そうだね、神のことはよく知ってる……きっと今もお気に入りの誰かを見ていて、こうやって――」
「!?」
テーブルに軽く手を付き、グッと距離を詰めてきた先生にどう反応していいかわからず(先生なので命の危険がない限り殴るわけにはいかない)に驚いていると、無駄のない鮮やかな手際で先生の指先が私の唇に触れた。次いで、口の中に小さくて丸い何かが入ってきたことに二度目の驚きを感じる。
「特別に扱ってるんだろうよ?」
そう言って大人の魅力たっぷりに微笑まれたせいで(しかも、至近距離!)、そういったモノに耐性のない私の心臓が飛び出しそうなほどに急速な音を立てている。最後にオマケとばかりに唇をふにっと押され、一気に血が沸騰したように熱くなった。
「な、ななな、何やってくれひゃってるんでふか、先生!?」
「うん? 片付けを手伝ってくれたお礼と質問に来た勉強熱心な学生へのご褒美ってところかな?」
ニヤリと笑い、彼は指先をペロリと舐めた。
(だ・か・ら、何やってんじゃい、この先生は! それ、私の唇触りやがった指っしょ!? 変な色気出すなや、このイケメンエロ教師!!!)
「特別に――甘いだろ?」
その言葉に、ようやく口の中に入ってきた何かからじんわりと甘くて優しいイチゴミルクの味がした。
(こ、これは――!?)
舌の上で転がすと、ホロリと崩れるように溶けてしまったが、その絶妙な口どけ具合に思わず頬に手を当て、目を輝かせてしまう。
(わあ、めっちゃ美味しい!!! ああ、このイチゴの甘酸っぱさをまろやかに優しく包み込むミルクの甘さがもうたまらな――ん? あ、れ――? ちょっと待てよ。これ、前にもどこかで……?)
ふと、口の中に広がる味に懐かしさを感じてしまい、一瞬だけ思考がトリップしてしまう。
(前――前って……いつだ?)
「お気に召したようで良かったよ」
近くで聞こえたイケメンボイスに驚き、急いで思考を手繰り寄せると、優しげに目を細めた先生の綺麗な顔が目の前にあった。
(ハッ――今問題なのはどこで食べたかなんじゃない……)
「せ、先生――」
「ん――?」
小首を傾げ、甘い笑顔で返事を返してくれた先生に私はズイッと詰め寄る。
(そう、今問題なのは――)
「この飴の入手経路はどこですかっ!? 私、この味大好きなんです!!」
(今問題なのは、この飴が今後も食べられるかどうかだ!!)
私の言葉に先生がその長いまつげを何度か瞬かせている。うん、珍しいところを見た気がする。先生はどうやら驚いているようだ。
(――って、そりゃ、先生も驚くでしょ! 何聞いてんのさ、私!? そもそも食べ物に釣られちゃダメっしょ!?)
「入手経路ねぇ……そうだな、飴が欲しかったらいつでもおいで。先生がまた、特別に甘いのをあげるから――」
最後に間近で色気たっぷりに微笑まれ、またもや真っ赤になってしまったが(よくよく考えたらズイッと近付いたのは自分なのでただの自爆)、私の中では現在、あの甘くて美味しくて……何故だかすごく懐かしい飴の魅力の方が大きいようだ。先生の妙な色気さえ回避できれば、またあの味にありつけるのか――と本気で考え込みながら先生の部屋を後にした。
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