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第2章 深海の檻が軋む時

第30変 いろんなフラグ立ってますよ(後編)

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「ぼ、僕の、お友達になってくれませんか!」

「ほ、へ――?」

 予想だにしていなかった『お友達』という言葉に目が点になり、その意味を理解した瞬間、自分の今までの考えがあまりにも自意識過剰すぎたことに気付き、羞恥に悶える。

(どわあああぁぁ! 私はバカか、つーか、何様だ!? 恋愛脳だったのは私じゃん! 何が恋愛フラグだよ、これ、ただの友情フラグだよ!? うわ、恥ずい……これ、今までの心の声全部なかったことにしないと恥ずか死ぬッ――)

 自分の勘違い女っぷりに片手を額に置いて疲弊していると、シアンが慌てて私に絡めていた手を放し、あたふたとしながら手をパタパタと動かし始めた。

「あ、あの、やっぱり、お友達とか、おこがましいですかね……で、でも、僕、ルチアーノとお、おと、お友達になりたく存じまして!」

 真っ赤な顔で一生懸命言葉を発している彼を見て、私は今までの自身の恥ずかしい考え全てがどうでも良くなり、たまらず笑い出してしまう。

「ああ、もう、シアンってば――私達はとっくに友達でしょ! そもそも、友達じゃなかったら、こうやって毎日のように研究室に遊びに来たりしないって」

「あ、あれ――? そ、そっか……そう、なんだ――」

 そう言ってシアンがはにかむように笑うのを見て、私は苦笑する。

「それよりもさ、シアンがまだ私を友達じゃないって思ってたことの方がショックなんだけど……」

「え!? ご、ごごご、ごめッ――」

 戸惑い焦るシアンがあまりにも可愛くて、私は彼がせわしなく動かしていた手を取り、キュッと優しく握る。

「これからもよろしくね、シアン! ああ、あと、私はシアンが出世しなくてもずっと友達のままだからね!」

 頬を染めたまま目を見開いたシアンに、私はニッコリと笑い、自身の心の内にあった想いをつむぐ。

「だって――友達に損得とかは関係ないでしょ?」

「る、ルチアーノ……うん!」

「ああ、もう、泣かないの! ほら」

 感情が高ぶりいつものごとく涙を零してしまう彼に、私は仕方がないなと笑いながら彼の眼尻に溜まる真珠を優しく床に落とした。その時、あることに気付き、衝撃が体を駆け巡る。

(あ……あれ? そういえば、私、この学校入ってから始めて友達できたんじゃない!?)

 本来のゲーム内であれば、ゲーム開始直後に【クレア】という女の子がルチアの友達になってくれていたはずなのだが……最初は攻略対象から逃げ回るのに必死で、その次は変態から逃げ回るのに必死で――という感じで、そういえば一度も彼女を見かけていない。

 後々は親友ポジションへと昇格する彼女の存在がないことに今更ながら気付き、大きく脱力する。

(と、とりあえず――友達ができて良かったああぁぁ……)

 シアンが泣き止み、研究室を後にした私は、新世校しんせいこうに来て初めて友達が出来たことに浮かれた気分のままシェロンを引き連れて寮へと帰った。

(いやあ、これでボッチ学生生活は回避だね! まあ、シェロンがいるから厳密に言えばボッチではないんだけど、シェロンは友達枠じゃなさそうだし……うん、とりあえず、新世校しんせいこうでの初友達ゲットだぜ☆)

 こうして、私が鼻唄混じりに寮へと帰っている頃、研究室に残ったシアンが一人ガッツポーズをし「よし、まずは友達から」と小声で言っていることを知らない私は、終始ほっこりした気分で夜を過ごした。

 そう、この時の出来事で【いろんなフラグ】がバッチリ立ってしまっていたことに、私は全く気付いていなかった……。
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